●「反省すべき点が多々ある」 石破茂氏(7月3日放送)
ドラムの激しいサンバのリズムを先頭に行進が始まると、歩道には警官が数メートル間隔で立ち並び、車道の警官は「歩道側に膨らまないでください」と繰り返し脇を一緒に歩く格好となった。行きがかり上、先頭集団の後ろのほうを歩き始めたのだが、前には小熊氏が小さな子供の手をひいて歩いていた。
内幸町の交差点を渡ってみずほ銀行本店脇あたりを歩きながら気づいたのだが、歩道にスキなく配置されている警官は、車道から歩道に行って歩こうとしたり写真を撮ろうとしたりする人がいるとすばやく駆け寄り「歩道に上がらないでください。一般の方がいるので」と車道に押し戻しているのだ。様子を見たら引き上げようと思っていたので「出れねえじゃないの」と困惑したが、あちらこちらで小競り合いになっているのを見て早々に諦めた。前方には、リュックに放射能を測る「ガイガーカウンター」と思おぼしき機器を括り付けながら歩く男の人がいて、そのデジタル表示は「0・20」「0・17」などと変化する。その脇からまじめそうな男性が「デモは何回参加したんですか。僕は初めてなんですよ」などと話しかけたり、連帯の輪も広がっているようだった。
しかし、行進が東電本店の前に来ると、そんなお祭り気分は一転し、ドラムの音はさらに激しくなり、脇の集団は「ええじゃないかええじゃないか、原発やめてもええじゃないか」と絶叫しながら飛び跳ねた。空を見上げると、公園で一生懸命こんがらがった糸を解いていたビラ付きの黒い風船が20個ほど上がっていくところだった。しかしそのうち、幾つかには小さな発煙筒が括り付けてあって黄色い煙を振りまきながら舞い上がり、「これは公安警察を刺激しそうだなあ」と思ったりした。振り返ると後続の人たちの大きな横断幕には「うそつきー」と書いてあった。この興奮状態のまま行進がガード下に入ったものだから、ドラムや笛の音が反響して耳を劈つんざくほどのすごい雰囲気になって、やにわに今度は、脇を警官が次から次へと走って追い越しだした。慌てて追いかけると(ここでなんで私が慌てる必要があるのかよく分からないが)、何があったのかデモ隊と警官隊が激しく揉み合ってる最中で、人が倒れたりしていた。その脇にいた人がキャスターに載せて引いていたダンボール箱から.燭が(なんで.燭を持ち歩いていたかはなぞなのだが)飛び散ったり、警官隊に捕まった人を引っ張って行進の人ごみの中に戻したりと、大騒ぎになっていた。後から知ったのだがここで2人が逮捕されたという。
●「二重三重に顎が外れていく」 浜矩子氏(8月7日放送)
その後も、行進は続いた。私も、そのまま歩き続け、銀座の並木通りを抜けて数寄屋橋まできた。信号は赤で、路上に残る昼の暑さが足元からむらむらと容赦なく立ちのぼってくる。交差点には休日を楽しむアベックらがいて、異様ないでたちで「原発やめろ」と大声を出す集団を奇異の目で見ていた。
一方、行進する側にとってはここは「見せ場」の一つであり、脇の集団が「原発やめてもええじゃないか」と激しく飛び跳ね、後ろでは女性が「さっき私は警察官に怪我をさせられました」と、拡声器を使って叫び出している。思いつめて必死に叫んでいる人らを脇に、疲れとあいまって気恥ずかしさはすっかり飛んでいるのだが、交差点で行進が止まる時は、ふと我に返る。取材のカメラマンらはポイントとばかりに行進の様子をバチバチ撮りだして、後ろを振り返ってみると頭上にはちょうど大きな幟がかかり「福島に本当の空を。私たちに本当のことを」と書いてあった。サンバのリズムに乗せたタイコや笛の音も高らかに有楽町マリオンの裏側、電気ビル、ぐるっと回って帝国ホテル、宝塚劇場と行進は続いた。宝塚は妻と娘に強引に連れられて雪組の公演を何度も見たのだが、路上から劇場を見上げると、あのきらびやかな舞台のラインダンスはすっかり遠い国の出来事のように思えた。ちなみに、前に再び現れたリュックおにいさんのガイガーカウンターの表示はここでは「0・11」「0・09」と、「きれい」になっていたのだが。「車道を歩く人」と、「歩道を歩く人」と……。「こちら」と「あちら」。「あちら」に行けば、「なら代わりのエネルギーはどうするの」という質問が待っていたりする。

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