3月3日放送
ある家の記録 ~帰還困難区域 浪江町赤宇木~

「帰還困難区域では、住宅の解体や除染が進められています」

東京電力福島第一原発事故に関連するニュースで、私たちは日々、短くこう伝えている。 しかし、その「帰還困難区域」と呼ばれる場所が、どのような場所で、住宅の解体がどのように進められるのか。 そこにどんな歴史があり、生活していた人たちがどんな思いを持っているのか。原稿を書いていて、常に頭の片隅に引っかかっていた。

本作の舞台となった浪江町赤宇木集落を含む津島地区(帰還困難区域)での取材を重ねて5年ほどになる。 住民の協力をとりつけ、入域の許可証を取得し、荒廃する住宅や地域を回る。 住民の中にはすでに避難先で生活の基盤を持つ人も少なくない。 それでも、地元に通っては、かつての暮らしを生き生きと伝え、荒れ果てた家の中に残る思い出を語る人たちの声を何度も聞いた。 そのたびに「家とは何か、地域とは何か」と、考え続けてきた。

そういう中で出会ったのが、本作の主題となる今野家の面々であった。 旧津島村の初代村長を輩出するなど、地域の中心にありつづけた家の最後を、可能な限り記録すべく、赤宇木に通った。 解体に着手するとされた日も、同じように現場に向かった。家族の思いは「家の最後を自分の目で見届けること」であった。 ところが、理不尽とも言える国の対応により、それは果たされることなく、家は失われてしまった。

本作は、帰還困難区域となった小さな集落の記録であるとともに「家とは何か、地域とは何か」という問いに対する、私なりの答えでもある。 いまも問い続ける日々だが、本作から原発事故が何を奪っているのかを考えていただければと思う。

製作:テレビユー福島
ディレクター:木田 修作