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2018年「新しい年」に〜「無一物中無尽蔵」【2018年1〜2月号】


開会10分前、衆議院の予算委員会が開かれる委員室に入り、黴臭い記者席の最前列に陣取ると、反対側の入り口から与党・自民党の質問者のトップバッターの田村憲久議員が入ってきた。今日(11月27日)から2日間にわたる、衆議院選挙後、特別国会初めての予算委員会の朝なのだ。着席する議員から「厳しくやれ、厳しく」などと、囃し立てられ「あは、は」と苦笑いで返したりしていた。座席最後部には、「自民党最後の良識」と自称する、「村上水軍の末裔」村上誠一郎元行政改革担当大臣が陣取り、大声で「腹、決ねーとだめなんだよー」と叫んだりしていた。田村氏は、質問席の正面に座る菅義偉官房長官にすり寄り、何やら囁き、応じるように菅氏は苦笑い。そして、周囲に聞こえるように「厳しくやりますからぁ」と言うと、菅氏は改めて苦笑いしたりしていた。

思えば、森友問題、加計問題をそのままに通常国会が終わり、野党の臨時国会要求が3か月放置されたあげく、衆議員解散、そして、自民党の大勝を受けて、これまで午前中に始まった野党の質問は夕方に回されていた。たっぷり時間をかけて「与党質問」が始まるのだ。


村上誠一郎氏「野党のオウンゴールで」(2017年11月5日放送)

村上:「私は、自民党が勝ったからと言ってですね。本当に手放しで喜んでいられるのかなというのは非常に心配しています。というのも今回はですね、敵失いうか、エラーというか、野党さんのオウンゴールで勝てたような気がしていましてね。あまりこれに政策が良かったからとか、今までの国会運営が良かったからという評価でですね、勝てたんじゃないんじゃないかなと。だからあまりこれにですね、乗っていますとね、「驕れる者久しからず」と、平家(物語)にもありますようにね。非常にここはですね、本当にもう一回反省すべきところは反省して、そしてまた直すべきところは直していかないと、本当の国民の信用は得られないんじゃないかなと。それを心配しております」

青のスーツに、ストライプのネクタイをした安倍晋三総理が登場し、質疑が始まった。田村氏は、「突然の解散で、結果を見ると我々は、議席を維持しました。しかし、安心して困難を乗り越えるには自民党しかないのかという消極的な選択だったという気がします」などと始め、一呼吸飲んで「やはり、森友学園、加計学園の問題が十分に、国民の皆様方のご理解をいただいていなかった。そんなこともですね。この選挙戦を通じて感じたわけであります」などと続けた。ただ、その後は「なにもないことを証明するのは、悪魔の照明ですから。赤いカラスがいるかいないか。これ、赤いカラスがいないことを証明しようと思うと、すべてのカラスをつかまえないとですね、証明できないわけですから。非常に難しいということは確かだという風に思います」などと話し出し、安倍総理の顔を見たりした。これに、安倍総理は澄ました顔で答弁席に立ち、「えー、まー、今回の選挙、相手の党が名前が変わったり、その形が変わっていくという中にあったわけでありますが。我が党の得票数はこの3回、私が総裁として戦った3回の総選挙の中で一番多かったのもですね、これあまり報道されていないことですが、事実であります」などと胸を張った。そして、森友問題については「ただいま、田村委員がご指摘されたような問題もあったのも事実であります。まあ、そういうことも謙虚に受け止めながらですね、真摯な説明を、えー、丁寧に行っていくことですね、国民皆様の理解を得たいと、このように考えております」と語った。そして、田村氏は、「さてですね…」と語り、「幼稚園・保育園無償化」問題に話題を変え、持ち時間1時間を使い、得意の社会保障の持論を披瀝しながら安倍総理との「質疑」を展開した。「やれやれ」と思った。

次の、菅原一秀議員は、森友学園問題について質し、麻生太郎財務大臣も資料の束を手に、これまでの「政府答弁」を展開した。ただ、菅原氏が音声データに関する質問をしたところで、委員室の雰囲気は一変した。音声データの内容は、森友学園側が「1億3千(万円)が云々よりも、ぐーんと下げていかな、いかんよ」としたのに対し、近畿財務局職員が「ゼロに近い金額まで努力する作業はやっている。だけど、1億3千を下回ることはない」などとのやりとりだったが、それまで政府は存在を認めていないものだった。答弁に立った財務省の太田理財局長は、いきなり「近畿財務局の職員に事実の確認を行った結果は以下のとおりであります」と語りはじめ、「森友学園側と、さまざまなやりとりを行っており、具体的な金額についての記憶はありませんが、大阪府の認可との関係で借り入れの金額に限度があることから、買う場合の金額にも限度があるとの話は、森友学園側からはありました。先方とは、さまざまなやりとりが行われました」と、一転して認めたのだった。ただ、なぜか安倍総理は、澄ました顔で腕を組んで聞いていた。そして、隣の麻生財務大臣は憮然とした表情だったが。午前中の質問は、自民党だけで終わり、議員が出口に向かう中、菅氏は立憲民主党の辻元清美国会対策委員長をみつけ「おっ、国会対策委員長っ」と冷やかし、辻元氏が「お元気ですか」と返すと、菅氏は「お元気ですよー」とニヤニヤしてみせたりしていた。


枝野幸男氏「はっきりしましたから」(2017年12月3日放送)

枝野:「全体構造としておかしなことをやっていた自覚があって、おかしなことをやっていることを皆で寄ってたかって隠そうとしていたってことは、これもうはっきりしちゃってるんで。そこのところがはっきりしてないのが今まで問題だったわけですけど。はっきりもうしましたから。そして「適正な手続き」と答弁してた佐川(宣寿)前理財局長を国税庁長官に出世させてるのは安倍総理なんですから。どう考えても辻褄を合わないです。これから年明けると確定申告の時期になりますよ。全国の税務署の職員さん気の毒ですよ。だってあなたのところの親分は、大事な資料を捨ててありませんと開き直りね、「適正です」と言ってて、そんなお前のとこの親分は!?って」

野党の質問が始まったのは午後4時過ぎからだった。冬の日差しは西に傾き、委員室の窓には黄昏の黄ばんだ光が注いでいた。立憲民主党のトップバッターの長妻昭議員が、午前中の質疑で政府が音声データを認めたことを受け、安倍総理がこれまで国有地の森友学園への払い下げについて「適切」との答弁を繰り返していたことに、「国会に対して、申し訳なかったと、適切でなかったというようなことは、国民への謝罪も含めて、お認めにならないんですかっ」と声を張り上げ、野党席から拍手が上がった。これに安倍総理は「財務省や国土交通省から適切に処分していたとの答弁があったところであり、私もそのように報告を受けていました。これまでの私の発言については、そのような理解の上で申し上げたものであります」と澄ました顔で語るから、記者席脇の傍聴席の岡田克也議員が「なっにー」と眉間にしわを寄せていた。なんのことはない、すべては「財務省のせい」になっていた。陽はとっぷりと傾き、早々に「野党の追及」は翌日に先送りされた。


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