2017年2月28日(火)〜5月28日[国立西洋美術館]

作品紹介

ロマン主義へ 文学と演劇

転機となったイタリア旅行後、自らの進むべき道を定めたシャセリオーは、シェイクスピアやバイロン、ラマルティーヌなどの文学を重要な着想源として、抒情に満ちた新たな物語画の世界を色彩豊かに創造していきます。ここではやがてこうした試みを受け継いで世紀末象徴主義への道を切り開くモローやルドンらの作品との比較もおこないます。

《アポロンとダフネ》 油彩・カンヴァス 53×35cm 1845年 ルーヴル美術館
Photo©RMN-Grand Palais (musée du Louvre) / Philippe Fuzeau / distributed by AMF
オヴィディウスの『変身物語』を題材とする本作では、アポロンの求愛を逃れるため、ニンフのダフネが月桂樹に姿を変える場面が描かれています。画面は温かい色調で満たされていますが、流れるように曲線を描くダフネの体はすでに樹木化が始まって周囲の木々との一体化へ向かい、感情を失った顔は足元に跪くアポロンの熱情を拒否しています。手の届かぬ存在に焦がれる太陽と詩の神アポロンの姿には、美/芸術を追い求める詩人/芸術家の関係を見ることができます。

《気絶したマゼッパを見つけるコサックの娘》 油彩・板 46×37cm 1851年 ルーヴル美術館(ストラスブール美術館に寄託)
Photo©Musées de Strasbourg, Mathieu Bertola
ロマン主義の時代、ウクライナの英雄マゼッパは、不倫の恋の咎で野生馬に縛りつけられて荒野に追放された姿を好んで描かれました。バイロンの詩を着想源とした本作では、色鮮やかな衣装と黒い瞳のコサックの娘を中心に描いています。メランコリックな夕空を背景に立ちつくす巫女のような娘の無垢な姿は力尽きた人馬の姿と残酷にして美しい対比を作り出し、世紀末象徴主義のモローの世界観を予告しています。

《サッフォー》 油彩・板 27.5×21.5cm 1849年 ルーヴル美術館(オルセー美術館に寄託)
Photo©RMN-Grand Palais (musée d'Orsay) / Adrien Didierjean / distributed by AMF
恋に破れ、海に身を投げた伝説を持つ古代ギリシアの詩人サッフォー。ラマルティーヌの詩に着想を得た本作では、重い決断を下す直前の姿が描かれています。小画面にも関わらず、岩陰でじっと自らの心の奥底を見つめる姿と向こう側に広がる夜の海の対比を通じて、彼女の絶望と孤独の深さが巧みに描き出されています。シャセリオーの関心が、運命に翻弄される女性の脆く痛切な感情の表現にあることがよくわかります。

《泉のほとりで眠るニンフ》 油彩・カンヴァス 137×210cm 1850年 CNAP(アヴィニョン、カルヴェ美術館に寄託)
©Domaine public / Cnap / photo: Musée Calvet, Avignon, France
森の泉のかたわらで眠る裸婦。草上のニンフの図像の伝統を踏まえてはいますが、ここでは生身の女性の裸体がクールベの裸婦を想起させる写実的な表現によって描かれています。モデルは名高い高級娼婦アリス・オジーです。奔放で気性の激しいこの美女に画家は翻弄された末、2年で関係は終わりました。本展では、破局の原因となったシャセリオーの初期の女性肖像画もあわせて展示します。

インデックスへ

このページの先頭へ