特集

2018年11月4日「雲南の三江併流保護地域」

中国の秘境で生きてきた少数民族の暮らしと知恵

三江併流保護地域は一見すると人を一切寄せ付けない秘境のようですが、一方で古くからそこは少数民族の人々の暮らしの場でもありました。彼らは、自然の厳しさと調和しながら、その独自の文化と信仰を守ってきたのです。

──先ほどの白水台では少数民族ナシ族のお話がありましたが、ほかにもこの地域に住んでいる人々はいるのでしょうか?

石渡:はい、三江併流保護地域は、古くから少数民族の生活の場でもあります。この地域には、16の少数民族が異なる文化や信仰を持ちつつ自然と調和させながら暮らしているのです。

高地で暮らす人々は、酸素が薄い環境に耐えられるヤクを放牧しています。また農業を営み、麦などを栽培する少数民族もいます。

──秘境と言われるほど厳しい自然環境の中で、人々はどのように暮らしているのでしょうか?

石渡:3000メートル以上の高地で暮らす人々は、そうした環境に耐えられるヤクや麦などを育てて適応しています。例えば、少数民族リス族は、峡谷で暮らすために非常にユニークな方法を編み出しました。橋をかけるのが難しく、船で渡るのにも流れが急すぎる川を超えるのに、彼らはロープを川に架け、滑車を使って空中を滑るようにして向こう岸へ渡るのです。シンプルなロープウェイですね。こうした渡り方は1000年以上前からあったそうで、彼らは人の移動だけでなく、家畜の運搬などにまでこのロープウェイを使うのです。

リス族は、ロープを川に架け、滑車を使って空中を滑るようにして向こう岸へ渡ります。彼らは、豚や馬などもこの方法で運ぶのです。

──ロープで川渡りだなんて日本だとアウトドアのアトラクションのようですが、リス族の人々にとっては今も昔も変わらぬ日常なのですね。

石渡:昔から現代まで使われているというと、茶馬古道と呼ばれる、険しい山や渓谷を通る道があります。茶馬古道は、シルクロードと同様に古代から知られた重要な交易ルートでした。雲南から茶を運び、チベットから馬を持ち帰っていたので、そのように呼ばれたのです。この道の一部は、いまでも物資を運ぶのに使われています。

峡谷の岩壁をくり抜くように通されている茶馬古道。この道を通じて、茶を運び、馬を持ち帰るという交易をしていたため、そのように呼ばれました。

──古代の交易路が今も暮らしの一部として使われているのは驚きです。

石渡:古くから伝わる信仰も、少数民族の人たちの暮らしと深く結びついています。氷河の話でご紹介した梅里雪山は、チベット仏教の聖なる山のひとつです。その周囲を回る巡礼の道は今も多くのチベット族の人びとが行き交っています。その巡礼地の、あるチベット仏教の寺院では、巡礼者が石灰を溶かした水を柄杓でお堂にかける儀式が行われています。かけられた石灰が固まって寺院が鍾乳石で覆われたような不思議な外観になっているのですが、これには神様に服を着せる意味があるということです。

梅里雪山の麓にあるチベット仏教の寺院では、参拝者が石灰を溶かした水を柄杓でお堂にかけています。まるで建物全体が鍾乳石で覆われたような姿です。

──三江併流保護地域は自然の風景だけでなく、特徴的な文化も非常に興味深いですね。放送が楽しみです。

石渡:今回の取材では。風景や人々の暮らし以外にも、希少動物である雲南キンシコウも収めてきました。キンシコウは、中国ではパンダとともに最重要な保護対象として指定を受けている動物です。樹皮に付いた地衣類であるサルオガセを食べ、一生を森で過ごします。真っ赤な分厚い唇が特徴のサルで、その愛嬌のある顔をぜひ番組でご覧ください。

孫悟空を想わせるようなキンシコウは、パンダと並ぶ希少動物です。樹皮に付いた地衣類であるサルオガセを食べて暮らしています。