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BACK NUMBER #609 2018.3.10 O.A.

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楽天・敏腕スカウト 知られざるドラフトの舞台裏
2017年クライマックスシリーズに進出し、日本シリーズまであと一歩と迫った東北楽天ゴールデンイーグルス。その快進撃を支えたのはアマチュア時代、ほとんど無名だった選手たち。特に中継ぎに起用された新人投手の活躍には、目を見張るものがあった。そんな新戦力を探し出し、楽天の躍進を支えたのがスカウトたち。現在、楽天のスカウト陣は8人。その1人に「獲得した選手は必ず成功する」と言われ、他球団から一目置かれる敏腕スカウトがいる。後関昌彦(54)。スカウト歴25年。これまで後関が入団させた選手は、ドラフトの順位に関係なく、ほぼ全員が1軍で活躍、チームに欠かせない存在になっている。そんな後関の発掘力に、立花球団社長も絶大な信頼を置く。実はチームの2017年の躍進を支えたこの投手も後関がスカウトした。2016年ドラフト9位で入団した高梨雄平(25)。プロ入り前、高梨は所属する社会人チームでベンチ入りすらままならない投手だった。他球団のスカウトは高梨に見向きもしなかった。しかし後関は違った。大学時代から彼の強気なピッチングに目をつけ調査を継続。するとドラフト半年前、驚くべき変化が。投球フォームが変わった。上手投げだった高梨がサイドスローに転向していたのだ。これを見た後関は確信する。
「高梨は絶対にプロで通用する!」
左の中継ぎは重要な補強ポイントだった。そして他球団が全くノーマークのままドラフト9位で入団した高梨は、プロ1年目の2017年、驚くべき活躍を見せる。並入る強打者を次々ねじ伏せる。試合後半のピンチを幾度となく切り抜け、勝利に大きく貢献。後関が発掘した新戦力が、楽天の2017年の躍進を支えていた。高梨は言う。
「後関がいなければ、今の自分はなかった」
後関は日頃のスカウト活動で、あることを心掛けている。気になる選手がいれば現地に何度も足を運び、自分の目で見極める。しかしその際見ているのは、野球のプレーだけではない。プレーの後の選手の様子も観察しているという。そして2017年9月、後関は頭を悩ませていた。チームからある重要なミッションを託されていたのだ。2017年7月、スカウトが一同に会した会議で球団社長が、来季の補強の重点ポイントを告げた。将来4番を任せられる和製大砲の獲得。候補は3人上がった。早稲田実業・清宮、履正社・安田、九州学院・村上という高校球界のスラッガー。しかし彼らは、他球団との競合が避けられない。確実に取れる大砲候補を探せ。それが後関に託されたミッションだった。この時、後関の脳裏にはある男が浮かんでいた。東京六大学リーグ、慶応大学で4番を打つ岩見雅紀。187cm、108kgの体格から、特大のホームランを放つ。ドラフト直前の秋のリーグ戦13試合で7本のホームランを量産。しかし後関は、そんな目に見えるデータ以外のある変化に岩見のプロでの成功を感じた。
2017年10月25日。ドラフト前日。会場となるホテルの一室に楽天のスカウト陣が集まった。この日はスカウトにとって正念場。自らの目と足で探してきたドラフト候補を球団首脳陣にプレゼンする。原則非公開のその現場の撮影が特別に許された。午前11時、あの男が現れた。星野仙一、球団副会長。2018年1月、すい臓がんのため70歳でこの世を去った星野は、その3か月前、ごく一部の関係者以外、病状を伏せたままこの会議に出席していた。誰をどの順位で指名するか、最終決定権を持つ星野にスカウト陣が決めたプランを提案するのが例年の習わし。しかし上位指名を誰にするか絞りきれない。その後、梨田監督と立花球団社長も到着。いよいよドラフト戦略会議が始まった。担当スカウトが自ら用意した映像で、ドラフト候補の特徴を星野を始め球団首脳陣に説明する。そして、後関の番が回ってきた。自信を持ってあの男をプレゼンする。慶応のスラッガー、岩見をプレゼンする後関の言葉に一同聞き入る。スカウトたちのプレゼンは終わった。まず誰を1位指名するのかを決める。星野の一声で清宮の1位指名が決定。外した場合は将来性を見込み、九州学院・村上を指名する事が決まった。そしてドラフト当日、本番の5時間前。他球団の動向を探りつつ、2巡目以降の指名を最終確認していた。その時、思いも寄らぬ情報が飛び込んできた。後関が押す、慶応・岩見を2位で狙っている球団があるという。ここで後関が最後のアピール。あとは運を天に任せるのみ。
ついに迎えたドラフト会議。悲願の和製大砲獲得を狙う東北楽天・後関スカウトは、球団首脳陣と共に最終決定を下すテーブルに着いた。控え室では他のスカウトや関係者がその瞬間を待っていた。清宮は予想通り楽天を含む7球団が競合。結果、楽天は清宮を獲れず、続いて外れ1位で指名した九州学院・村上も他球団が獲得した。結局、楽天が1位で指名したのは、なんと大砲ではなく岡山商科大学の投手・近藤弘樹だった。村上まで外した場合、1位指名は即戦力投手に方針転換すると前日の会議で決めていたのだ。しかし、後関スカウトが推す和製大砲、慶応・岩見は絶対に獲得したい。2巡目からは、成績下位のチームから順に指名。パ・リーグ3位の楽天は巨人の次の7番目。先に岩見が指名されれば諦めるしかない。運命の糸は繋がっていた。後関スカウトが推し、星野も惚れ込んだ和製大砲を2巡目で指名成功。ドラフト終了後、後関スカウトは安堵の表情を浮かべていた。そして2018年、楽天に入団した岩見雅紀はバッティング練習で大器の片鱗を覗かせている。果たしてどんな活躍を見せるのか?
野球にかける多くの若者の人生をより大きく花開かせるために。楽天が誇る敏腕スカウトの戦いはこれからも続く。
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