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2018年10月7日「コトルの自然と歴史地域」

コトルの自然と歴史地域

地中海の一角、アドリア海に面したバルカン半島に「アドリア海の秘宝」と呼ばれる、美しい街があります。コトルは、2000年もの長い歴史を刻む港町です。独特の地形が生み出した穏やかな入り江と、昔の姿を残した旧市街──。しかしコトルには、そんな美しい光景とは裏腹に、堅牢な城塞都市としての一面がありました。この知られざる街の真の姿を、田口ディレクターが紹介してくれました。

アドリア海の秘宝!2000年の歴史が眠る街!

背後には迫る山、目の前には海──コトルの街を上空から見ると、狭い土地にへばりつくように建物が並んでいます。ではなぜここに、人々は街を造って暮らしてきたのでしょうか? 自然が生み出した独特の地形に、その理由がありました。

──今回の世界遺産はアドリア海のコトルですね。まずは、どこにあるのか教えてください。

田口ディレクター(以下、田口):はい。コトルは、モンテネグロの古い港町です。モンテネグロという国を詳しく知らない方も多いと思いますが、旧ユーゴスラビアの国で、バルカン半島の西側、アドリア海に面した場所にあります。面積は福島県ほどの小さな国です。

コトル湾の最も奥に、コトルの街はあります。城壁に囲まれた三角形の土地にあるのが旧市街です。

──コトルはどのような街なのでしょうか?

田口:コトルは、コトル湾という複雑な形をした湾の海沿いにあります。街の背後には高い岩壁がそびえ立つ山々があり、海と山の間の狭いすき間に街ができているんです。コトルの歴史は長く、古代ローマ時代から栄えています。中心となる旧市街は東京ドーム2つぶんほどの広さで、三角形の土地は城壁で囲まれています。街には石造りの建物が建ち並んでいて、そこには17世紀から変わらない光景があります。コトル湾沿いには、ほかにもいくつかの街がありますが、コトルは、中でも最も繁栄した街でした。

コトル湾には、入り江を囲むように家々が並んでいます。移動は船が一番スムーズです。人々は海と共に暮らしてきました。

──コトルには長い歴史があるんですね。断崖と海の間のわずかな土地に、なぜ街ができたのでしょうか?

田口:コトル湾は内陸に深く切り込んでいて、波がほとんどないほど穏やかです。さらに、入り江は大型船が入ってこられるほど深いので、港にピッタリのロケーションなんです。この天然の良港は、地中海の交易の要所として栄えてきたんです。そんな深い入り江なので、現在は観光客を乗せた大型客船がやってきて停泊しています。

コトルの街の背後には険しい断崖が迫っています。上から見ると、山と海のわずかなすき間に街が造られていることがわかります。

──現在のコトルは観光地として人気の場所なんですね。

田口:そうなんです。青く輝く海と美しい旧市街、そして背後に迫る高い岩壁という景色はまさに絶景です。日本ではあまり知られていませんが、アドリア海の秘宝と呼ぶにふさわしい穴場的な観光地ですね。街の中は数多くの観光客が行き交っています。そんなコトルの人気の観光スポットに、海に浮かぶ不思議な建物があります。小さな島に立てられた教会と修道院で、修道院がある島は上陸が禁止されていますが、教会は船で訪れることができます。ここは船乗りのための教会で、船乗りはここで旅の安全を祈りました。教会の中には、船旅から無事に戻ったときに寄進された銀のプレートが並んでいました。また教会の内装などは、中世のヴェネツィアの影響を色濃く受けています。コトルはかつて、ヴェネツィア共和国の支配下に置かれていた街なんです。

旧市街の中は石畳で、建物は中世の姿を残す石造りの建物が並びます。かつての商店だった建物も残されています。入口には扉と一体になった棚が設けられていて、そこに商品が並べられるようになっています。

コトル湾に浮かぶ不思議な建物は、教会。教会の窓には、ヴェネツィアングラスがあしらわれていました。