──今回の世界遺産、三江併流保護地域とはどのような場所なのでしょうか？

石渡ディレクター（以下、石渡）：三江併流保護地域は、中国雲南省北部のミャンマーとの国境に面した辺境にあります。金沙江、瀾滄江、怒江の3本の川が北から南へと170キロに渡って、文字通り並行に流れている地域です。これらの川は、それぞれアジアを代表する3つの大河、長江とメコン川、タンルウィン川の上流にあたります。川と川の間には最高6000メートルを超える山脈がそそり立ち、川の流れは深い峡谷になっているため、1980年代に衛星写真で確認されるまで3本の川が並行して流れていることは発見されていませんでした。当時は地上から調査することも難しい秘境だったということです。

──現代に至るまで発見されていなかったとは驚きです。そんな秘境となると、行くまでも大変な道のりなのですか？

石渡：近年は開発が進み、高速道路などが整備されてきているため、一部では観光地化が進んでいます。雲南省の省都・昆明から飛行機で空港のあるシャングリラや麗江、大理などに飛んで、そこを拠点に車で移動するのですが、三江併流保護地域は広大なので、どこへ行くにも２〜３時間、遠いところは４〜５時間かかります。取材準備で訪れたときには、道路が崖崩れでふさがっていて予定の何倍もの時間をかかり大変でした。

──三江併流保護地域では、どんな風景を見ることができるのでしょうか？

石渡：三江併流保護地域は、多様で美しい景色が見られることで知られています。今回の見どころとして、まずそうした数々の自然を取り上げています。そのひとつが、金沙江の虎跳峡です。石づたいに虎が飛び跳ねて川を渡ったという伝説がある峡谷で、断崖が切り立ち川幅が狭まっているため、流れ込む水が激流となっています。峡谷の川岸近くに展望デッキが用意されて観光客が集まってきているのですが、撮影時には大量に雨が降る9月だったのも相まって恐ろしいほどの激しさでした。

──険しい山と大河の流れが生み出す、まさに三江併流ならではの見どころですね。

石渡：そのほかの有名な景観としては、長江第一湾と呼ばれる、金沙江が急劇に湾曲する場所があります。水の流れは、虎跳峡の激流とは打って変わってゆったりとしていて、金沙江はこの辺りから曲がりくねりながら東へ向きを変え、中国を横断する流れとなっていく地点なのです

──そこを流れる水がやがては東シナ海に注ぎ込むことを想像すると、長江の雄大さが感じられそうですね。

石渡：そうですね。あと、水が生み出した景観としては、白水台も重要なスポットです。地表に流れ出た炭酸カルシウム分を含んだ地下水によって、石灰分が堆積し、長い時間を経て作り上げられた天然のダムが棚田のように連なっています。トルコのカムパッレや中国四川省の黄龍と同様に珍しい地形を見ることができます。水の青さと石灰でできた棚田の白さが美しいこの場所は、少数民族ナシ族の聖地なのです。

──ほかにはどのような見どころがありますか？

石渡：インド洋から吹いてくる湿った風が山脈にぶつかって大量の雪を降らせた結果、世界でも珍しい低緯度に存在する氷河ができました。6000メートル級の山が連なる梅里雪山から流れ下る氷河は、まさに絶景です。

──激流、大湾曲、純白の棚田、氷河と、三江併流保護地域には本当に多彩な自然があるのですね。

石渡：今回の取材では、渓谷の激しい流れや美しい純白の丘、雄大な氷河、曲がりくねった長江など、ドローンを使って撮影しましたので、これまでにない迫力の映像を楽しんでいただけると思います。