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レーティシュ鉄道アルブラ線・ベルニナ線と周辺の景観

尾賀ディレクターインタビュー

Q:アルブラ、ベルニナ両線撮影したのですか?

レーティシュ鉄道アルブラ線・ベルニナ線と周辺の景観

何しろ距離が長すぎて、残念ながら全部という訳にはいきませんでした。今回は、歴史の古いアルブラ線のク−ル駅からリゾート地・サンモリッツ駅、そこからさらに標高の高いベルニナ線のオスピッツォベルニナ駅。ここが一番の豪雪地帯なんですけど、そのあたりをメインに撮ってきました。とくにアルブラ線は本当に美しい景観が盛りだくさん。有名なのはランドバッサー橋でしょうか。この橋は鉄骨が石の中に埋められていて、当時まだ珍しい土木技術だそうです。この辺はオーストリアの世界遺産「ゼメリング鉄道」同様周囲の景観との調和を考えて作られているんですけど、当時として画期的だったのが、この橋を建設する際に足場を作らず、全てクレーンであげて作ったというところ。ゼメリングの時代は一か所ずつ足場を作って人が積み上げるといういわゆる昔ながらの土木建築のようなスタイルでした。この作り方の違いは、時代がひとつ変わったんだなというポイントを感じる部分でもあります。こんな感じの橋が、アルブラ線内には114もあります。それだけ起伏が激しいということなんですが、そのほとんどが景観美を意識した作りになっていて、また車内からアルプスの雄大な景色が見られるようにという配慮でトンネルを少なくしているのです。

サンモリッツは、レーティシュ鉄道が開通し大きく発展した一大リゾート地。冬季オリンピックも2度行われていますし、撮影で訪れた際も世界中からセレブリティがたくさんいらっしゃってましたよ。町には「わざわざここで買う必要はないんじゃないかな…?」と言うくらいほとんどの有名ブランドショップがあります。空港もあって、本当のセレブはプライベートジェットでここまで来てしまうんだとか…。とにかくこんな山間にあるのには驚きました。

サンモリッツからオスピッツォベルニナにかけては標高も2000m、一番の豪雪地帯です。ここは本当に映像的には素晴らしいと思います。まさにスイスの国旗色! 一面真っ白な景色の中、真っ赤な列車が走るというコントラストは、ハイビジョンで見ると、より美しいと思いますよ。

Q:除雪車が走っているというのもこの辺りですか?

レーティシュ鉄道アルブラ線・ベルニナ線と周辺の景観

そうです。特に今回は現在使われている除雪車だけでなく、1910年に作られた蒸気駆動の除雪車というのも撮影させていただくことができました。世界でも現役で動くのはこの1台だけなんだとか! 大体の人は、見たら「なんだこれ?」って思うでしょうね。

ニックネームが「モンスターオブベルニナ」、
普通の蒸気機関車とは違う、とにかくインパクトある顔です。 ちなみに、編集を担当した人は「昆虫のようですね」って言ってましたね(笑) 。大量の雪を舞い上げ、上からはもうもうと煙、下からは大量の蒸気。それはダイナミックな映像です。現在使われている除雪車とは全く違う、というより他に類を見ない物ですから、これは見る価値ありです。

Q:その除雪車は今でも普通に見ることができるのですか?

残念ながら、普段は走っていません。ですが、現在でも雪崩が起こった時にはこの除雪車が出動するそうです。今使われている除雪車のプロペラは小さく、雪に混じって流れてくる木や石に負けて、歯が折れてしまうのですが、昔の除雪車のプロペラは硬く大きいので、あの迫力で全て取り払ってくれるんだとか。あとは、年に一度、お目見えするイベントがあるそうですが、その時は世界中からファンが集まってくるらしいですよ。

その際は、元レーティシュ鉄道員の方々が運転するそうです。チームを作って、イベントとなるとみんなで赤いスカーフを巻いて、クラシカルな作業着を着て、整備から運転まで行います。それが実に楽しそうなんですよ。「この人たち、本当に鉄道が好きなんだな〜」というのが伝わってきます。それは現役の人も一緒で、レーティシュ鉄道に関わっていられることに喜びを感じながら働いている人が本当に多かった。これはダージリン鉄道の人たちにも共通していることですね。