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我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか【2017年11〜12月号】


思えば、いろんなことが、9月25日に始まった。この日の夕方、首相官邸の記者会見室に行くと、間もなく胸を張って安倍晋三総理が入ってきた。室内に向かって左に陣取ったスチールカメラマンの写真に慣れた様子で応じると、安倍総理は両脇に置いたプロンプターを見つめて話し始めた。満席の記者は前に置いたパソコンで一斉に打ち込みはじめ、「カチャカチャ」という音が会見室に響いた。そう、前の週末に新聞各紙は安倍総理の衆議院解散・総選挙の意向を大きく報じ、週明けのこの会見で突然の解散の「大義」を語るというのだ。「党内非主流・石破派」の参謀役の鴨下一郎元環境大臣は早くも「けん制」していた。「政局」が始まっていた。


鴨下一郎氏「総理会見できちんと話すか」(2017年9月24日放送)

鴨下:「本来的に言えば、臨時国会で所信表明をやって、代表質問をやって、予算委員会を数日やって、争点を明確にして、解散をなさるんだったら解散すると、こういうことだと思いますが。それをですね、凝縮して安倍総理が記者会見をなさるということで、どのくらい皆さんが得心するかということなんだろうと思いますがね。国民の皆さんが納得をして、そういう意味でのこの選挙なんだということをきちんと話すかが、今回の総選挙の一番の肝なんだろうと思いますよ」

25メートルプールほどの会見室で、満席の記者やずらっと並ぶカメラを前に、安倍総理はプロンプターをみつめ、語り続けた。「5年前、国民の皆様のお力を得て政権を奪還しました。アベノミクス3本の矢を放つことで日本経済の停滞を打破し、マイナスからプラス成長へと大きく転換することができました」と話し、左手を掲げて見せると、一斉にスチールカメラのシャッターがけたたましく鳴った。そして、「少子高齢化という最大の課題を克服するため、わが国の経済社会システムの大改革に挑戦するっ、私はそう決断致しました。そして、子育て世代への投資を拡充するため、これまでお約束していた消費税の使い道を見直すことを本日決断しましたっ。国民の皆様とのお約束を変更し国民生活にかかわる重い決断を行う以上、すみやかに国民の信を問わねばならない、そう決心しましたっ」と声を張り上げると、脇に並んで座っていた新任の西村康稔官房副長官が深くうなづいたりした。要は8%から10%への引き上げによる増収約5兆円のうち、社会保障に1兆円、残る4兆円は1000兆円に上る借金の返済にあてるとしていたのを、その中2兆円を幼稚園・保育所の費用無償化など社会保障に使うというのだ。さらに「民主主義の原点でもある選挙が、北朝鮮の脅かしによって左右されることがあってはなりません。むしろ私はこういう時期にこそ選挙を行うことによって、この北朝鮮問題への対応について国民の皆さんに問いたいと思いますっ」と左手をゆすってみせた。約40分に及ぶ安倍総理の熱弁の一方、脇に座っている菅義偉官房長官は何か思い詰めた様子で、一瞬たりとも表情を緩めなかった。その日の昼過ぎ、小池百合子都知事総理会見に先立ち突然会見を開き「リセット」と語り、自ら新党「希望の党」の代表に就任したのだ。菅氏には都議選の「悪夢」が甦っているはずで、今回の解散への影響に思いを巡らしているのは間違いなかった。


村上誠一郎氏「大義なき解散で」(2017年10月1日放送)

村上:「はっきり申し上げてですね、大義名分もないし、北朝鮮情勢が緊迫化してるしですね。それでまあ、相手が準備できてないっていうのはですね、一番、私は王道じゃなかったんじゃないかと思うんですね。そこをうまく切り返されちゃったんですね。やはりトップとしてですね、解散の判断がですね、大きく読みと違ってしまったんじゃないかなという気がしますね。そして、私が心配しているのは、今の社会保障もですね、結局、次の世代のツケになってしまうんじゃないかなと。やはり財源論をしっかりしないと。いま若い人たちがある程度大人になって気が付いたら、何であの時にきちっとしといてくれなかったんだろうかと。それを言われる危険性があるんじゃないかなと思って」

小池新党の国政進出の準備が整ってなく、民進党はポロポロ離党者の出る状態、臨時国会で説明のつかない「森友・加計問題」の野党の追及。そこでの機先を制しての突然の衆議院解散、その上での小池氏の希望の党代表就任表明だった。さらに驚く事態が押し寄せる。民進党の前原誠司代表が、民進党の衆議院議員で希望の党に合流すると表明したのだ。

安倍総理が臨時国会で衆議院を解散した9月28日、国会近くの民進党本部で行われた両院議員総会は会議室いっぱいに記者やらテレビカメラやら、始まる前から熱気に包まれていた。最後尾の椅子に座っていると、そこへ前原代表が現れた。今回の選挙で政界を引退する議員を一人一人ねぎらった上で、自らの思いを語りだした。「私は、一強多弱と言われている今の状況に忸怩たる思いを持っています。この5年あまり安倍政権が何をしたか。要は見せかけで株価を上げてアベノミクスがうまくいっているということを引きずっているだけじゃありませんかっ。この延長線上に日本の将来はありますかっ。私はないと思う」と張り上げると、会場からは「そうだっ」と声があがったりした。そして、「しかも安保法制。日米同盟を強化することが必要だったとしても、憲法違反の法律はダメでしょうっ。必要だからって憲法違反の法律を作ったら、すべて憲法違反でいいとなって国家の土台が崩れるじゃありませんかあ」と、ここら辺になると、前原氏が涙目になっているのが遠目にも分かった。集まった議員も熱弁に圧倒された様子で、その数時間後、民進党の衆議院がそろって希望の党に合流して選挙を戦うとの前原代表の「決断」が了承された。前原代表は「盟友」石破茂元自民党幹事長とともにスタジオに現れ、その思いを語ったっけ。


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