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「路上」より 【2011年9〜10月号】


8月6日、東電本店・銀座周辺にて

地下鉄の出口から地上に出ると、昼下がりのなおも強い日差しにめまいがした。公園を少し歩くとショルダーバッグを肩に掛け、キャップに、そしてイヤホンをつけた目つきのきつい無言の人たちが目立ち始めた。今日はヒロシマ原爆投下から66回目の「8月6日」。ここ日比谷公園を出発点に、「原発反対」のデモ隊が東京電力に向かうということで、公安警察が集結しているのだ。

あたりは、一触即発の不穏な空気が流れているのだが、そんな中にあってもデモ隊の彼らは準備に忙しそうだった。公園の入り口には喪服姿にマスクとゴーグルをして「原発家告別式式場」とのダンボールの立て看板を持った若者が立ち、そばにはなぜか旧日本兵の格好をした人が「脱原発」との大きな旗を持ってうろうろし、さかんにどっかの報道機関の写真に収まっていた。そして、木陰には黒い風船を膨らませている人たちがいて、人がそばを通ると「この風船を東電前で飛ばして。笛を吹くからその合図でね」などと手渡していた。風船に付けた紙には「この風船は東電前から来ました」と書いてあるのだが、100枚は超すであろうその束の糸がこんがらがって、「こんなに絡まっちゃってー」などとみんなして一生懸命解ほどくのに大変そうだった。

そんななか、前日の収録で思いつめたように語った武村正義氏の言葉を思い出した。


「核のわからない政治主導で…」 武村正義氏(8月7日放送)

武村:やっぱり戦後早い時期に、核の専門家でない政治が、アメリカに言われたかなんだか知りませんが、原発というものを率先して導入した。それでだんだん産業界なり専門家を動かしていったという、核のわからない政治が主導していったところに、一つの矛盾があるのかなと。その後は、神話をうまく作り上げて何十年も国民をだまし続けてきたわけですから。使用済み核燃料棒ひとつとっても、どこへしまうか全然展望がない中で、どんどんたまっている。本当に科学技術としてはまだ未成熟な分野ですね。そんなんで、推進推進とやってきた。本当に日本の政治の大矛盾を象徴していると思いますね

そして、日比谷公会堂と日比谷図書館の間の広場に人が埋まったころ、突然正面にしつらえた台に「主催者」がのぼり「うぎゃー、うぎゃーと轟かせましょうよぉ。いよいよ悪を滅ぼす日がきてしまいましたぁ」と大声を張り上げた。

そして登壇したのが長髪に細身の黒いシャツと黒いズボン姿の小熊英二氏で、「こういう人がいます」と声を上げた。「原発は未来のエネルギーだと。そうでしょうか。お湯を沸かして蒸気にして、タービンを回しているだけのものです」「安全性を高めればいいという人たちがいます。40年かけてダメだったらもうダメと見切ったらいいのではないでしょうか。これ以上、原子力を守るのはお金と命の浪費です」「これから既得権益のある人たちのところに行きます、正しいことを言いましょう。正しくないというのならどこが正しくないのか言ってもらいましょう。では皆さんこれから向かいましょう」と言うと、大きな拍手が沸き起こった。小熊氏はかつて、私が『NEWS23』のディレクターをしていたころイラク戦争に反対するVTRを作るのに、その枕にできそうなくらい分厚い著書『〈民主〉と〈愛国〉』(新曜社、02年刊)に線を引いて参考にしたことがあったりして、懐かしかった。そして、ここまで人前で言い切れる姿をうらやましいなと思ったりした。

日比谷公会堂わきの公園から路上への出口に行くと、ドラムをたたいて声を上げる人たちに続く先頭集団と警官隊の人垣とが揉み合いになっていた。人々が路上に出ると、そばにいた私ももみくちゃになり一緒に路上に押し出されることになった。顔に幟のぼりがぶつかるので見ると「牛にも謝れ」と書いてあった。そりゃあ、初動での政府の「牛」へのずさんな対応はひどいわいと思った。

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