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日本の古都スペシャル

古山ディレクターインタビュー

古山ディレクターインタビュー

Q:番組の概要を教えてください

日本の古都スペシャル

古都スペシャル、2週目は京都の二条城をお送りします。 徳川幕府時代を語る上でも重要な存在であった二条城。番組の縦軸としては、どういう目的で京都に造築されたのか、また徳川幕府の歴史をざっくりと紹介しながら、横軸として徳川に深く関わっていた若きリーダー狩野探幽率いる狩野派という絵師集団が描いた二条城二の丸御殿内の障壁画をたっぷりとご紹介するような展開になっています。
そもそも、徳川幕府が成立した際二条城はどうして京都に建てられたのでしょうか? 普通「城」というと、その大半が軍事的な目的で作られる事が多かったのですが、二条城の場合は政治的な目的でどうしても必要な城だったのです。もちろん、当時は皇室が京都にありましたから、将軍が上洛する時のための宿所としての必要性もありました。ですが、それよりも皇室に対する警護の目的と監視する目的の方が強く、幕府の権威を示すという政治的戦略で作る必要があったということなんです。
そんな徳川幕府が作り上げた権力の象徴・二条城と寄り添って生き続けた集団、それが狩野派です。狩野派とは室町時代、狩野正信が立ち上げた絵師集団の総称で、その後、約400年もの間、時の権力者たちにすり寄りながら活躍し続けました。今の言葉で言うとゼネコンとでも言うのでしょうか? 非常に世の中の動きをみるのに長けていた会社のような集団なのですが、もちろん芸術家としての才能、技術にも非常に長けていました。その代表的な狩野派の人物が狩野永徳や狩野探幽などです。特に探幽は24歳で狩野派のリーダーとなり、二条城二の丸の障壁画を約2年で書き上げた若き天才。そんな彼を中心に、永徳、山楽らの作品も紹介しながら、狩野派が400年もの間生き続けられた理由、そしてなぜ徳川とともに衰退していったのかにも触れてみたいと思っています。

Q:二条城の障壁画とは?

日本の古都スペシャル

二条城の二の丸御殿は遠侍、式台の間、大広間、黒書院、白書院と棟があり、部屋数は全部で33室、障壁画は各部屋にある襖、壁貼付、杉戸など合計すると約3000面以上あります。ですが、全てを紹介していると大変なことになってしまいますから、今回は代表的な作品として遠侍二の間、勅使の間、式台の間、老中の間。大広間の一の間、二の間、四の間、黒書院の一の間、二の間の各障壁画を紹介します。
やはり、政治的な意味合いが強かった城だけに、障壁画もただ美しいだけではありません。もちろん全て金箔地なので、それだけでも豪華絢爛。訪れる人の心を惹き付けていたでしょう。ですが、一番重要なのは、探幽がそれぞれの部屋の使用目的を察知し、意味を持たせて描いているというところにあります。例えば、玄関近くの「遠侍」という部屋は諸大名が訪れた時に通される場所なんですが、その部屋の障壁画には眼光鋭い虎や豹の絵が描かれています。つまり、諸大名らに対して徳川の権威付のようなものを示すための威圧の意を含んでいるわけです。もちろん、こんな絵が部屋に入ったとたん目に飛び込んできたら諸大名たちはびっくりしますよね、そして「将軍様のいらっしゃる所はすごいな、さすがだな」と緊張感を強いられる仕掛けになっているんです。
また、老中の間などは老中職が事務を行う場所なので、仕事の妨げにならないよう簡素な造りで障壁画も比較的静かな風景が描かれています。このように一枚一枚描き分けた狩野派の才能と情熱が詰まっているのが二条城の各部屋の障壁画です。

Q:古山さんが一番お気に入りの障壁画とは?

日本の古都スペシャル

式台の間の松図ですね。
巨木表現と言うのですが、緑なす松が一本描かれていて、それは徳川幕府の永遠性を表現しています。松は松平、つまり徳川家の象徴でもあるので、将軍の間にも描かれているのですが、式台の間の松はある種の秩序はあるものの、伸びやかな感じがして好きなんですよね。自由な感じでドーンとしていて探幽のおじいさん・狩野永徳のDNAも感じてシンプルながらも美しいなぁと感じました。

Q:番組をご覧の方にひとこと

日本の古都スペシャル

二条城と言うと、修学旅行などで学生時代に行った事があるという方が多いのではないでしょうか? でも、案内されるがまま進んでしまって、肝心の内容は頭に残っていない。「絵がいっぱいあったなぁ…。」くらいの記憶だとしたらそれはちょっとさびしいですよね。 ですから、この番組を見ていただいて、探幽の作品は政治的な部分と狩野派の芸術がうまく融合されたすばらしい障壁画であるということ。それらが今も残っていて、当時とほぼ同じ空間の中で見ることができるというのは非常にレアなケースです。それを知ったうえで、再び、訪れていただければまた違ったものが見えてくるのではないかと思います。
もちろん歴史な面だけでなく、今回は大広間の横にある床下に特別に潜らせてもらい「鴬張り」と言われる廊下の由縁、面白い仕掛けの裏側も少し紹介しています。また、三の間から四の間にかけての欄間も一枚の板で作られているのですが、実は一方から見ると孔雀が、もう一方から見ると牡丹が描かれています。将軍の間ひとつとっても、将軍が座る上座の上は二重折上格天井という特別な作りになっていたり、番組では紹介できませんでしたが、柱の釘隠し(柱と柱が交差する部分に止める釘を隠す装飾)は、デザインがひとつずつ違っています。これら匠の技とも言える当時の高度な建築面やテクニック面での贅沢さ。そんなところに目を向けてみても面白いと思います。
今回は、知らずに訪れたら見逃してしまうような部分に改めて目を向けてもらえるよう、一般公開で見られるルートの中をあえて紹介しています。そうすることで、今一度二条城に興味を持っていただければ嬉しいですね。
この番組を、大人の修学旅行感覚で見ていただいて、その後、参考文献を紐解いて、事前学習されたうえで、もう一度二条城を訪れていただければと思います。