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過去の放送 出演者 時事放談「サロン」 テレビプロデューサーの日々
 
 

【2007年7〜8月号】
「無一物無尽蔵」

それが駄目なのだ。−−日曜日の昼下がり、東京・亀有のショッピングセンター「アリオ」の駐輪場脇の広場に私は立っていた。中にあるイトーヨーカドーでの愛妻と愛娘2人の「長い」買い物が終わるのを、私は外で待っていたのだ。何気なく見ると、そばにあった急作りのステージにエレキギターを持ったピンクのスーツ姿の若い男の人とおじさん風の人、そして鈴を持った女の子2人が登場してきた。リーダーなのだろうか、ピンクのスーツ男は自らの紹介で「日本一のサラリーマンバンド『びゅーちふるず』」と叫び、ステージの上で、おじさん風の人の事を「社長」と呼んだりしていた。

そして、やにわに演奏を始め、ピンクのスーツ男は、「さあ、皆さん右手を上げてくださーいっ」「今度は、左手を上げてくださーいっ」「そして、こっちの方の手を振ってくださーいっ」「こっちの方も振ってくだサーい」「さあ、はいっ」と叫ぶのだ。曲名は「働く人はビューチフル」と言うのだそうだ。私はたまたま数人の「観客」のそばにいた、単なる通りがかりのおじさんなのだが、ピンクのスーツ男は私も含めた「観客」を放っておいてはくれないのだ。その男と目があったりして、結局私も手を振る羽目になっていた。でも青空の下で、不思議と楽しい気分になってきていた。

「事件」はその時起こった。私の傍らを通った若いカップルなのだが、すれ違いざまに、女が「結構、みんな見てるのね」と言うと男が「どうせ、サクラだろ」と言ったのだ。なんたることか。私はたまたま居合わせただけだが結構楽しんでいたのに、その言い方はなんだ。その時の私の姿を見かけた人がいたら、世にも珍しい、頭から湯気が出ている男を目の当たりにしたことであろう。勝手に決めつけて、私の気持ちを知ろうとしないで、なぜ、そこまで、「ニヒル」なのか。「知ったかぶり」をするのか。

「知ったかぶり」の都会。こないだの東京都知事選で「惨敗」した浅野前宮城県知事は番組の中で、このことを嘆いた。


「『敗軍の将』かく語りき」 浅野史郎氏(2007年5月27日)

あえなく負けてしまったんでね、敗軍の将になりますけれども、感じたのはね、やっぱり都民の方がそれほどの不満はないと、都政に対してね。

で、それは現状に対してだけじゃなくて、例えば現状がどうにもなんないのは都政の問題というより国政の問題とかですね、それから自分の属している会社の問題とかそういうことあっても、都政が自分に何してくれてるんだろうかというのを実感するのは限られた人達はいますよ。例えば福祉の問題とかですね、学校の問題とかあるんだけど。大多数の方にとっては非常にほど遠い存在。

これがね、宮城県民が宮城県政について持ってるっていうのとは違うんですよ。もっと切実感があるんですね。福島県民が福島県政に期待するものとかなんとかっていうのは、もうちょっと密接なものがあるんですね。

今回はどうもそこがなくって暖簾に腕押しみたいな感じ、こちらの問題もあるにしても。

この言いぶりの評判の悪いのは知っていた。自分の足りなかった部分を、人のせいにしていると。しかも、本来なら1年ぐらいかけて、「お詫び行脚」をして回ってしかるべきところを、なぜ、すぐさま大学の授業に戻りテレビに出るのかと。打ち合わせでも「また、良いかっこしいだと言われちゃうかなあ」と気にしている風であった。私は古くからの浅野氏を知る一人として「今、この時代の中で、そんなこと今更気にしてる場合ですかっ」と、あえて出演して頂いた。

この都知事選挙をして、東京の辻々で叫んで回った立場で、この街ゆく人の政治への「無関心」ぶりは実感なのだろう。そして、一緒に出演した渡部恒三氏に「宮城の県知事選挙では立派な成績あげられたんですが、あの時、あんまり簡単に知事になりすぎたんで、選挙簡単に思っちゃったのが失敗だな」と、諭された時(テレビの画面で分かったかどうか自信はないのだが)浅野氏の目はうるんでいた。

「知ったかぶり」の人々。そして、「考えるのを停止した」人々。そんな中で、野党民主党はそんな人の「心を耕す」言葉を届けられず、小泉前総理の「郵政選挙」で圧勝した議席を引き継いだ安倍総理は、やる気になれば「殆どのこと」ができる。衆議院議員480人中、305人が自民党なのだ。「気が付こうと」しなければ、いろいろなことが知らない内に進んでいく。


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