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レーティシュ鉄道アルブラ線・ベルニナ線と周辺の景観

尾賀ディレクターインタビュー

Q:今回は、あえて冬に撮影をしたそうですね。

レーティシュ鉄道アルブラ線・ベルニナ線と周辺の景観

この鉄道は景観美という点から夏に紹介される事が圧倒的に多いんですよね。だから、今回冬に撮影するということに最初は懐疑的だったんです(笑)、雪景色はどこを走っても同じだし、豪雪地帯なので撮影するための場所へ歩いて移動できないんじゃないかって。
でも、実際に行ってみたら冬の方が断然面白い!
冬の景色一つ一つとっても、晴れてたり、雪が降ったり、霧がかかったり、光線によってまったく表情が違う。
これは予想ですが夏に撮影していたら「あぁ、こういうのってスイスっぽいよね。」という皆さんが想像できる絵葉書のようなスイスの実景で終わってしまっていたかもしれません。真冬の一面白銀の世界に走る鉄道を見ることで、景観美はもちろん、この鉄道が地元の人々にとってもいかに重要なものかというのを感じていただけるのではないかなと思っています。

Q:レーティシュ鉄道が走る場所は標高がかなり高いんですよね?

そうなんです。今回撮影したアルブラ線は場所によって1000m上がるのに、35mの勾配。と、言葉で言っても伝わりづらいんですが、とにかく険しい山を登っていくんです。そういう場合、ラック式と言って線路の真中と車体に歯車のようなものがついていて、それが噛み合いながら勾配を上がっていく方式を使うのですが、これは短い車両に適している方式。レーティシュ鉄道の場合はより多くの物資を運ぶためにも長い車両でなくてはいけなかったんです。そこで、取り入れられたのがループ式、これはインドの世界遺産「ダージリン・ヒマラヤ鉄道」の際にもお見せしたんですが、急勾配を登るために、線路が円を描きながら登っていくという方式です。短い区間に3つ連続したループを使っている場所があるというのが鉄道に詳しい専門家にも評価されているポイントのひとつです。これだけで、どれほど急勾配なのかというのが想像できますよね。実際に乗っていると、回っているうちに進行方向が分からなくなってしまうんですよ(笑) 。

それほどまでして、この険しい山に線路を通した理由のひとつは、地元の人々の生活の基盤として必要とされていたから。鉄道ができる以前から、周囲には小さな村がたくさんあったけれど、それぞれは街と結ばれていなかったんです。足となるのは馬やそりのみなので、冬になってしまえばほとんど使えず、閉ざされた中で細々と暮らしていたそうです。そこへ、鉄道を開通させて流通のルートを確保したんですから、これは大きな意味があると言えると思います。