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レーティシュ鉄道アルブラ線・ベルニナ線と周辺の景観

尾賀ディレクターインタビュー

Q:豪雪地帯での撮影はいかがでしたか?

レーティシュ鉄道アルブラ線・ベルニナ線と周辺の景観

雪って見る分には美しいですけど、この中で戦っていくのは本当に大変だと思いました。除雪車なんて特に、朝いちばんで除雪しないと、通常の列車が走れないわけですからね。現在使われている除雪車にも乗車して撮影したんですけど、実際に除雪している時間に合わせたので、発車は朝の5時30分。周りは真っ暗で何も見えない状態なので、運転助手の方が窓を開けて前方確認しながら走っている状態でした。走っている間もただ乗っているだけじゃないんですよ。これは実際にぼくたちが乗っている電車で起こったのですが、除雪車が急にストップ。どうしたのかと思ったら、電流が通っている架線が雪や氷の重みで下がってしまい、電力を受け取るパンタグラフもその重みに耐えかねて潰れてしまっていたんです。そのまま下がった架線につぶれたパンタグラフのままなら問題ないのですが、トンネルの中は雪が積もらないじゃないですか。そうすると、通常の架線の高さにつぶれたままのパンタグラフの間があいてしまい電気は供給されませんよね。除雪車なんて特に、雪を舞いあげるから、その雪がパンタグラフにのしかかって、その重みでも下がってしまう場合もあるそうで、本当に雪との戦いですよ。非常に重要な役割を担っているし、除雪車があってこそ、冬の列車の走行は成り立っているんだなぁ…と痛感しました。

Q:苦労した点はやはり雪ですか?

そうですね。特に冬の山は天候は良くない日が多いので、アルブラ線の空撮もできなかったし…。あと移動。普通なら車で次のポイントまで行ったりすんですけど、今回は、雪で峠がふさがり通れない場所がいくつもあったので、ほとんど電車での移動。朝乗って、撮影場所で降りて、また何本かあとの電車に乗って次の場所。その繰り返しだから時間がかかりました。

Q:レーティシュ鉄道の中はどんな感じになっているんですか?

乗り心地は良かったですよ。僕たちは当然二等車でしたけど、その先には一等車もあって、性能のいい暖房機とコンセントとかも付いていました。そんな豪華な部分もあれば、ちょっと面白い光景も見ましたよ。 先ほどお話した短い区間に3つ見られるループ式というのは、ベルギュンという駅から次のプレダ駅までの間にあるんですが、ここはそりのコースにもなっているんです。10kmくらいかな? なので、多くの観光客がベルギュンからそりを持ってたくさん乗ってくるんですよ。中には大人も混じっていて、たぶん一度に100人くらいは乗るんじゃないかな?その団体が次のプレダ駅で一斉に降りてそりコースへと向かうんです。残念ながら滑っている所は撮れなかったんですけど、地元の人たちがリフト感覚で利用しているなんて面白いですよね。なんかその親しみやすさというか、レーティシュ鉄道が地元に根付いて愛されているんだなぁって感じがして良かったですね。

Q:尾賀さんが好きなビューポイントは?

レーティシュ鉄道アルブラ線・ベルニナ線と周辺の景観

やっぱり標高2000mの一面雪の景色かな? 湖が雪に覆われて雪原になっているので、車窓から見ると最高。本当に気持ちいいんです。絶えず少しずつ景色が移り変わって、前方を見ると緩やかなカーブで車両の真っ赤なボディが見えたりする。日が差すとさらに最高。乗客が一斉にシャッターを切るポイントです。今回案内してくれたレーティシュ鉄道の広報の方も、パシャパシャ撮ってましたからね(笑) 。それくらいの景色なんですよ。  ここは空撮もできたのですが、パイロットの方が飛び慣れている人で、かなりの低空飛行をしてくれたので、これも見ごたえがあると思います。

観光には、本当に最高だと思いますよ。サンモリッツには温泉もありますしね。残念ながら、水着で入る温水プールみたいな感じですけど、スキーとか冬のレジャーはほとんどできるし。あと、食べ物もよいですよ。チーズフォンデュはもちろん、地方料理にはオオムギがたくさん入ったおじやのようなスープもあり、和食派の僕の口にも合いました。それだけでなくイタリア系のパスタ類もあったし、イタリアと地元料理がミックスされたような料理もあるので、ゆっくり楽しめると思いますよ。

Q:番組をご覧の方へひとこと

レーティシュ鉄道は今までお話ししてきたように、美しい冬の景観美やダイナミックな除雪車など魅力は色々とあります。でも、もう一つ。鉄道の世界遺産という観点からも見ると、また違う面白さがあると思います。現在鉄道に関する世界遺産は3つ。時代で見比べてみると、「ゼメリング鉄道」ができたのは19世紀半ば、「ダージリン鉄道」は1880年代。1900年代にできた「アルブラ線とベルニナ線」は、二つの世界遺産と比較してみると蒸気駆動から電力へと移り変わる鉄道の技術的進歩が見て取れます。19世紀半ばから20世紀初めの時代は、一斉に世界で鉄道網が敷かれ、社会経済をガラッと変えた時代。だからビジュアルとしての古さや美しさ、景色との調和だけでなく、歴史的にも意味はものすごく大きいと思います。その辺りに思いをはせながら見ていただけるとまた違った印象にうつるかもしれませんね。
もちろん素晴らしい景色の連続ですから、観光気分で景色の美しさを堪能していただくだけでもOKです。

写真提供:グリンデルワルト日本語観光案内所