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過去の放送 出演者 時事放談「サロン」 テレビプロデューサーの日々
 
 

「腹立たしい」 後藤田氏・野中氏(2004年4月25日)

後藤田氏:腹立たしい。それは、この世の中が少し国家主義敵な傾向が強くなってきている。しかも強者の論理、全てがね。これはちょっと心配だなと、気をつけてもらわないといかんなってそんな気がしている。ただこういうときには、やはりこの年になると時間がないということですよ。時間がない。これが一番つらい。だってやらないといかんなって個人的に思うことがいくらでもある。調べないといけないこともあれば、本も読まなければならない。時間がない。ここが若い人とは全然違う。

岩見氏:野中さんも畜生って思われることはあるんじゃないですか?

野中氏:多いですね。最近の議会を見ていたら、与野党とももっと議会政治を大切にしてよという思いがしてなりません。言葉が荒っぽい。そして質問する方と答える方がまったく違う話をしていてもそのまま時間が空費していく。これはなんの実りも求めない、非情に議会政治の危機が来ていると。それは議院内閣制を無視した今の小泉さんの手法、これは確かに国民の支持を得るかもしれないが、日本のこれからの10年、20年先に本当にどういう形になっていくのかということを考えると、今、議院内閣制、議会政治そのものが問われているときだと思いますね。またこれに迎合している、マスコミだ。

当時のVTRを見返して見ると、冒頭のこのやりとりの後、後藤田氏が小泉政治のあり方を「小泉さんは変えた後、一体どういう風に日本の姿を描いていくのですかと・・・」と4分間に渡り「怒って」、これを受けて、野中氏が「私はワイドショー政治だと思っている」と毎日の首相官邸での「政治記者」による小泉総理のぶら下がり取材が結局はPRになっているなどと4分間に渡って「怒」る。そして、後藤田氏は今度はイラク戦争への自衛隊派遣について「もともと大義そのものが疑わしい英米の単独武力行使に日本がそれを支持すると言うことで、しかも本来専守防衛の自衛隊を派遣することになるというと・・・」と4分間「怒り」、これを受けて野中氏が「私は憲法から言っても、イラク支援特措法から言っても、自衛隊法ももちろんですが、自衛隊をやるべきではなかった・・・」と何と、6分間に渡って「怒った」。秒単位で考えるテレビの世界にあってこの時間は異常である。しかし、「怒り」がとまらないのだ。野中氏は今でも、出演して頂く度に何かしら怒っている。

もう一人、我がレギュラーの中で、いつも怒っているのは藤井裕久氏である。あの、大蔵大臣まで務めたあの経歴ながら、何とも腰が低いのだがいつも何かしら怒っている。「あの人はおもしろいぞ」。そう筑紫哲也氏に勧められてレギュラーメンバー入りして頂いた。打ち合わせに行くと、「あのこと喋っていいですかねえ」「これはどうですかねえ」と、口にするのだが、何の事はない最初から我が方が何と言おうとしゃべるつもりなのだ。私の答えは決まって「おっしゃりたいことをなんでもおっしゃって下さい」。すると我が意を得たりと満足げにうなずくのである。今時珍しい「人物」である。本人があるとき打ち明けてくれたのだが、収録の後、東京・赤坂を出るカーブで密かにクルマの中で「ワンカップ大関」を飲むのだそうだ。これがすこぶるおいしいそうだ。中曽根さんと違う意味で、これもすごいだろう。この方も最初の出演から野中氏を相手にスパークしていた。


「私のすぐ真上でB29が・・・」 藤井氏(2006年1月15日)

野中さんにしろ私、もちろん、野中さんなんてずっと経験していらっしゃるんですよ。戦争をね。そういう経験が一番大事ですが、同時に歴史を学べばね、日本が侵略した事は明らかなんですよ。そのね、事実をはっきりさせればですね、私のすぐ真上で日本の戦闘機がB29にね、体当たりして無くなりましたけれどね、そういう純粋な青年をね、あおった人がいるわけですよ。先導して、画策した人がいるわけですね。それはね、A級戦犯ともっと違うんですよ。もっと広いんです。その日本の歴史を勉強していればね、それがわかる筈なんですよ。

その夜、「文藝春秋」を手に私は、細川氏が「日本新党」を解散するときの集まりで、所属議員を前に言ったあいさつを思い出していた。「『自由社会連合』結党宣言」のあの「暑い日」の後、日本新党は初めての非自民党政権を樹立し、2大政党制を目指して小選挙区制を導入した。

その後、小沢氏と武村正義氏とのいがみ合いを経て細川政権は崩壊し、2年半ほどで解散する。それまで日本新党を自慢していた所属議員は民主党と自民党にそれぞれ別れていった。そして、「解散」のその日、細川氏はこう言うのだ。「日本新党の精神はバーバリズムにあった。そのことが時代を変えた」と言ったのだ。新聞記者だったその時の自分の記事を探して読んでみその下りはない。でも、確かにその言葉を聞いたときの興奮がよみがえるのだ。「バーバリズム」。つまりは「野蛮な心」だ。確かに、あの「結党宣言」を読み返すと、その思いが伝わってくるのだ。その熱い思いの下に人が集い、時代を変えた。

番組が4年目に突入するに当たって、そのことに思いを馳せ、私は一人会社を後にした。春になって会社の外は少し暖かくなっていた。どこからか沈丁花の匂いもしてきた。そうだ、「『野蛮な心』を」である。

※本原稿は新・調査情報5〜6月号に掲載されています。

石塚 博久 (いしづか ひろひさ)
'62 東京都足立区生まれ。早稲田大学卒業後、'86日本経済新聞社に入社。大阪、名古屋、仙台支局(このとき、「みちのく温泉なんとか殺人事件」に出るような温泉はほとんど行った“温泉研究家”でもある)に。
東京本社政治部で政治取材の厳しい(「虎の穴」のような)指導を受け、新聞協会賞(「閣僚企画」共著)も。
'96TBS入社後は、報道局政治部記者、「NEWS23」のディレクターを経て、「時事放談」制作プロデューサー。

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