特集
2017年12月10日 4K特別篇 シャンパーニュ地方の丘陵とメゾンとカーヴ/フランス」
世界一エレガントな酒 シャンパンを生んだ丘
シャンパンの父と呼ばれる修道士がいました。ドン ペリニヨンという有名なシャンパンのブランドは、彼の名を冠したものです。きめ細やかな泡が魅力のシャンパンの、原形を作り出した人物です。彼が当初やろうとしていたのは、黒いブドウから白いワインを作ることでした。シャンパン誕生の謎に迫ります。
フランス国王が好んだ泡の出る白ワイン
シャンパンの父と呼ばれる修道士がいました。ドン・ペリニヨンという有名なシャンパンのブランドは、彼の名を冠したものです。きめ細やかな泡が魅力のシャンパンの、原形を作り出した人物です。彼が当初やろうとしていたのは、黒いブドウから白いワインを作ることでした。シャンパン誕生の謎に迫ります。
──今回はシャンパンが主役ですね。紹介する世界遺産について教えてください。
田口ディレクター(以下、田口):「シャンパーニュ地方の丘陵とメゾンとカーヴ」は、2015年に登録された世界遺産です。名前のとおり、パリの北東に位置するシャンパーニュ地方のブドウ畑を中心とした一帯と、シャンパン製造業者であるメゾン、そして地下のワインセラーであるカーヴを指しています。ただ、場所や建物だけというわけではなく、この地域のシャンパンの製造方法とその文化的な背景まで、包括的に含まれた遺産です。今回はシャンパーニュ地方特有のスパークリングワイン、シャンパンの製造と文化について取材してきました。
郊外に一面のブドウ畑が広がるシャンパーニュ地方は、フランス王室御用達のワインを作ってきた土地です。ブドウの味は土壌で決まると言われています。
──世界的に有名なお酒ですが、その特徴をあらためて教えてください。
田口:シャンパーニュ地方で収穫されたブドウで、決められた製法で作られたものだけがシャンパンという名前を使うことを許されています。収穫された年にこだわるワインとは違って、シャンパンは、収穫年が異なるブドウをブレンドします。この方法を提唱したのが、ドン・ペリニヨンで、今では有名なブランドのひとつとしてその名を残しています。現在、ほかのスパークリングワインメーカーも、この手法を取り入れています。そして、シャンパンのもうひとつの特徴として、そのきめ細やかな泡があります。しかしこの泡は、実は偶然の産物だったのです。
ブドウの収穫は9月ごろ。取り入れは丁寧に手作業で行います。黒ブドウのピノ・ノワールから黄金色のシャンパンが生まれます。
──美しい泡は、シャンパンの最も大きな特徴ですが、どのようにして発生するのですか?
田口:シャンパーニュ地方は、17世紀ころまで一般的なワインの生産地でした。ただし、ワインを作る地域としては北限と呼ばれていて、北緯約50度という寒冷な気候の影響で、冬の間に発酵が止まってしまうのです。それが春になって再び発酵すると、泡が生まれてくるのです。シャンパンは二次発酵できめ細やかな泡が生まれるのですが、シャンパーニュ地方は、自然に二次発酵が行われる環境だったというわけです。17世紀後半、修道院のワイン係だった修道士のドン・ペリニヨンは、黒ブドウで当時人気だった白ワインを作るため、試行錯誤していました。その過程で、良作の年のワインを不作の年に備えて保存しておき、ブレンドするという手法も考え出されました。こうして生まれたのも、やはり泡が入ったワインでした。
シャンパンはオーヴィレール修道院の修道士、ドン・ペリニヨンによって完成されました。ブレンドの手法なども彼が定着させました。
──なるほど。偶然スパークリングワインが誕生する環境だったというわけですね。それがどのようにしてシャンパンとして定着したのでしょうか?
田口:こうして作られたシャンパーニュ地方のスパークリングワインでしたが、この独特の泡を気に入っていた人物がいました。フランス国王ルイ14世です。国王に注目されたワインの品質を高めるため、ドン・ペリニヨンは研究を重ねました。こうして上質な泡の出るシャンパーニュ地方のワインは品質をますます高め、シャンパンとして、人気を博するに至ったわけです。
その年のシャンパンを決めるブレンドの作業。収穫年や畑、品種などの異なるものをブレンドしていきます。
──シャンパンは収穫年の異なるブドウのワインをブレンドして作られるという話ですが、どのようにしてブレンドするのでしょうか?
田口:一次発酵が終わったワインを、それぞれ収穫された畑や年が異なる、単一品種ごとに分け、それらを調合してテイスティングし、味を決めていきます。それぞれのメゾンにブレンドを担当する醸造責任者がいて、彼らが決める味わいがそのブランドの味を決めるわけです。ブレンドの作業は当然ながら非公開で行われることですが、番組では、どのようにブレンディングしているのか特別に見せてもらいました。
地下のカーヴで最低でも15カ月熟成され、細やかな泡立ちが特徴的なシャンパンとなります。地下に広がるカーヴは10〜12度に温度が保たれています。
──ブレンドのあとの二次発酵で泡が生まれるということでしたが、これはどのような方法で行うのですか?
田口:シャンパンの熟成方法にも秘密があります。地下のカーヴで最低でも15カ月は熟成させます。ランスの街中にあるルイナールのメゾンで、地下のカーヴを見せてもらいました。かつて石切場として掘り広げられていたところをそのまま地下貯蔵庫として利用していて、総延長は8キロあります。より広大なモエ・エ・シャンドンのカーヴは28キロにも達していて、広大な空間が、まるで地下迷宮のように広がっています。温度は年間を通して10〜12度、湿度が90%くらいで安定していて、シャンパンの熟成に適しているのです。このような地下の空間が世界遺産に登録されているのは珍しいです。シャンパンの美しいきめ細やかな泡は、この地下のカーヴで生まれていたのです。