特集
山水画を生んだ原風景 都市を愛した印象派
Q:では、次に印象派について小澤さんに伺います。印象派と世界遺産にはどのようなつながりがあるのでしょうか?

小澤:19世紀に入り、ヨーロッパで産業革命が起こり、オペラ座、エッフェル塔などが次々と建造され、パリの街が激変します。後にこれらは「パリのセーヌ河岸」として世界遺産に登録されます。このパリの変革期と印象派誕生は時を同じくします。産業革命によって大量生産されるようになったチューブ式絵の具が、画材の持ち運びを可能にしました。アトリエから解放された画家たちは外へ飛び出し、自然や近代都市へと変貌を遂げたパリの日常風景を描き始めました。そして、彼らが「印象派」と呼ばれるようになったのです。印象派の画家たちが、テーマとして表現したのは「光」です。それまでのアトリエ内での作業とは違い、光あふれる屋外で絵を描いた彼らは、絵の具の鮮やかな色彩をふんだんに使い、光を表現しました。その印象派の色彩豊かな光に魅せられたのが、パリにやってきたゴッホです。ゴッホは印象派の展示会を訪れ、その豊かな色彩に衝撃を受け、多いに影響を受けました。ついには、光を求めて南仏の町、アルルを目指したのです。アルルに移り住んだゴッホの作品はそれまでの暗い作品とは一線を画し、色彩あふれたものに変化します。
Q:そこまでゴッホを魅了した、アルルとはどのような町なのでしょうか?

小澤:南仏に位置するアルルにはローマ帝国時代の史跡が多く残り、それらは「アルル、ローマ遺跡とロマネスク様式建造物群」として世界遺産に登録されています。その内の「円形闘技場」や「アリスカンの墓地」はゴッホが絵に描いたことで有名です。今回、私たちが取材を行ったのが真夏ということもあり、強烈な日差しが印象的でした。ゴッホを象徴するような、ひまわり畑も鮮やかで、ゴッホがこの町の光に憧れたのが分かる気がします。
Q:最後に見所を教えてください。

小澤:ゴッホが絵に描いた「円形闘技場」では今も闘牛が行われており、その映像は迫力満点です。あとは、何と言ってもゴッホの絵です。有名な「ひまわり」を高感度のカメラを使い、アップで撮影しています。絵の具の盛り上がりや、線の流れの勢いが伝わってくるので、必見です。また、「自画像」や自室を描いた「アルルの寝室」などの作品をご覧いただけます。ゴッホの歩いた町並みとあわせて絵画を楽しんでもらえればうれしいです。
世界遺産の歩き方
世界遺産の歩き方2
アルルの町には歴史的建造物が数多く存在している。ローマ帝国時代のコンスタンティヌスの公衆浴場跡や、古代劇場など7つの遺跡と、11世紀のロマネスク期に建造されたサン=トロフィーム教会がまとめられ「アルル、ローマ遺跡とロマネスク様式建造物群」として世界遺産に登録されている。