TBSテレビ 金曜ドラマ「LADY〜最後の犯罪プロファイル〜」

2011年1月7日スタート 金曜よる10時放送

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桐生先生のコラム

おしまい[関西国際大学教授 博士(学術) 桐生正幸]

昨今の日本の凶悪犯罪は、増加せずむしろ減少し、明治から今に至るまで概観しても、犯行の残虐性が高まっているとも思われません。変化したのは、たぶん次の3つです。
1)私たちの、犯罪に関する情報量
書物、ニュース報道、インターネットなど、犯罪の手口や方法、世界の犯罪事情など、とても豊かになりました。
2)過度な事件報道
ある事件が発生すると、凶悪なものであればあるほど、どの新聞もTV局も連続的に報道されます。被害者と被害者周辺情報から始まり、予測される犯人像が描かれ、逮捕されると、加害者自身、加害者周辺情報が順序よく流されます。いったんの終結が見えてくると、もしくは別の事件が発生すると、何事もなかったように、その事件情報は消えてしまいます。
3)犯罪者の動機と行為のギャップ
ささいな理由で、本格的な方法を用いて、凶悪な犯行を行ってしまう傾向。会社でのムシャクシャした気持ちが動機となり、公共物を壊す、従来の犯行から、同じ理由で人を襲う、いったような傾向が現れてきました。

このコラムで何度か書きましたように、犯罪者プロファイリングの見方というのは、客観的に事実だけを眺め、客観的に分析し、犯罪の本質を見定める、といったものです。日本の凶悪犯罪は増加していませんが、動機や取り巻く環境、そしてそれを見聞きする私たちが変化していることを、犯罪者プロファイリングは教えてくれます。
「LADY〜最後の犯罪プロファイル」は、その変化をなぞるような形で進行し、そして成長しました。

「人は人を殺したって誰も幸せになりません」
翔子は、殺人鬼になってしまった精神科医の今泉にそう答えました。
第一話で、前代未聞のモンスターと化した国木田から「俺は、なんで生まれてきたんだ」と問われ、言葉に詰まってしまった翔子でした。が、犯罪を冷静に見つめる目と同時に、犯罪に対する揺るぎない自信が、今泉への言葉として現れます。翔子は、確実に成長しました。

さて、若者の成長が、時として世の中を動かす時があります。
例えば、1960年代の出来事。かわいい4人の男の子たちが、その音楽とファッションの新奇さで支持され、そして、けなされました。
支持したのは、主に若い世代でした。何か見たことも無い新しい世界を感じながら応援し続けました。けなしたのは、大人の世代でした。
今までの価値観がひっくり返りそうで、得体の知れない不安を感じ、五月蠅い奴らと避難し続けました。4人は、凄いスピードで進んでいきます。すると、彼らを応援していた若い世代も、彼らの変化に着いていけず、他のかわいいグループへ興味が移っていきます。大人も同様です。少しずつ世の中を変えてしまっている彼らの尻尾すら掴めなくなってきました。
ところが、彼ら4人も悩んでいたのです。泡と消えるポップじゃなく、いつまでも輝くアートを求め、異文化へ旅立ちます。一時、彼らの姿が見えなくなりました。その間、社会が徐々に彼らに追いつきます。
ある日、ひげ面の(かわいくない)4人が、時代を代表する作品を掲げて現れました。架空のバンドショーで、「おはよう、おはよう」「かわいいリタ」「だんだん良くなって」でも「彼女は家を出ていく」と演じます。その時、初めて子どもも大人も、真の意味で彼らを了解することが出来ました。時代と彼らは、ようやく一致したのです。
時代が変化している時は、多くの人がその変化に気づくまで時間がかかるようです。

さて、「LADY〜最後の犯罪プロファイル」全10話それぞれにおいて、今の社会に、多くの物を投げかけたと思われます。単純に善悪のみで犯罪を眺めないCPSの姿勢は、これまでにないストーリーを創出したものと思います。種は、様々なところに蒔かれました。後は待つだけです。

最後にお礼を。プロデューサーはじめスタッフのみなさま、出演者のみなさま、本当におつかれさまでした。これまで警察ドラマに無かった専門用語の使用から、地理的プロファイリングの完成図作成など、いろいろな私のわがままを全て具現化していただき感謝しています(プロファイラーを見事に演じた北川さんを、毎週見ていた若い世代は、きっと優秀なプロファイラーとして、将来活躍してくれることでしょう)。
本当に有り難うございました。そして、お疲れさまでした。

桐生正幸 博士(学術)

関西国際大学 教授/人間心理学科長/防犯防災研究所長

文教大学人間科学部。山形県警科学捜査研究所主任研究官として、ポリグラフ検査や次にどこで事件が発生するかを予測する犯罪者プロファイリングの業務などに携わる。退官後は、関西国際大学教授として、「地域防犯対策」「犯罪不安」など犯罪を構成する諸々の要因を総合的に検討して、実践的な犯罪心理学の研究を行なっている。さらに、自治体や警察主催の会議をはじめ全国の講演会や、PTA・地域に対する防犯対策面での提言を行うなど防犯分野においても幅広く活躍している。