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BACK NUMBER #615 2018.4.21 O.A.

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元日本代表・森岡隆三 現役引退10年目の新たな挑戦
日本代表がW杯で初めて決勝トーナメント進出を果たしたのは、16年前の2002年、日韓W杯でのこと。日本中が歓喜に沸き、代表選手の名は歴史と記憶に刻まれた。この男もその1人だった。森岡隆三、当時26歳。トルシエ・ジャパンをキャプテンとして牽引した。日本を代表するセンターバックとして名を馳せた男は今、引退から10年、あるチームの監督を務めている。戦いの舞台はJリーグの中で最も下のカテゴリJ3。過酷な環境で下剋上を狙う元日本代表キャプテンの挑戦を追った。
一面、雪に覆われたグラウンド。朝6時半から1人、黙々と雪掻きをしているのは、そのグラウンドをホームとするJ3のチーム、ガイナーレ鳥取の監督だ。森岡隆三(42)。2002年W杯で初の決勝トーナメント進出という歴史的快挙をなし遂げた日本代表のキャプテン。あれから16年。J3開幕まで1か月を切った2月。J1のチームは、沖縄など温暖な地でキャンプを行っていたがJ3のガイナーレ鳥取にそんな予算などない。この日の練習のために監督自らピッチを整える。この日の気温は氷点下3度。コーチ・フロントスタッフ総動員で整える。午前11時、ようやく練習開始。過酷な環境だが、それ以上にこのクラブが苦労しているのが観客動員数だ。2017年は一試合平均わずか1500人。J3の中で下から5番目。そもそも鳥取県の人口は約56万人。東京・杉並区とほとんど変わらず、日本一人口が少ない県。そんな中、観客を増やすには、ファンとの触れ合いを大事にし、サッカーを身近に感じてもらうことが必要だ。森岡たちは、朝の出勤時間に合わせ、練習前に市役所の玄関でビラ配り。現役時代には想像もできない姿だ。この日は選手4人、コーチ2人、フロントスタッフ5人と共に約1000枚、試合告知のチラシを手渡した。そして、J3のチームにとって最も過酷なのは試合のための移動。J1は、飛行機、新幹線での移動がほとんどだが、J3は長時間のバス移動が多い。監督・コーチはバスに乗り切れないため、自らの運転で向かう。この日は九州遠征。距離にして520キロ、8時間の道のり。これも予算がないゆえの苦労。昨シーズン、現地に夜8時過ぎに到着し、前日練習なしで試合に臨んだことも実際にあったという。こんな環境でチームを率いる森岡は、かつてサッカーのエリート街道を歩いていた。
高校サッカーの名門、神奈川・桐蔭学園で1年生から活躍。18歳で鹿島アントラーズに入団し、清水エスパルスに移籍後、21歳でレギュラーに定着。11年間で数々の優勝を経験し、日本代表では3年間キャプテンを務めた。そして、J2京都サンガに移籍し33歳で現役を引退した。その後、39歳で京都サンガのアンダー18の監督に就任。2015年、ユース選手権でベスト4に導くも、2016年、契約満了で退任した。そんな時、オファーしてきたのが、そのシーズン16チーム中15位と、どん底にいたJ3・ガイナーレ鳥取。実は同時期、J1のチームからもコーチ就任を打診され、年俸は倍以上だったが、それでも森岡は迷いなく、鳥取を選んだ。しかし、立て直しを託された2017年シーズン、11連敗という地獄を味わい、前年度を下回るシーズン最下位に沈んでしまった。
森岡は現在、家族と離れ、鳥取県米子市で一人暮らしをしている。チームを強くするには、どうすればいいのか?そのことが寝ても覚めても頭から離れない。練習も試合もない、ある日、森岡が訪れたのはインターネットカフェ。オフは1人籠って試合を分析する。試合での良い場面、悪い場面を振り分け、コメントをつけながら自ら編集する。ミーティングの時、選手に見せるのだという。朝11時から約7時間。編集したシーンは60以上にのぼった。後日、編集した映像を使って、選手に1つ1つ具体的に説明する。ガイナーレ鳥取の25人の選手たちは平均年齢23.4歳。サッカーに貪欲な若者ばかりだ。現役時代の体験も話しに加え選手に伝える。
2017年オフ、ガイナーレ鳥取は大胆な改革を行った。14人の選手がチームを去り、J1・J2経験者6人を含む13人が入団。1年間、戦い抜くには経験豊富な選手で、まずチームの軸を作ることが必須。そこで白羽の矢を立てたのがJリーグ優秀選手賞を2度獲得しているブラジル人選手・フェルナンジーニョ。チーム最年長37歳のベテランに森岡はキャプテンを託した。さらにもう1人、ゴールキーパーの北野貴之。かつてJ1のアルビレックス新潟、大宮アルディージャに所属。8年間、全ての試合でゴールを守った35歳の守護神に森岡は声をかけた。北野も自ら選手会長に立候補。ピッチの外でもまとめ役を買って出てくれた。J2昇格にはJ3で2位以内に入るしかない。最下位のチームにとって無謀な挑戦。しかし、森岡は本気で狙っている。
2018年3月11日。鹿児島で行われたJ3開幕戦。相手の鹿児島ユナイテッドFCは、2017年シーズン、4位の強豪だが、森岡は十分戦えると感じていた。スタメンにはフェルナンジーニョ、北野を始め、新加入の9人が名を連ねた。一進一退の攻防が続く中、ゲームを動かしたのは、期待のフェルナンジーニョ。先制点を決めた。さらに、もう1点加え、リードして迎えた後半、鹿児島の猛攻を受ける。しかし、守護神・北野が守りゴールを許さない。そして、2点リードを守りきり優勝候補を撃破。2017年7月23日以来の公式戦勝利を開幕戦で飾った。試合後、森岡は鳥取から鹿児島に駆けつけたファンの下へ。続く第2節はホーム鳥取でのゲーム。スタジアムには、2017年の平均の3倍以上の観客、4817人が詰めかけた。1-1の同点で迎えた後半22分。フォワード・加藤潤也が勝ち越しゴール。その後の相手の反撃もキーパー北野がスーパーセーブ。そして開幕2連勝。ホームでは2017年3月以来1年ぶりとなる勝利に涙するサポーターもいた。
森岡率いるガイナーレ鳥取は、現在(2018年4月20日)J3の首位を走っている。もしかすると自ら茨の道を選んだこの男が、奇跡の下剋上を起こすかもしれない。
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