「突入「選挙イヤー」〜2016に思いを」【2016年1〜2月号】
12月に入ると永田町は文字通り「師走」に突入する。朝の9時前、寒さの中を自民党本部に向かった。地下鉄を上がると途中、衆議院第一、衆議院第二、参議院の3つの大きな議員会館があり、すでに訪問らしき人影が見えた。昼時にもなると、この時期はどこも陳情の業界団体関係者や地方自治体の幹部らで受け付けがごった返すわけだ。思えば、2016年は夏の参議院選挙が控えているわけで、衆議院選挙とのダブル選挙も取り沙汰され、さっき前を通った総理官邸ではイロイロ考えているのだろう。中でも看板は「一億総活躍社会」だ。「GDP600兆円」「希望出生率1.8」「介護離職ゼロ」と内閣改造後大きく目標を掲げたが、その真価が問われることになるんだろうなと思ったりした。3年たった「アベノミクス」については毎回、スタジオでの議論がとまらない。なかでも、元商社社長で経済通の丹羽宇一郎元中国大使は厳しかった。
●丹羽宇一郎氏「政策と現実が乖離しすぎて」(15年11月1日放送)
自民党本部の入り口を抜け、エレベーターを上って7階で降りると、並ぶカメラの照明と記者と役所の関係者らの熱気に圧倒された。年末恒例の自民党の大イベントは税制大綱づくりなのだ。そして間もなく、党税制調査会の幹部の会合がはじまるのだ。人並みをかき分け幾つもならぶ会議室の一つに入ると、25メートルプール大の部屋の正面奥に丸く囲んだ議員席と、その後方に並ぶ役所の関係者席とが整然とならんでいた。後ろに座ろうとすると、そこにいた職員が「どちらですか」と言うので、会社の「帯用証」を見せると、「全然だめだあ」と大声を上げられ、「マスコミはあっち」とさっきの人ごみの方に戻るように制されてしまった。「久しぶりに来ると、要領がわからなくて恥じかくなあ」とエレベーターロビーに戻ると、役所の人が携帯電話でどこかの議員だかに向って「今日の資料はどうなっていますか。1階に取りに行っていいですか」などと探りを入れたり、官邸の意向に沿わないからと最高顧問に棚上げされて事実上更迭された野田毅前党税調会長が憮然とした表情で前を通り過ぎてさっきの会議室に入っていったりとなんとも慌しい。
税制の焦点は、消費税を10%に引き上げる2017年に、8%に据え置く食料品などの「軽減税率」の扱いだ。そもそも、税収の目減りになるため財務省と自民党は反対だったのだが、公明党が低所得者対策として前回の選挙(14年)で前面に掲げていたために、ここで巻き返し。これを受けて官邸が一気に「軽減税率導入」に踏み切り、「選挙目当て」との批判が吹きだしたわけだが。
●藤井裕久氏「野田さんは低所得者対策は『給付』」(15年11月8日放送)
そのうち、同じフロアーの別の会議室で行われていた「野菜・果樹・畑作物等対策小委員会」の会合が終わり、そこから出てくる議員たちでさらにエレベーターホールの喧噪に拍車がかかりだした。TPP対策なのだろうか、エレベーターを待ちながら「サトウキビはどうだった?」「うちはテンサイだよ」「タバコはあったけどなあ」などと何やらごそごそ。熱気に辟易していると、いきなり奥からさっきの職員が「カメラ―っ」と叫び、テレビカメラと記者の一群がさっきの入り口に向かって動き出した。まぎれて、入っていくと、会議の「頭撮り」で、正面には宮沢洋一新税調会長や、野田最高顧問、林芳正小委員長代理ら税調幹部が居並び、宮沢氏は立ち上がると「月曜日に○×の審議を行いました。ありがとうございました。今日『○政(マルセイ)』になった事項については、また明後日ご審議いただく予定でございます」などと声を上げた。早口かつなんともわかりにくい言い回しなのだが、要は「月曜に減税、増税、改正の要望を認める、認めない、と決めた。今日は政治決着する重点項目である『○政』を決め、明後日改めて議論するということなのかしらん」などと、かつての政調(政務調査会)担当当時の記憶を引き出してみたりした。そして、「今日は法人税改革、また車体課税のご議論をしていただきます。年度改正の方は順調に議論が進んでおります。が、もう一方の方は難航しておりまして、あとから状況について私から報告させていただきます」と言い、拍手が出たところで、部屋から追い出された。
そして、ずいぶんと時間は経ち、途中出てきた議員が「業界のポチみたいのが発言していてなさけないっ」「最近は党税調も弱くなったと言われてるしっ」などとわざと記者に聞こえるようにいうのだが、中で何がおきているかはわからないまま、担当の記者と役所の関係者がたむろし続ける。そして、不意に続々と税調の幹部が出てきて会議が終わったことがわかった。ただ、テレビカメラが待ち構える前に出てきた宮沢会長は「今日はいいだろう」とそのまま素通りしようとするので、そうはさせじとの記者とのカメラとのブロックにあって押し問答。「インボイスは2021年からですかっ」と、「軽減税率」の税率記載の伝票の導入時期を誰かが大声で叫ぶと、宮沢会長は「それはこれから検討するんだから」などとはぐらかし、人の渦となってエレベーターの中に消えていった。残った記者も会議で何が話し合われたのか、それぞれ取材に散って、フロアーはさっきまでの喧噪がうそのように静かになる中、カメラマンらが後片付けを始めた。
これが、連日続くことになるわけだ。そして、参議院選挙を控えているとなれば、「耳障りな」本格的な議論はできず、様々先送りになっていくのだろう。(結局、財源を先送りしたまま対象品目を約1兆円分まで広げたのだ)「一億総活躍社会」の「希望出生率1.8」だって同じなのだろう。野田聖子前総務会長が憤慨していたっけ。

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