SPECIAL(スペシャルコンテンツ)|一度は言ってみたい「沙羅駆 語録」
IQ246の頭脳を持つ沙羅駆は、基本“上から目線”!ずば抜けた天才ならではの発言で、「一度でいいから言ってみたい〜」と思わせる言葉ばかり。そんな沙羅駆の相手をする刑事・奏子や執事・賢正の言葉には、「一度は言われてみたい」と思ってしまうものも!
普段の生活で使うことはないと思いますが、一度は声に出して言ってみてください。すこし高貴な気分を味わえますよ(笑)。天才貴族・沙羅駆を中心に、奏子や賢正のセリフも紹介しますので、暇つぶしにお読みくださいませ。
●法門寺家の長男にだけIQ246の頭脳が遺伝
●特許を得ている発明品2018点
●著書は3625冊
●殺人事件の実地研究に嵌っている
法門寺家は、あらゆる学問を研究してきた学究派の家系で、古くは朝廷や公家、武家の行事を取り仕切っていた。国文学、歌学、歴史学、地理学、とにかく何でも研究する、その中でも力を入れていたのが、『犯罪の研究』だった。
ある『事件』により、時の権力者に疎んじられて北鎌倉に存在を隠されている。
第10話〜最終話〜
豊 臣「法門寺沙羅駆を逮捕しろ」
奏 子「!」
豊 臣「これは命令だ」
奏 子「できません」
豊 臣「!和藤、貴様、それでも警察官か」
奏 子「私は警察官です。でも、その前に一人の人間です。一人の人間として、法門寺さんを信じてます!」
奏子が沙羅駆を庇う。
銃弾を受け、倒れる奏子。
沙羅駆「!」
賢 正「!」
苦しそうにしている。
賢 正「奏子様、お気を確かに」
沙羅駆「……」
奏 子「鉄板入れてたんですけど……外れちゃいました……」
沙羅駆「しゃべるな」
奏 子「なんか、寒くなってきました……もしかして、やばいですか、私…」
沙羅駆「バカを言うな」
奏 子「特上カルビ……食べたかったなあ……」
沙羅駆「……好きなだけ食べさせる」
賢 正「そうですよ、奏子様。止血をすれば大丈夫です」
奏 子「…私、…私、死にたくない」
賢 正「若!」
沙羅駆「君たちの目は節穴か!このように純粋でバカ正直な人間を撃つとは」
賢 正「…」
沙羅駆「命令は絶対だ。何も考えるな。機械になれ。意思など持つな!何も考えるな!そう訓練されているのだろう。だが、君たちは人間だ。あの者を見て、君たちは何も感じないか!」
賢 正「警察が来るのは時間の問題ですね」
沙羅駆「和藤奏子は、ごく平凡な一般的国民だ……純粋で、正直で、真っ直ぐな」
賢 正「はい」
沙羅駆「そのような人間を見殺しにする世界など……こんな世界など続けていく意味があるのか」
賢 正「若……」
沙羅駆「政府の機密データを盗む。和藤奏子を今すぐ救うように交渉しよう」
賢 正「かしこまりました」
(中略)
沙羅駆「交渉に一番適しているのは、やはり軍事機密……」
奏 子「法門寺さん……」
沙羅駆「!」
奏 子「ダメです……犯罪に手を染めては……」
沙羅駆「……」
賢 正「……」
奏 子「それじゃ……マリアTと同じ……です……」
沙羅駆「……」
沙羅駆「君の目的は何だ?」
マリアT「すべてをゼロにしたいの。この世界の延長戦上に、未来はないわ。今ある価値観をすべて壊して、新しい世界をつくるのよ」
沙羅駆「それがIQ300の出した結論か」
マリアT「そうよ」
沙羅駆「たいしたことないな。それは目の前から、逃げ出しているだけだ」
マリアT「大儀の前に、多少の犠牲はつきものよ」
沙羅駆「そのためには、人を殺す事もいとわないと?」
マリアT「ええ」
沙羅駆「それを認めるわけにはいかないな。和藤奏子は死にたくないと言った。自らの意思に反して、他人がその人のものを奪うことは、悪だ。すなわち君は…悪だ」
マリアT「私とあなたは似たもの同士だと思っていたのに……そうじゃなかったのね。残念だわ」
沙羅駆「……」
マリアT「周囲の愚かな人間のせいね」
沙羅駆「確かに、人間は愚かだ。何度でもを失敗する。が、同時に成長もする。昨日はできなかったことが、今日、できることもある。私一人ではおそらく、君には勝てないのかもしれない。単純にIQのことだけ考えれば、私の負けだ。が、私には仲間がいる。一人一人は凡人かもしれないが、集まれば、IQ300にも立ち向かえる力になる」
マリアT「詭弁だわ」
沙羅駆「どうかな」
マリアT「この世界に未来はあると思う?」
沙羅駆「この世界は、良いところも、君が言うように悪いところもある。だが、諦めれば未来は終わる。必要なのは、諦めずに考え続けること」
マリアT「凡人がいくら考えても無駄だわ」
沙羅駆「凡人の一歩は、小さな一歩かもしれないが、前を向く一歩であればそれでいい。全ての人間に考える価値があり、その違いが、豊かな価値観や感性を生む。人間の可能性を否定する君の考え方は、ああ、醜い。醜悪至極なり」
マリアT「…」
沙羅駆「君はずっと一人で生きて来た。もし、誰かを信頼できれば、君の人生も違っていたのではないか」
マリアT「……」
沙羅駆「人は、一人では生きられない」
マリアT「……甘いわね。私はそんな言葉には丸め込まれないわよ」
(中略)
苦しみだすマリアT、その場に倒れる。
沙羅駆「なぜ私を殺さなかった。この方法なら私を道連れにすることもできたはず」
マリアT「こんな世界。未練はないから。でも、あなたは」
沙羅駆「……」
マリアT「……さよなら。私が愛した脳細胞」
動かなくなるマリアT。
マリアTを見下ろす沙羅駆。
第9話
沙羅駆「ご機嫌よう。マリアT。死体の山にまぎれこみ、ようやく逃げのびたようだが、ご気分はいかがかな?」
奏 子「マリアT!」
賢 正「…」
沙羅駆「脱獄おめでとう。私を罪に陥れるために、牢屋に入ったり、私の罪が晴れると、牢屋から逃げ出したりと忙しいようだ。しかも、いささか手口が稚拙で卑怯だ」
マリア・T「挑発しても無駄だわ。だってあなたの大切なものが、私の手の中にあるのよ」
沙羅駆「ほお。これは面白い」
奏 子「?」
賢 正「…」
マリア・T「他人に心を許し、仲間が増えていった…。それが、あなたの弱点になった」
沙羅駆「…」
マリア・T「人はいずれ死ぬものよ。その事だけは全ての人に平等。遅いか早いかだけの違い」
賢 正「ふざけるな。テロリストの分際で。俺が殺してやる」
沙羅駆「落ち着け、賢正」
賢 正「落ち着いてなどいられません。若はなぜ何も言わないんですか?」
沙羅駆「家に電話を」
賢 正「はい。え?順新堂病院ですね」
沙羅駆「どうした」
賢 正「父が車にはねられて、病院へ運ばれました」
沙羅駆「賢丈か」
奏 子「法門寺さんにとって、賢丈さんや賢正さんは特別の存在なんですね」
賢 正「父は、若様を実の息子以上に大切にしてきました。若様も、それをお感じになられているんでしょう」
奏 子「あれ、今、さりげなく、屈折した息子を自己表現しちゃったりなんかしたり……してます?」
賢 正「若様は、口では色々とおっしゃいますが、本当は奏子様のことを、護衛係以上に、大切に思われているんですよ」
奏 子「どうでしょう?」
賢 正「私が保証します」
棚 田「マリアTの交換条件は、日本銀行のデータベースへアクセスするパスワードだ。狙いは金だろう」
沙羅駆「それはどうでしょう」
棚 田「違うというのか」
沙羅駆「目に見えるものが、真実であるとは限らない」
棚 田「とにかく、我々に力を貸してくれませんか?」
沙羅駆「お断りします」
棚 田「!」
奏 子「!ちょ、ちょ、法門寺さん」
沙羅駆「私は忙しい」
棚 田「もし断ったら、どんなことになるか」
沙羅駆「それは脅しととらえてよろしいか」
棚 田「警視総監の私が、これほど頼んでも?」
沙羅駆「肩書きなど……」
棚 田「…わかった。もうあなたには頼まん」
(中略)
奏 子「この病院に警視総監も頼むような偉い人が入院してるんですね」
沙羅駆「そうらしいね」
奏 子「だったら、一緒じゃないですか」
沙羅駆「私は私の大義のためにのみ、この頭脳を使う。そしてマリアTを倒す」
奏 子「そこをわける意味がわかんないんですけど」
賢 正「それは、即ち、殺しても、よいということですね?」
沙羅駆「ああ、賢正、はやまるな」
賢 正「若はヤツに甘すぎます」
沙羅駆「…」
奏 子「…」
賢 正「もし、さっさと、ヤツの息の根を止めておけば、いくつもの命が救われたことでしょう」
沙羅駆「そう思って、ずっとついてきてたんだな」
賢 正「私は若を裏切るつもりはありません。しかし、マリアTだけは、この命に替えても……殺します」
沙羅駆「ならん」
賢 正「その命令はお受けできません」
沙羅駆「なんと言ったらならん」
賢 正「聞けません」
奏 子「たんま!これ、私を騙すドッキリですよね」
賢 正「父をお願いします」
奏 子「射殺許可命令?」
沙羅駆「そんなに驚くことかね」
奏 子「だって、……。ここは日本ですよ。法治国家ですよ。射殺って…」
沙羅駆「権力が常に正しいことをするとは限らない。むしろ、権力者ほど自らの保身の為に暴走するものだ」
沙羅駆「彼女は、自分が殺されるなどと、考えていないんだろう。いや、むしろ…」
奏 子「なんですか?」
沙羅駆「殺されたいと望んでいる…」
奏 子「そんな人、いませんよ」
沙羅駆「法門寺家の長男は代々短命だ。平均寿命29歳。IQ246の頭脳が疎まれ、時の権力に暗殺されたのが約3分の2。そして残りの3分の1は自殺だ」
奏 子「自殺なんて、一番してはならない事です」
沙羅駆「なぜだ」
奏 子「遺された人たちの悲しみを考えたら、どんなに苦しくたって、自分で自分の生命を絶つなんて……」
沙羅駆「ラプラスというフランスの数学者は、こう言った。全ての物質の位置と力学的状態は、今、この瞬間、決定している。即ち、未来は、その物理学的結果にすぎず、未来はすでに決まっているんだ、と。そして絶望のまま、その生涯を終えた」
奏 子「…」
沙羅駆「IQ246の私でさえ、未来に対し、明るい展望は持ちきれない。IQ300と言われるマリアTにとって、今のこの世界は、どう映っているのであろうか」
奏 子「それは間違ってます!間違ってる!間違ってる!間違ってる!」
沙羅駆「…」
奏 子「訳わかんないこと言っても、私はだまされませんよ。IQが高くたって、低くたって、正しい事は正しい!間違っていることは間違っているんです」
沙羅駆「…」
奏 子「せっかく、お父さんとお母さんからもらった生命なんです。たったひとつの生命なんです。自殺はもちろんダメだし、他人を殺したりするのも絶対ダメです」
沙羅駆「(笑う)」
奏 子「な、なんですか」
沙羅駆「君は正しいな。とても正しい」
奏 子「…」
沙羅駆「さすがは、私の護衛係だ」
マリア・T「私がなぜ、日本銀行のデータベースのパスワードを要求したかわかる?」
沙羅駆「君がお金に興味があるとは思えない」
マリア・T「やっぱりあなたは私のことがわかるのね。お金なんて幻想よ。ただの数字に過ぎない。なのに、この世は金のあるなしで優劣がついてる。私はそれをなくしたいの」
沙羅駆「なくす?」
マリア・T「この世界は、声の大きい者に真実や大事なものがかき消されている。武田さんを見たでしょう?弱者は強者に食い物にされ、泣き寝入りするしかないのよ。この世は不公平なことばかり、それを是正するためには、時には殺人も必要悪ともいえるわ……」
沙羅駆「君の言っていることが矛盾している。殺人を肯定すれば、強い者がより力を持ち、弱い者は口をつむぐしかなくなる。それに君が犯罪を指南した人間たちも、決して弱者ばかりではなかった」
マリア・T「私はただ、誰かを殺したいという思いに応えただけ。私が背中を押さなくても、彼らは遅かれ早かれ殺人を犯していたはずよ。何が悪いの?」
沙羅駆「私はそうは思わない。人間には思いとどまる理性というものがある。君が背中を押さなければ、崖っぷちで立ち止まっていたかもしれない」
マリア・T「確かにそうね。そもそも、どうして人を殺しちゃいけないの?法律で決まっているからなんて言わないわよね。法律なんて、私やあなたよりIQの低い人間たちが決めたことよ」
沙羅駆「……人は何のために言葉を話すのか」
マリア・T「え?」
マリア・Tに銃を向ける賢正
マリア・Tを庇う沙羅駆
賢 正「なぜですか?やはりあなたは、その女のことを…」
マリア・T「…」
沙羅駆「人は、何のために言葉を話すのか……それは、お互いを理解し、コミュニケーションを図るため…動物のように、お互いに殺しあう必要などない」
賢 正「…」
マリア・T「…」
奏 子「…」
沙羅駆「お前のしようとしていることは、マリアTと同じだ」
賢 正「!」
沙羅駆「私は、お前を……人殺しにはしたくない」
賢 正「…」
賢 正「……申し訳ございませんでした。もう二度と、同じ過ちを繰り返すようなことはしません」
マリア・T「…」
賢 正「若!」
沙羅駆「あの時のことを覚えているか?」
賢 正「あの時?」
沙羅駆「お前が子供の頃、初めて出会った時に言ったんだ。剣というものは、人を守る道具にも、人を殺す道具にもなる。例え天才であっても、使い方を間違えれば意味がない。と」
賢 正「生意気なことを申しました」
沙羅駆「いや、私は子供ながら真理をつくお前に感心した。だから再会したとき、行き場をなくしたお前を我が家へと招いた」
賢 正「若……」
沙羅駆「賢正」
賢 正「はい」
沙羅駆「お前は唯一無二の執事だ……」
賢 正「…」
奏 子「法門寺さん。しっかりしてください!」
沙羅駆「ああ、護衛係か…君は、正直で純粋な…」
奏 子「!」
賢 正「…」
奏 子「法門寺さん、なんて言ったんですか?もう一度言って下さい!」
沙羅駆「…」
奏 子「法門寺さん!死なないでください!法門寺さん!」
沙羅駆「…勝手に殺すな。役立たず」
奏 子「へ?」
沙羅駆「君は正直で純粋な役立たずの護衛係だと言ったんだ。だいたい出血している人間をゆするやつがあるか。ますます血が出るだろ。刑事のくせにそんなことも知らんのか」
奏 子「だって……」
沙羅駆「痛みで意識が遠のいただけだ。たいしたことはない」
奏 子「よかった〜。そういえば、マリアTは?」
沙羅駆「これでいい」
第8話
賢 正「一体何の騒ぎですか!」
沙羅駆「お茶の用意でもすべきかな」
山 田「法門寺沙羅駆、九鬼隆平殺人事件についてお伺いしたい」
奏 子「殺人?」
種 子「ご同行、願えますか?」
沙羅駆「ほお。これはおもしろい」
賢 正「若様!」
奏 子「そんな」
沙羅駆「少しは退屈から逃れられそうだ」
沙羅駆「…君は私のもとに来てどれくらい経つ」
奏 子「えーっと、辞令が下りたのが…」
沙羅駆「56日。それほど長いこと私のそばにいながら、まだ分からないかね」
奏 子「といいますと」
沙羅駆「事実をいくら積み重ねても真実には辿りつかない」
奏 子「はあ」
沙羅駆「指紋もDNAも確かに事実ではある。が、それらが示すものは必ずしも真実ではない」
奏 子「えーっと、つまり」
沙羅駆「考えろ。頭を使え」
奏 子「え?」
沙羅駆「事実を真実にするには推理が必要だ。おしはかること、すなわち推理こそが真実に辿りつく唯一の道だ」
奏 子「推理ですか」
沙羅駆「……なぜ君たちはみんな、見るだけで監察しない。見るのと監察するのでは大違いだというのに」
賢 正「どうして、こんなになるまで。あなたの役目は終わったはずなのに」
奏 子「終わってなんかいません!」
賢 正「……」
奏 子「…法門寺さん、やってもない殺人のせいで世間から悪魔みたいに呼ばれて…でもそれは私の情報漏えいのせいでもあるし、私はあの人の護衛係なのに」
賢 正「……」
奏 子「私は法門寺さんみたいに天才じゃないし、賢正さんみたいに強くもないし、役立たずだけど。でも!」
賢 正「……」
奏 子「みんなに、世間に証明したいんです。あの人は、偏屈でイヤミで意地悪で、正義感も変だけど、私の知ってる法門寺さんは、絶対に人を殺したりしないって。私、法門寺さんのこと信じてますから!」
賢正、小さく笑う。
賢 正「やはり、あなたはただのお目付け役ではなかったんですね」
奏 子「え?」
賢 正「私は私なりのやりかたで若様を救う手だてをつくしていました。しかし、これからは一緒に調べていきましょう」
奏 子「賢正さん」
賢 正「真犯人が誰であれ必ずこの手で捕まえます。命に代えても」
奏 子「いつもの賢正さんだ。……よかった」
種 子「マリアTの金の流れと法門寺のあいだに不審なつながりはないか。マリアTの復元したメールの送信履歴に、改ざんの跡はないか。徹底的に調べるつもりだ」
山 田「それが分かれば、法門寺への牛田管理官の疑念の一端を晴らせるだろう」
奏 子「お二人は法門寺さんのこと」
山 田「法門寺はああいう奴で、とんでもないああいう奴だが」
種 子「悪人ではない。まあ、善人でもないがな」
奏子、賢正を見て微笑む。
山 田「We can do it!」
種 子「英語やめろ!」
奏 子「見つけました。真実を」
牛 田「……和藤、あいつはお前にとってどんな奴だ?」
奏 子「信じられる人です。すごく変人だけど。(頭を下げ)失礼します」
牛 田「……」
沙羅駆「相変わらず似合わないネクタイだ」
牛 田「お前の疑いがすべて晴れたわけではない」
沙羅駆「……君は優秀だ。いずれ真実をつかむだろう。マリアTのことも」
牛 田「お前は8年前の事件で私が負けたと思っているようだが……」
沙羅駆「分かっている。勝ち負けではない。あの時も今も、私のまわりには信頼にたる人間がいた。君はどうだ?」
牛 田「……必要ない」
沙羅駆「そこが私と君との差だ」
歩き出す、沙羅駆と牛田。
沙羅駆「ああ。教えておこう。チャーチルは赤いネクタイなどしていない。赤いネクタイは、ケネディだ」
牛 田「いいや。私がしている。だからこれは正義のネクタイなんだ」
沙羅駆、小さく笑い、歩きだす。
牛 田「……待っていろ。借りはいつか返す」
沙羅駆「いつでもどうぞ」
沙羅駆「60日と1時間37分」
奏 子「え?」
沙羅駆「二か月間、護衛係として、私のもとにいたのは君が初めてだ」
奏 子「え?そうなんですか」
沙羅駆「なぜ私が犯人じゃないと考えた?」
奏 子「考える?どうして考える必要があるんです?そんなの当たり前じゃないですか」
沙羅駆「当たり前、か。……思った通り、不合理な答えだ」
奏子、ムッとする。
沙羅駆「捜査というのは冷静で非感情的な方法で扱われるべきもの。それを、実に愚かなヤツだ」
奏 子「はあ?何ですか、愚かって!今回は私と賢正さんがいなきゃ」
賢 正「奏子様、若様は謝辞を表しておられるのかと」
沙羅駆「北鎌倉へ帰るぞ」
奏 子「しゃじ?」
賢 正「失礼しました。簡単にいうとお礼の言葉です」
奏 子「お礼?いまのが?」
沙羅駆の背中を見遣る奏子。
奏 子「てか、ちゃんと言われてないし、ちょっと!法門寺さん!しゃじはもっと分かり易く!」
沙羅駆「黙らないとおいていくぞ。和藤奏子」
奏 子「え?いま私の名前……」
顔を見合わせる奏子と賢正、瞳、賢丈。
賢 正「確かに」
奏子、嬉しそうに微笑む。
第7話
朋 美「沙羅駆さん?助けに来ました」
沙羅駆「……」
マリアT「……」
沙羅駆「マリアT……」
マリアT「美しいわ。やはり死こそ孤高の美」
沙羅駆「……」
沙羅駆の手が伸びる。
沙羅駆「待ちかねたよ、マリアT」
マリアT「!」
沙羅駆「新種のウィルスを仕込み、私を殺そうとするとは大胆だった。だが、きみ同様、ワクチンは開発済だ。すでに接種してある」
よろよろと起き上がる沙羅駆、マリアTを取り押さえる。
マリアT「いつの間にワクチンを」
沙羅駆「何のためにきみのいる解剖室に、行っていたと思う」
マリアT「お見事。まるであの時みたい」
沙羅駆「全身整形で別人になりきるとはね。ただ、身体から溢れる品性だけは、ごまかしようがない」
マリアT「これでも結構、苦労したのよ。少しも引っかかってくれなくて残念だけど」
マリアT、銃を取り出し沙羅駆に向ける。
沙羅駆「銃。君らしくない。それは頭脳での負けを認めるということか……」
マリアT「…」
沙羅駆「ドブネズミにも、ドブネズミなりのプライドがあると思っていたが、買い被りだったようだ」
が、どうしても意識が遠のいていく沙羅駆。
マリアT「ワクチンが効くまでおとなしくしてて。今日のところはとどめをさすのはやめておくわ」
怪しい微笑みを残し、去っていくマリアT
沙羅駆、薄れゆく意識。マリアTの足音が美しく響く。
賢 正「私がついていながら、若様を危険な目にあわせてしまい、申し訳ございませんでした」
賢 丈「本当だ」
沙羅駆「賢丈、相手は『マリアT』だ」
奏 子「マリアTって、一連の事件の黒幕の?」
沙羅駆「ああ。『13』だの、『M』だの、色々と呼び名はあるが……」
賢 正「まさか、監察医の森本朋美に成りすましていたとは」
奏 子「え?!森本先生が!?」
沙羅駆「きみは気づいていただんだろう。ドM、ドMと言っていたじゃないか」
奏 子「え?あ〜〜〜!」
賢 正「若は、最初から気づかれていたんですか?」
沙羅駆「まあ、気づいてはいた。だが証拠がなかった」
賢 正「証拠など必要ありません。教えて下されば、私が即刻射殺致しましたのに」
奏 子「!?ちょ、ちょ、ちょ」
沙羅駆「だからお前には言わなかったんだ。出かける」
賢 丈「若様、まだお体が」
沙羅駆「私はこの通り。だが、彼女は無傷だ。こんな屈辱があるか」
奏 子「もしかして……そのパソコン」
賢 正「ええ。森本朋美が使っていたものです。」
奏 子「あの……マリアTって、いったい何者なんですか?」
賢 正「許せない人物です。絶対に」
沙羅駆「君には関係のないことだろう」
奏 子「ちょっと、仲間外れはやめてくださいよ〜」
沙羅駆「君と仲間になったつもりはないが」
奏 子「感じ悪っ」
賢 正「マリアTは、世界的に暗躍する犯罪コンサルタントで、IQ300と言われています」
奏 子「IQ300!?人間超えてません?」
沙羅駆「私だ」
マリアT「ご機嫌よう」
沙羅駆「うちのお屋敷に、何か御用かな」
マリアT「ご挨拶に伺っただけよ」
沙羅駆「ほお。わざわざ私の留守を狙ってかね?」
マリアT「退屈しのぎよ。でないと毎日が苦しいもの」
沙羅駆「……」
マリアT「生きるという牢獄。メルセンヌ素数のようにあなたが私を見つけてくれたら、私は存在し続けられる。そのご恩返しよ」
沙羅駆「ご恩返し?」
マリアT「あなただってそうじゃない?私がいなくなったら、毎日が死ぬほど退屈になるわ。本当に死を選ぶかもしれない。IQ246のあなたの先祖代々のようにね」
沙羅駆「あなたに届いていた脅迫状を全て調べさせてもらいました。けれど、その中に、一通だけ、違うものがあったんです」
賢 正「分析した結果、他の脅迫状とは全く違う成分が検出されました。ゆえに若様は、あなたに本物のストーカーがいるとにらんだ。それであなたに付き合うふりをして、ストーカーを刺激したんです」
麗 子「私とのことも、全部芝居だったの?」
沙羅駆「あなたのお芝居、大好きです。が、あなた自身のことは、好きでも何でもありません」
麗 子「!……皮肉よね。女優の私が、素人のあなたに騙されるなんて」
奏 子「どうして。どうしてですか……。あなたのような才能のある女優さんが、どうして?」
麗 子「……」
沙羅駆「あなたにとって、この役は、どうしてもやりたい役だった。……そうじゃありませんか?」
(中略)
沙羅駆「だが、主役に選ばれたのは千草あやめだった」
麗 子「あやめはあの映画をみたことすらなかった……。作品に対する冒涜よ。この時確信したの。この作品をやれるのは、私しかいないって」
奏 子「だとしても、殺人は許されません」
麗 子「あなたには分からないでしょうね。だいたい若いだけが取り柄の大根女優を使うより、私が演じた方が作品のためにはずっといいじゃない」
沙羅駆「日本の社会は女性の価値に対して習熟していません。若い女の子ばかりもてはやし、無批判に迎合する。しかし、何も考えずに済む若く美しい時期は短い」
麗 子「おっしゃる通り。法門寺さんみたいな男性が増えれば、日本も少しはましになるのに」
沙羅駆「まだわかりませんか?あなたは殺人を犯した時点で、あなたが毛嫌いしているその未熟な価値観に屈したということを」
麗 子「!」
沙羅駆「ああ、あなたのような素敵な方なら、年齢を重ねても魅力的な大人の女性の役をまだまだ演じられたと思いますが……惜しいことをしてしまった……」
麗 子「……。あなたに、もっと早くに出会いたかった」
沙羅駆「私もです」
警察に取り押さえられているマリアT。
山 田「森本朋美こと、マリアT。電磁的記録不正作出供用罪で逮捕する」
マリアTに手錠をかけようとする山田。
種 子「私がやる」
マリアT「残念だわ……捕まるならあなたに、と思っていたのに」
第6話
沙羅駆「入るな」
奏 子「入ってません。何読んでいるんですか?」
沙羅駆「アンジェリーナ・ジョリーの次回作のシナリオだ。中国の不動産会社が、出資に値するか、私に読んでくれと頼みにきた」
奏 子「なぜ中国の不動産会社が」
沙羅駆「映画は既に投資産業だ。映画のシナリオを読んで、出資するかどうかのコンサルタントもハリウッドでは常識だ」
奏 子「えー。がっかり。映画の出資は、芸術的評価だと思ってたのに」
沙羅駆「映画だけではない」
奏 子「あー。もう、法門寺さんといると、色々ガッカリする」
沙羅駆「この映画、投資に値せず。アンジーにもそう連絡しておこう」
沙羅駆「御機嫌よう」
朋 美「沙羅駆さん」
足 利「法門寺さんからも何とか言ってくださいよ。今夜も残業なのに、朋美先生嬉しそうで。なんでそんなに死体が好きなんですか?」
沙羅駆「私も興味がある。医療は生を扱う仕事なのに、死を扱う法医学を選んだ理由は?」
朋 美「死だけがもたらす究極の孤高、それがたまらなく好きなんです」
沙羅駆「ふむ。孤高の美しさか」
朋 美「ええ。天才マーク・ロスコの、誰にも理解されなかった作品など、もう最高です」
沙羅駆「天才ゆえの孤独が、孤高の美しさの本当の姿を理解する」
朋 美「その通りです!」
沙羅駆「いや、どうだろう。きみは本当に理解しているといえるのだろうか」
朋 美「もちろんです。美しいのは死だけとは限りません」
沙羅駆「例えば?」
朋 美「例えば完全犯罪。これも孤高の美を兼ね備えています。誰にも触れられないまま時の彼方に埋もれていく真実」
沙羅駆「だが私の考える完全犯罪は、死というベールに欲望という名を包み、生という刹那的なものを弄ぶような表面的なものとは訳が違う」
朋 美「興味深い解釈ですね。沙羅駆さんとなら、一晩中でも語っていられそう」
賢 正「私の主人・沙羅駆はたぐいまれな頭脳の持ち主で、私など足元にも及びません」
葵「……はあ」
賢 正「ですが、あの絵に込められた想いだけは、私にもわかりました」
葵「……あの絵?」
賢 正「亮次さんの家にあった絵です。モデルはあなた。描かれたのは壮一さんですね。繊細なタッチに溢れる愛情を感じました」
壮 一「あんたがいなきゃ、完ぺきだった」
沙羅駆「完ぺき?私が現れなくても、金で手に入れたものなど、また金で買われる運命に過ぎない。ましてや、才能に対する評価など、金で買ったところで虚しいだけだ。そんな事はいくら愚かなあなたでも、本当は気づいているでしょう」
壮 一「……」
沙羅駆「しかし、あなたは自分の才能を信じることを放棄し、6億という金の為に、肉親である弟を殺した。しかも、その弟も金の亡者で人殺しだ」
壮 一「……」
沙羅駆「ああ。醜い醜い醜い!この犯罪醜悪至極なり」
(中略)
沙羅駆「あなたには絵を描く才能はあった。だが、自分の絵の価値を見抜き、信じる才能が全くなかった。皮肉なことです」
沙羅駆、加湿器を奪い、奏子をつきとばす。
奏 子「キャッ」
賢 正「若!」
沙羅駆「……来るな。逃げろ。あなた方も早く逃げなさい」
賢 正「しかし!」
沙羅駆「賢正、私が倒れた後は、お前しかない。わかるな」
賢 正「(うなずく)」
奏 子「法門寺さん!!」
沙羅駆「大丈夫だ。賢正、すぐにここを封鎖しろ!」
賢 正「はい」
朋 美「沙羅駆さん?助けに来ました」
沙羅駆「……」
マリアT「……」
沙羅駆「マリアT……」
マリアT「美しいわ。やはり死こそ孤高の美」
沙羅駆「……」
第5話
賢 丈「うおっほん!実は若様に、行っていただきたいあれが、あれ?あれ?」
賢 正「アートギャラリーのオープニングセレモニー」
沙羅駆「社交の場など、退屈とウソつきの巣窟。時間の無駄だ」
賢 丈「そう仰らずに。ギャラリーの館長がそれはそれはお美しいかたで。若様とのつりあいもばっちり」
賢 正「『バナナ&チョコ』ですか。面白い名前ですね」
奏 子「あ!それ、いますごい人気のアーティストですよ」
瞳「そうなの」
奏 子「しかも、イケメン!」
瞳「まあ」
奏 子「行きましょうよ〜」
沙羅駆「興味なし!」
奏 子「たまには山を下りて、都会に行きましょう!帰りはお洒落なオープンカフェに寄ったりして」
賢 丈「若様、お世継ぎを」
奏 子「いいですよね、賢正さん」
賢 正「私は若様の行かれるところであれば、どこへでも」
沙羅駆「見たいんです」
朋 美「はい?」
沙羅駆「見たいんだ」
朋 美「え、沙羅駆さん待ってください。今、ここで?」
朋美の肩をつかむ沙羅駆
朋 美「キャ」
沙羅駆「死体が」
朋 美「え?」
(中略)
朋 美「あ。注射痕です」
沙羅駆「位置から考えて、何らかの自己注射の痕かと」
朋 美「これを見落としていたなんて」
沙羅駆「針の痕というのは予見がなければ見落としやすい。たとえどんな優秀な医者でも」
朋美、沙羅駆を見る
沙羅駆「なにか?」
朋 美「沙羅駆さんがそんな優しい言葉を発するなんて」
沙羅駆「あなたが見落としてくれたおかげで、事件が面白くなった。それだけのことです」
朋 美「徹底的に、調べておきますから!」
朋 美「ね、おかしいですよ。二度もアナフィラキシーを起こしているなんて」
賢 正「何かがおかしいと感じる時、そこには必ず真実が潜んでいる」
朋 美「あら?」
奏 子「賢正さん?」
賢 正「若様なら、きっとそうおっしゃるかと。『これは私が解くに値する謎だ』」
奏 子「(ほー)」
千代能「……それは」
沙羅駆「バナナさんのポケットに」
千代能「…」
沙羅駆「あなたは悲しさを演じることに精一杯で、この破られた名刺には気づかなかったようだ」
千代能に名刺を手渡す
沙羅駆「彼は、これからも変わらず、あなたと一緒にやっていこうと決めたのです。あの日、この場所で。バナナ&チョコとして」
千代能「嘘だ。まさか、そんな……」
沙羅駆「友達を信じられなかったのはあなたです」
千代能「…」
第4話
瞳「次の曲は……。だめ。曲としてなってないわ。なんか不思議な音の並び」
沙羅駆「うーん」
瞳「私には、この曲を理解できないわ」
賢 正「おそれながら、この曲は若様が書いたものですか?」
沙羅駆「ほんの暇つぶしだ。音符など数学的には簡単な羅列だ」
瞳「でも、お兄様には、音楽的才能はないようですね」
沙羅駆「もう二度と作曲はしない」
奏 子「プププ」
沙羅駆「…あー暇だ暇だ暇だ。どこかに私が解くに値する謎はないものだろうか」
種 子「おい!どうなってんだ。お目付け役」
奏 子「すみませーん。平民の私の言う事なんて聞いてくれなくて」
沙羅駆「それで、君、君、明智くん」
山 田「山田だ」
沙羅駆「現場検証、まだ終わらないの?」
山 田「終わったよ。もうとっくにな」
沙羅駆「で、判ったことは?」
山 田「(説明する)」
沙羅駆「それは知っている。それだけ?」
山 田「(説明する)」
沙羅駆「それも見ればわかる。それだけ?」
山 田「(説明する)」
沙羅駆「それだけ?」
奏 子「そろそろ、本気で怒りますよ」
種 子「(怒りの山田を抑えて、説明する)」
山 田「(なんとか持ち直し、説明する)」
沙羅駆「日本の刑事はバカばかりか。この部屋に入って、一瞬で判ることばかりだ」
山 田「勝手に触るな」
沙羅駆「現場検証は終わったんでしょ。ちょっと拝借」
賢 正「警視庁にはこちらの方で許可を取っておきますので」
沙羅駆に促され、推理を披露する奏子
沙羅駆「ひよこ以下の脳ミソに期待した私が、バカだった」
奏 子「へえへえ。ひよこ以下の脳ミソですみませんね」
(中略)
沙羅駆「犯人の目星はもう、ついている。怨恨と愛情は常に表裏一体だ」
沙羅駆「……ふむ」
朋 美「お気に召さない結果ですか?」
沙羅駆「いや。動機を考えていた」
朋 美「後頭部を殴り、とどめに刺殺。よほどの強い恨みと推察します」
沙羅駆「残念ながら犯罪の多くは利己的なものだ。恨み、嫉妬、隠ぺい。美しいものなど何もない」
朋 美「ちなみに、殺したいほど人を憎んだら、沙羅駆さんならどうしますか?」
沙羅駆「完全犯罪を仕組んで殺します」
朋 美「……完全犯罪?」
沙羅駆「犯罪は日々に多々あれど、殺されるとしたら、その人の人生でたった一度きりだ。ならば、周到に計画した完全犯罪で、葬るのが最大の礼節かと」
朋 美「素敵なお考えですね」
沙羅駆「ですが、いまだに、私にそのような想いを抱かせた人物はいない……たった一人を除いては」
朋 美「その方を……うらやましい、と思ったら不謹慎ですか?」
沙羅駆「いささか。法医学の専門家というお立場では」
朋 美「(微笑んで)」
沙羅駆「……」
沙羅駆「見てるんだろう。闇の世界から出て来れない卑怯者」
第3話
賢 正「若、彼女を疑っているのですか?」
沙羅駆「うーん。どうかな」
賢 正「彼女は被害者なんですよ。少し、控えていただけますか?」
沙羅駆「ほう。私に命令するのか」
奏 子「……」
賢 正「そうではございません」
奏 子「ちょ、ちょっと落ち着いて」
沙羅駆「今すぐ暇をやる。出ていけ」
賢 正「ご命令とあらば、喜んでお受けいたします」
奏 子「ちょっとタンマ!タンマ!!」
沙羅駆「……寝る」
出ていく沙羅駆と賢正
朋 美「そういえば、今日は、賢正さんはどちらに?」
沙羅駆「永久に暇をやりました」
朋 美「クビってことですか?」
沙羅駆「左様」
朋 美「ははーん。推察するに、女性ですね」
沙羅駆「……」
朋 美「女の勘は時に天才の脳細胞を凌駕しますね」
足 利「どうしてわかったんですか」
朋 美「こういう時は女性だと相場が決まっているものなんです。それにしても、賢正さんにはちゃんと彼女がいたんですね。てっきりお二人はそういうご関係かと。嫉妬していましたが……」
足 利「それを本人に言っちゃいます!?」
沙羅駆「失敬な。私と賢正はもっと崇高で……。ふん。あんなくだらん奴」
奏 子「あの、賢正さんに謝った方がいいんじゃないですか?」
沙羅駆「なぜだ。悪くないものが謝るというのは道理ではない。謝ることで円滑にコミュニケーションを図ろうとするのは、日本人特有の風習だが、私は取り入れていない」
奏 子「だって、賢正さんが本当にやめちゃってもいいんですか?絶対に困りますよ」
沙羅駆「……彼の人生だ。好きにすればいい」
奏 子「そんな……」
賢 正「若様、もうそのくらいにしてください」
沙羅駆「それは、私よりも、彼女を取るということだね」
賢 正「…そう思っていただいても、構いません」
奏 子「!」
美 晴「!」
沙羅駆「たった一人の女のために、私のもとを去るとは……愚の骨頂だ」
賢 正「恋をしたことがないあなたには分かりませんよ」
奏 子「それを言っちゃ……」
沙羅駆「勝手にしたまえ」
立ち去る沙羅駆。
奏 子「待ってください」
追いかける奏子。
沙羅駆「しかしまぁ、悲しいものですね。お金のために、そこまでするとは」
美 晴「あなたに何がわかるの?生まれたときからお金持ちで何不自由ない暮らしをしてきたあなたにはわからないわ……!」
沙羅駆「私もあなたのことがわかりません。お金があっても心が貧しいと何の意味もないと思いますが……」
美 晴「…」
沙羅駆「ああ、醜い!醜い!醜い!この犯罪醜悪至極なり」
美 晴「!」
沙羅駆「ちなみに、法門寺家の財産は私の代になって30倍に増えました」
賢 正「美晴……お金では買えないものも、あるんだよ。あの頃の君は、それをわかっていたはずなのに……」
美 晴「賢正君だって、変わっちゃったじゃない……私を裏切るなんて」
賢 正「俺は変わってない」
奏 子「っていうか、最初から、騙したってことですか?私のこと」
賢 正「申し訳ありません。敵を欺くにはまず味方からと申しますので」
奏 子「もう〜、本当に心配したんですからね」
賢 正「私はお仕事として沙羅駆様にお仕えしている訳ではありません。沙羅駆様の人間としての器、そして御恩返しとして、私の人生をお預けすると決めたのです」
沙羅駆「…」
奏 子「御恩返しって、何があったの?」
賢 正「私が若様を裏切ることなど、絶対にありません」
沙羅駆「…その割には真に迫っていたような気がするが」
賢 正「さあ、どうでしょうか(微笑み)」
第2話
沙羅駆「キルリスト?なんだそれは?」
奏 子「(自慢げに)え〜!知らないんですかぁ〜」
沙羅駆「どうせ知らなくても生きることに差しさわりのない、庶民の下らな〜い知識だろう」
奏 子「へえへえ。庶民のくだらな〜い知識ですみませんね」
瞳「もしキルリストがあったらどうする?私だったら、誰殺そうかな?私よりもお金持ちなことを自慢してくる緑川家の桜子とか、ボーイフレンドを横取りした立花家のゆかりとか、それから……」
奏 子「…瞳さん、目が本気で怖い」
瞳「あら、もちろん本気よ。ね、賢正は?」
賢 正「私は……沙羅駆様の使命の邪魔になるような人間を、ひとり残さず全員根こそぎ髪の毛一本残さぬよう排除したいと存じます」
奏 子「素敵な笑顔で怖いことを……」
前 川「……法門寺さんは、子供のころからそういう感じだったんですか?その、よく言えば、頭がいいというか」
沙羅駆「ええ。家庭教師はたくさんいましたが、その誰よりもIQが高かったので、全く意味がありませんでした」
前 川「友達は?」
沙羅駆「友達?そんなもの、欲しいと思ったこともありません」
前 川「きっと、孤独だったんでしょうね」
沙羅駆「孤独?そんなこと考えたこともありません」
前 川「子供時代のあなたが、私の生徒じゃなくてよかったですよ」
沙羅駆「褒め言葉と受け取っておきます」
前 川「僕はいつ死んでもいいように覚悟していました。僕と違って、権藤たちには、生きることへの執着があった。その違いが勝負の結果となって現れたんじゃないですか?」
沙羅駆「私も生きることに執着はありませんよ。いつも暇で参っているんです。人より優れた頭脳のせいで、人の何十倍もの暇つぶしをして生きていかなくてはなりません」
前 川「僕には到底わからない悩みですね」
沙羅駆「あなたは本当にいつ死んでもいいんですか?子供たちが成長した姿を見なくても?」
前 川「その薬を返してくれ」
賢正、前川のナイフを奪い、首に突きつける。
賢 正「あなたは一度死にました。今までのことは忘れて、子供たちとやり直してはいかがですか?と、若様からの伝言です」
泣き崩れる前川。
第1話
奏 子「あの、一般常識的なことは、お教えした方がいいのでは?」
沙羅駆「一般常識!そんなくだらないことは、勝手に頭の中から消去される」
賢 正「若様の頭脳を、そのような些末なことのために使うなんて滅相もございません。若様の大事なお仕事は他にありますので」
(中略)
沙羅駆「頭がいいなどという範疇に収まりきらん。そんなもの遥かに凌駕してしまっているんだ」
奏 子「それ、自分でいう?」
沙羅駆「だから困ってるんだ。どんな問題もすぐに解いてしまう。
あー。暇だ暇だ。どこかに私が解くに値する謎はないものか」
沙羅駆「そういえば、髪を少し切ったようだな。眉毛が見えそうだ」
朋 美「は、はい!」
沙羅駆「全く似合っていない」
朋 美「え〜本当ですかぁ!?」
奏 子「ドMなの……?」
賢 正「奏子様、はしたないですよ」
沙羅駆「あ〜喉が渇いた。君、豆乳のコーヒー味を買って来てくれ」
奏 子「え?」
沙羅駆「頭を使えない奴は、体を使え」
奏 子「私も、少しは役に立てたんでしょうか」
沙羅駆「うーーん、役に立った。間抜けな役は私と賢正にはできないことだ」
賢 正「珍しいですね、若が人を褒めるなんて」
奏 子「褒められてますか?これ」
沙羅駆「真実というのは、時には厳しいものだ。それに向き合う覚悟が、君にあるのか」