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「われに五月を」【2017年5〜6月号】


今年度の予算が成立し、その話は終わるはずだった。春めいた朝、衆議院財務金融委員会(4月4日)の様子を見に行った。普段なら財政と金融について麻生太郎財務大臣に質す委員会なのだが、予算成立を受けて「森友学園問題」がどうなっているか知りたかったのだ。

場所は国会議事堂のいわば「離れ」の別館3階。エレベーターに乗ろうとすると、どこの委員会に向かうのやら自民党の葉梨康弘議員。そして、なにやらこのところテレビでよく見る役人の人。さらに部下と思しき2人。狭いエレベーターに5人、肩が触れ合う感じとなった。はじっこに身を寄せながら、その「役人」が、森友学園問題で近畿財務局の交渉記録は破棄してなくなっているなどと予算委員会で答弁を繰り返し、激しく野党の追及を受けていた財務省の佐川宣寿理財局長だとわかった。

旧式で狭いエレベーターの中で一緒になってゆっくり上昇しながら、2月9日の朝日新聞の報道をきっかけに2か月も混乱が続く森友問題を思い返し、「最初から交渉記録がないと、この佐川氏が言い切ったところから、真相究明が遠のいたわけだなあ」と思ったりした。旧大蔵省出身の藤井裕久元財務大臣は言い切っていたっけ。


藤井裕久氏「残ってないはずはない」(2017年3月26日放送)

藤井:「(交渉記録が残ってないなんて)そんなことはあり得ないと思います。それはちゃんと残していると思いますし、仮に公文書が残っていなくてもですね、個々人がメモで取っていると思います。残ってないはずがないと思っていますね」

佐川氏は、テレビで見るよりずっと小柄だった。葉梨議員は籠池泰典前理事長の証人喚問で自民党衆議院議員を代表し、その「欺瞞性」を質した人。脇で佐川氏はしきりにヘコヘコと身を縮めた。一瞬沈黙するエレベーターの中で、葉梨議員は「恩を返してもらわんといかんねえ。いろんなところで説明しているんだよ…」とポツリ。すると弾かれたように佐川氏は頭を下げた。葉梨議員が「わかりやすいんだと言われるんだよ」と、言葉を繋ぐと、佐川氏は「おっしゃる通りです」と持ち上げてみせた。証人喚問で、森友学園の小学校への払い下げの9億円がゴミ処理費用を理由に1億円になった「8億円の値引き」が、隣の公園への払い下げに比べて得をしたわけでもないと葉梨議員が「説明」していたのを思い出した。

エレベーターは財務金融委員会が開かれる3階で止まった。扉は開いたが誰も降りない。佐川氏は葉梨議員が降りるのを待っているのだが、見つめる葉梨議員はそのままで、お見合い状態なのだ。事態に気付いた葉梨議員が「あ、ぼくは4階だから」と言うと、また弾かれたように佐川氏は「失礼しまっす」と、腰をかがめ、やっと降りた。続いて降りながら「偉くなる役人はこんなんだろうな」と思った。番組では交渉記録はあるはずと、藤井氏のあとも財務省出身者の発言が続いたのだっけ。


玉木雄一郎氏「どの役所よりもメモをとる」(2017年4月2日放送)

玉木:「私は財務省の出身で、十数年働きましたけどね。多分どの役所よりもメモを取るし、記録をきちんと保管・保存する役所だと思うし。自分もそう鍛えられたし、教育されたんですね。ですから事案が終わったので、つまり契約が締結できたので、もう用無しだから破棄したという理由なんですけど、これ分割払いになってるんです。ですから最終的に払いきるのに10年くらいかかる訳で、まだ事案は終わってませんから。極めて私は違和感を感じます。特にいろんな政治家との接触、役人同士の接触、こういったものが全てないというのはですね、私は極めて不自然と言わざるを得ない」

委員会が始まると、森友問題は収束どころか、さっそく佐川氏が答弁に立ち「衆議院財務金融委員会御法川(信英)委員長より財務省に対してご指示のあった事項について、近畿財務局の職員から聴取した事項は以下の通りでございます」とエレベーターでの姿とは打って変わって胸を張り、声を上げた。そして、長々と話した後、「9月初旬に大阪航空局とともに関係業者と工事内容等について打ち合わせを行っていた記憶はある。ただし、業者に対して産業廃棄物の場内処理を求めるような発言を行ったことはなかったとのことでありましたっ」と締め括った。森友学園の敷地内で発見された「ゴミ」を本来は処分場に捨てなければならないのに、敷地内で処理するよう近畿財務局が要請したとの疑惑を否定したものだった。与党席からは「よっし」の声が上がり、佐川氏は満足げに政府委員席に戻った。

それでも、その後、民進党の今井雅人議員が質問に立つと、大阪府が小学校の認可をしたのが先か、近畿財務局が土地の払い下げを決めたのが先か。2月から続いている「鶏が先か、卵が先か」の議論が、白熱する始末だった。今井議員は「大阪府の松井(一郎)知事の方は、財務省さんからこの森友学園がこの土地を購入するという話を伺ったので、私たちは認可を下すという手続きに入ったというふうにおっしゃっておられますが、財務省さんの主張がそれとは違っておられますが」と質した。これに佐川氏は、手を胸の前にあて「私ども許認可主体の許認可の前提があって、初めて国有地の処分ということになります」などと、身振り手振りで繰り返した。これまで何回も続いた答弁だけに、もはや佐川氏は分厚い資料を手元に置きながらも見ることはなく、流れるように「原則論」を繰り返した。なおも大阪府と財務省との言い分が真っ向から対立するありさまに、「やれやれ」と思った。


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