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スタート「未来チャレンジ内閣」〜2016年8月の猛暑の中で【2016年9〜10月号】


「安倍(晋三)総理大臣は今日の午後の内閣改造に先立ち、自民党役員人事を行うことにしていて、間もなくこの自民党本部に入りますっ。谷垣(禎一)幹事長の後任に、二階(俊博)総務会長を起用することにしていますっ」――。朝、自民党本部のエレベーターを総裁室や幹事長室のある4階で降りると、すでに辺りは記者やカメラマンでごった返し、その中、NHK記者が喧噪に負けじと声を張り上げニュースを中継していた。今日、8月3日は、参議院選挙の圧勝を受けた安倍内閣の、内閣改造、自民党役員人事の日なのだ。それでなくても、狭い場所に50人ほどの記者の熱気で暑いのに、中継カメラの熱や、エレベーターの扉が開くたびに灯される10台ほどのテレビカメラ用の照明で、首筋にべったりと汗が張り付く。そこへ、安倍総理が紺のスーツに水色のネクタイ姿でエレベーターから登場。SPの先導で秘書官らを引き連れ、胸を張って前を横切り奥の部屋に入って行った。

しばらくすると、同じフロアにある平河クラブ(自民党内記者クラブ)の会見場に正式に就任が決まった二階新幹事長ら4役がやってきて、二階氏は「エネルギーにあふれる党運営をやっていけるように努力したい」などと力を込めた。そして、記者からの2020年東京オリンピック前の2018年の9月に切れる安倍総裁の任期延長問題に質問が及ぶと、神妙な顔をして「党としても極めて重要な問題でありますので、できれば期限を設けるとかして議論をする場を作っていくことが大事じゃないかと思っております」と答えていた。二階氏とは1992年自民党竹下派分裂騒動の頃からの関係だが、この「任期延長問題」は二階氏らしい「クセ球」で、内閣改造前に打ち上げたいわば「猟官運動」のアドバルーン。だが、新幹事長になった今もっともらしく話す姿は、かつての金丸信元副総裁の「寝業師」ぶりを彷彿させる。


片山善博氏「総理任期は立憲主義」(2016年8月7日放送)

片山:「自民党総裁の2期6年を限度とするというのは、一種の立憲主義なんだと思うんですね。どんなにパワーがあってどんなに人気があっても、権力は暴走する可能性がある。だからそれに箍を嵌めるための規約だとすれば、むやみに変えるべきではないというのが本来の規約のあり方ですよね」

内閣改造の行われる総理官邸に移ると、正面玄関と通じるエントランスホールにはカメラマンや記者ら100人ほどが組閣に備えていた。洒落た全面ガラス張りの壁を通して昼下がりの日差しが降り注ぎ、ここも熱気でむんむんしていた。そこに、突然「どんどん。どんどんっ。どんどん。どんどんっ」異様な物音に、記者らが一様に振り返ると、その主は石破茂地方創生大臣だった。閣議のある4階の部屋へは、エレベーター、なだらかなエスカレーター、階段の三択で上がるが、石破大臣は「最後の閣議」に向かうのにあえて階段を踏み鳴らしていたのだ。そして、4階まであがると驚いて仰ぎ見るカメラマンらを見下ろして「にっ」と笑ってみせた。

ほどなく「じゃあどうぞ―」と声が響き、今度は総理番が階段をぞろぞろと上っていく。しばらく眺めていたが、これは行かなきゃいかんと思い、エントランスホールを走って横切り、最後尾についた。始まったのは「最後の閣議の頭撮り」だった。カメラと番記者の隙間から中をのぞくと、「総理入りまーす」の掛け声で、安倍総理が登場し、全大臣が立って迎えた。石破大臣は安倍総理に一礼したが、安倍総理は石破大臣の方を見ず澄ました顔で正面を向き、わずかに着席した後、閣議室へと入って行った。

「最後の閣議」が数分で終わると、石破氏は先頭を切って番記者に囲まれ総理官邸を後にした。その瞬間はわからなかったが、落選した島袋安伊子沖縄及び北方対策担当大臣はじめ今回の改造で内閣を去る閣僚が5分おきに五月雨式に出てきたのをみるうちに気が付いた。10人中9人が安倍総理と個別の「最後のあいさつ」をしているのに、石破氏だけはそれをしないで出てきていたのだ。入る時の「どんどん」状態からも石破氏の心境が尋常でないのがひしひしとつたわってきた。


片山善博氏「ちょっと遅かった」(2016年8月7日放送)

片山:「石破さんは最初から安倍総理とは客観的に見て肌合いが合いそうにないですよね。私はちょっと遅かったんじゃないかと思います。今まで忙しい日々だったですから、少し自由な立場で政策の研究をされるのは良い事だと思いますよね。閣外に出られて自由な立場で発言をしたり、地方に行かれたりして実力を蓄えるという時期にされたら良いと思いますね」

午後2時頃になると、エントランスホールには内閣記者会からの援軍も交じって人だかりはさらに多くなる。足元には三方の壁沿いの足元にテープが張られているが、勢いそれよりみんな前に出る。広報担当の職員が整理するのだが、「呼び込み」の時間が迫るにつれ、だんだん興奮してくる。終いには「あんまり出るんじゃねーぞーっ。奥入ってろっ」と大声を上げ、総理番を両手で奥に押し戻したりしていた。そこに、「呼び込み一番乗り」で、高そうな紺のスーツに白いワイシャツ、赤のストライプネクタイのいでたちで麻生太郎財務大臣が登場した。続いて、岸田文雄外務大臣、石井啓一国土交通大臣。そして、注目の稲田朋美防衛大臣がピンクに黒い線が入った何やら洒落たデザインのスーツに、トレードマークの黒縁メガネで登場すると、バシャ、バシャとカメラの放列で、盛り上がりはピークを迎える。そこに麻生大臣らが出てくるのを番記者が追って、フロアに張ったテープおかまいなしの大混乱に陥った。

稲田大臣が戻り、ぶら下がりが始まった。ただ囲んだ記者の渦が、担当テレビ局のカメラとほど遠いとこにでき、カメラマンが「こっちこっち」と大声を出して誘導。その「台風の目」がカメラの前に来たのはいいが、スチールカメラの目の前で、今度は「そこで立ったらダメなんだって」との罵声が飛び出す始末だった。稲田氏は何もないかのように澄まし「総理から今日も北朝鮮からミサイルが発射されたことを指摘され、しっかりと日本の安全保障と防衛に取り組んでくださいということです」と語り、靖国神社参拝については「この問題は心の問題であって、行くとか行かないとか、行くべきだとか行かないべきだとか、そういうことを言うべきではないと思います」と語って、渦のまま出口に向かった。


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