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2018年9月9日「イギリスの湖水地方 絶景を救ったピーターラビット」

いたずらうさぎが守り続ける 美しきイギリスの原風景

のどかで美しい湖水地方の景観ですが、産業革命の余波でその絶景が壊されそうになりました。そのとき、この土地を愛していたビアトリクス・ポターは、開発から逃れるためのある秘策を思い付き実行しました。湖水地方の景観は、実はピーターラビットが守り続けていたのです。

──昔ながらの景観を保っている湖水地方ですが、農業や牧畜業以外の産業はなかったのでしょうか?

小澤:湖水地方で、ちょっと面白い博物館を取材しました。その名も鉛筆博物館なんですけど、これはこの地方で盛んだった鉛筆産業の名残です。この辺りではかつて、鉛筆の芯の原料となる良質の黒鉛が豊富に採れたんです。さらには銅や鉛、鉄など、湖水地方はさまざまな鉱物資源の宝庫だったんです。

湖水地方では黒鉛が豊富に採れたため、鉛筆産業が盛んでした。現在の鉛筆博物館は、1890年に創業した鉛筆メーカーの工場でした。

──それだけの鉱物資源が見つかっていたのに、湖水地方は鉱山として開発されなかったのですか?

小澤:実際、19世紀には豊富な資源を狙って、湖水地方にも開発の手が伸びてきました。しかし、湖水地方の美しい景観を愛していたポターは、鉱山開発が進まないようにする策を思い付き、実行したんです。その方法とは、湖水地方の農場や土地を購入して所有するという力業でした。自分のものにしてしまえば、誰も文句を言えませんからね。

湖水地方の図書館に、ポターの挿絵の原点となる水彩画が多数残されていました。ポターの夢は実はキノコの研究者だったのです。この精密な絵の才能が、絵本に活かされることになりました。

──なるほど。自分の土地にして開発させなかったということですね。それには莫大な資金が必要になったはずですね。

小澤:そうなんです。ポターは大ヒットしたピーターラビットの印税を使って、土地を次々に購入したんです。さらにポターは、当時の作家としては珍しく作品の著作権もしっかりと管理していたんです。絵本の印税だけではなく、キャラクターの著作権や商品化権などもきちんと整備していました。実際、キャラクターグッズもヒットして、広大な土地や農場を手に入れる資金となったんです。

──そのようにしてポターが取得した土地は、現在、どのように管理されているのでしょうか?

小澤:ナショナルトラストという自然や史跡の保護団体が管理しています。ポターは1943年に亡くなっていますが、遺言により、土地や農場、牧草地の羊などはすべてナショナルトラストに寄贈されたんです。ナショナルトラストは観光地として運用しつつ、湖水地方の景観を守っています。

19世紀になると湖水地方にも産業革命の波が押し寄せ、鉱物資源を狙った開発の手が伸びました。ポターは自分が愛したこの景観を守るため、大ベストセラーとなったピーターラビットの印税を使って次々と土地や農場を購入し、自ら所有しました。現在では保護団体のナショナルトラストが引き継いでいます。

湖水地方の美しい景観から生まれたいたずらうさぎ──ピーターラビットが、湖水地方の美しい景観を今も守り続けています。

──この土地で生まれたピーターラビットというキャラクターが、今では湖水地方の景観を守り続けているわけですね。観光地として有名な湖水地方ですが、オススメの観光スポットを教えてください。

小澤:ウィンダミア湖に向かう蒸気機関車があるのですが、クラシックな雰囲気で車窓からの景色を楽しめると思います。またウィンダミア湖をクルージングする船もオススメですね。もちろんイギリスの原風景とも言える美しい景観の中でトレッキングを楽しんだり、のんびり過ごしたりすることもできます。そして、ピーターラビットのファンには、ニア・ソーリー村で絵本の挿絵に描かれた実在する場所を探し歩く楽しみもあります。まずは番組をご覧になって、湖水地方の魅力を知っていただければと思います。

ウィンダミア湖周辺は観光客のためのアクティビティも充実しています。湖に向かう線路は蒸気機関車が走ります。ゆっくりと湖を周遊するウィンダミア湖クルーズでは、湖からの景色を楽しむことができます。