特集

2018年12月9日「シェヌ・デ・ピュイ火山群」

マグマが作る湖と町 噴火が生み出した地形の数々

シェヌ・デ・ピュイ火山群の付近には、いくつもの町があります。火山活動で出来上がった土地での人々の暮らしと、今も残る火山とのつながりを紹介します。

──先ほど観光スポットというお話がありましたが、シェヌ・デ・ピュイ火山群の近くに人は住んでいるのでしょうか?

田口:火山群の近くにはいくつか町があります。ピュイ・ドゥ・ドームの10キロほど東にあるクレルモン=フェランはこの地域の中心地です。この街の真ん中にある大聖堂は、溶岩の石材を使って13世紀に建てられました。そのため黒い色をしています。クレルモン=フェランの古い建物には多くの溶岩が使われているのですが、その中も大聖堂の黒さは際立っています。

クレルモン=フェランの中心にある黒い大聖堂は、シェヌ・デ・ピュイ火山群の溶岩から切り出した石材を使って13世紀に建てられました。

──シェヌ・デ・ピュイ火山群の溶岩から切り出した石材を使って町が作られていたということですか?

田口:はい。かつては火山から盛んに石が切り出されていました。シェヌ・デ・ピュイ火山群の1つ、ロンテジーという火山は、元々はほかの山と同じく盛り上がった形をしていましたが、石切り場となり、火山の内部まで掘り進められたのです。現在、石切りはされていませんが、山が大きく掘られたおかげで通常では絶対に見られない、火山の内部がむき出しになった様子がここでは見学できます。

石が切り出され続けた結果、山の内部がむき出しになった火山、ロンテジー。火山の内側が見学できる、世界でも珍しい場所です。

──まるで火山地形の見本のような場所なんですね。

田口:ほかにも火山活動でできた地形の1つ、「せき止め湖」と呼ばれる湖を番組では取り上げています。エダ湖とカシエール湖は、8600年前に噴火した火山から流れ出したマグマが川の流れをせき止めて、その一帯が湖になったものです。溶岩の上にできた森を挟んだ両側に湖があり、溶岩が水の流れをせき止めた様子がいまでもうかがえます。また、そこに流れ込んだマグマは12キロ先まで到達しています。この溶岩流の先端に、細長く切り立った断崖の上にある街があります。サン=サチュルナンという町なのですが、町の土台が溶岩でできているのです。

マグマが川の流れをせき止めて出来上がったエダ湖とカシエール湖。湖畔では川をせき止めた際に固まった溶岩を見ることができます。

──どうして溶岩の上に町を作ったのでしょうか?

田口:理由の1つは、溶岩の硬い地盤が、城や教会など中世の町の基礎となっているからです。もう1つには、水の流れです。元々ここには川の流れる細い谷がありました。そこに溶岩流が流れ込み冷え固まったのです。その後、年月を経て硬い溶岩流の外側だけが浸食され、断崖に挟まれた細長い地形が残りました。今も溶岩の下を水が流れ、断崖の隙間から湧き出しています。水は溶岩でろ過され、不純物がほとんどありません。湧き出す水もこの町の基礎となったのです。

溶岩の上に築かれた細長い町、サン=サチュルナン。その両側の断崖から湧き出した水は、溶岩でろ過されて不純物がほとんどありません。

──石や岩だけなく、きれいな水も火山からの人への恵みということですね。最後に、番組を楽しみにしている皆さんへ見どころをお願いします。

田口:私自身、火山の世界遺産を取材した経験は何度かあるのですが、こんなに多くの火山が密集している場所はほかでは見たことがありません。飛び散ったマグマが固まった赤い砂利の山や石を切り出した中から現れた火山弾など、本当にこの自然遺産には、珍しいものが数多くあります。番組を観て、フランスにこんなところがあるのかと驚いていただけたらうれしいですね。

シェヌ・デ・ピュイ火山群では、火山そのものだけでなく、噴火による火山弾や火山礫など、火山活動のさまざまな現象が見ることができます。