特集

THE世界遺産ディレクター座談会

Q:パイロットやガイドの方の話がありましたが、現地で出会った思い出に残っている人はいますか?

THE世界遺産ディレクター座談会

愛場:
オーストラリアの世界最大級の一枚岩「ウルル」(エアーズロック)を取材したときに、先住民アボリジニの方々との貴重な体験があります。「ウルル」には、大昔に先住民アボリジニが描いた壁画が残されていますが、その壁画を描いた人の末裔という男性がいたんです。撮影のとき、「昔、どんなふうに岩壁に画を描いていたか、実演して見せてほしい!」とお願いしました。地面に砂を集め、そこに木の棒で描いてみせてほしいと。ところがアボリジニの男性は何を思ったか、手で砂をかき集めて大きな砂山を盛り上げ、そして指さして、こう言いました、「ウルル!」。それで終わりました(笑)。「え、絵を描くんじゃなかったの?」とスタッフ一同、時間が止まりました。結局、番組では登場しませんでしたが、その老人の得意げな顔が今でも忘れられません。

石渡:
今年行ったタンザニアのンゴロンゴロというところで、すごいレンジャーに会いましたよ。ンゴロンゴロは直径20キロ弱の大きなカルデラの中に独立した生態系を持っていて、数多くの動物が生息している地域なんです。そこでは観光客はオンロードしか行けないところ、特別にレンジャーの車に乗せてもらってオフロードを少し走ってもらったんです。ライオンのプライド(群れ)を見つけたので撮影していたんですが、寝そべってばかりでちっとも動いてくれない。「ライオン、歩いてくれないかなあ」なんて話していたら、同行していたレンジャーが車から降りてライオンのほうに歩いていったんです。そしたらライオンが驚いて立ち上がって歩いてくれました。普通は銃を持って近づくものなんですが、結構至近距離まで武器なしで近づいていて、すごいやつだなと思いました。無謀なだけかもしれないんですけど(笑)。

THE世界遺産ディレクター座談会

尾賀:
インドネシアのロレンツ国立公園での話なんですが、コーディネーションを担当してくれた現地在住の日本人の方が面白い人でした。もう絶滅したと言われているタスマニアタイガーがまだニューギニア島に生息していると信じていて、それを探してニューギニアに移り住んじゃった冒険家なんですよ。まだ見つかっていないんですが、今度タスマニアタイガーをテーマにした物語を発表するそうです。彼はクライマーとしてもすごい人で、極楽鳥を撮影するために20メートルぐらいの木に登ったりしてくれました。

高橋:
僕が忘れられないのは、プリトヴィツェ湖群国立公園に住んでいる老夫婦です。クロアチアは1995年まで紛争をしていて、プリトヴィツェ湖群もその戦闘地域になっていました。そのため、危機遺産になっていたほど。取材中に出会ったある老夫婦に話を聞いたら、その紛争で娘さんを亡くしたということでした。それでもプリトヴィツェに住み続けてきたのは、自分たちの故郷であるから、そしてその悲しい思い出とともに、湖の美しさを伝え続けていきたいからだという話が心に残っています。