●片山氏 「党首の交代が強い力に」9・20
10月。その収録の日、藤井氏は控え室で浜氏のメイクが始まると、「女性のお化粧の姿は見てはいけないものだ」などと、隣の控え室に移ったり、上機嫌だった。本番でのスタジオでのやりとりは最後まで熱をおびた。
●「新しい酒は新しい酒袋に」10・11
ただ、番組の後、控え室から上機嫌で浜氏を送り出した後、藤井氏はぷっつりと黙り込んだ。そして、脇に控えた秘書官に「なんか連絡はきていないかい」と尋ねたりした。そして、「じゃあ行こうか」と自分に言い聞かすように席を立っていった。
鈍い私が、その理由を知るのは数日後だった。知人との居酒屋での政治談議の帰路、思いついてタクシーを降りた。そばに、藤井氏の自宅があるのだ。ほろ酔い気分で、あわよくば、追加の酒でもなどと思ったりした。そして、そろそろだなと昔の記憶をたどって薄暗い路地を曲がると、なにやら人影が。そして、その先の家の前に新しくできた警護の「ポリボックス」の赤いランプのあたりはさらに集団の人影が。中にはパソコンを抱えて打ち込んでるのもいて、そう夜回りの記者なのだ。財務省担当記者なのだろう。暗闇にまぎれた無言の人影の集団は、不気味な雰囲気を漂わせ、少し遅くなっている「主」の帰りを待ち受けていた。締め切り時間も近づいて眉がつりあがっているようにも見えた。
「そりゃそうだ」と来た道を戻り始めた。年末の予算編成に向けてここはニュースのホットポイントになっているのだ。藤井氏はその対象なのだ。そういえば発言をめぐって、為替が大きく動いて騒ぎになったこともあったっけ。上機嫌だった藤井氏が、御厨貴氏をはじめ、昔からの知り合いと話を交わすスタジオから出るときに、顔つきが変わったのもあたりまえだ。「不遇」だった頃、ビールを飲みながら軽口を言い合うような「甘えた時」は今やないのだ。少しがっかりしながらも、少しうれしくなった。暗闇の道すがら、生垣から金木犀だろうか甘い香りがしてきた。
※本原稿は新・調査情報9〜10月号に掲載されています。
◆石塚 博久 (いしづか ひろひさ)
'62 東京都足立区生まれ。早稲田大学卒業後、'86日本経済新聞社に入社。大阪、名古屋、仙台支局(このとき、「みちのく温泉なんとか殺人事件」に出るような温泉はほとんど行った“温泉研究家”でもある)に。
東京本社政治部で政治取材の厳しい(「虎の穴」のような)指導を受け、新聞協会賞(「閣僚企画」共著)も。
'96TBS入社後は、報道局政治部記者、「NEWS23」のディレクターを経て、「時事放談」制作プロデューサー。

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