特集

2018年6月10日「カジランガ国立公園」

古代獣がすむ大湿地

ヒマラヤの雪解け水が流れ込むインドの大湿地帯に、3000万年前からほとんど姿を変えずに暮らしている巨大な動物がいます。インドサイは、1本の角と西洋の鎧のようなひだのある分厚い皮膚が特徴的です。この貴重なインドサイの生態を探るため、田口ディレクターが乗り込みました。

野生に生きる地球最後の一角獣

カジランガ国立公園は、野生動物であふれる自然豊かな大湿地帯です。そこで暮らす巨大なインドサイは、全身を鎧のような皮膚で覆われた、インドとその周辺にのみ生息する珍しいサイです。古代からほとんど変わらないと言われる、その姿を追って湿地帯に入りました。

──今回の主役はインドサイですね。インドサイが生息する世界遺産、カジランガ国立公園がどのような場所か教えてください。

田口ディレクター(以下、田口):はい。カジランガ国立公園は、インドの北東部、アッサム州を流れるブラマプトラ川の流域にある大湿地帯です。ブラマプトラ川は、ガンジス川に次ぐインド第2の大河です。この地域には乾季と雨季があり、雨季にはものすごい量の雨が降るため、公園の4分の3は氾濫した川の水に沈んでしまいます。その際、ブラマプトラ川がヒマラヤから運んできた栄養分の高い土砂が堆積するので、公園内は肥沃な土壌で覆われています。そのため自然が豊かで、さまざまな野生動物が暮らしています。このような氾濫原ゆえに開発もされないので、ひと言で表現するなら“野生動物の楽園”ですね。今回は、そこで暮らす珍しい一角獣、インドサイの姿を追いました。

カジランガ国立公園は、広大な湿地帯。そこにはおよそ2000頭のインドサイが暮らしています。雨季には3/4が、氾濫した川の水に覆われてしまいます。

──サイと言えば、アフリカのサバンナなどで暮らす野生動物というイメージがありますね。

田口:サイの祖先は今のアジアの辺りで誕生し、世界中に広がりました。実際アジアには、インドサイのほかに、東南アジアに生息しているスマトラサイやジャワサイがいます。アフリカにはシロサイとクロサイが生息していて、世界には合計5種類のサイがいるんです。サイの仲間は3000万年前の古代からほとんど姿が変わっていなくて、特にインドサイは原始的な姿を残しています。

アフリカに生息するシロサイやクロサイは、角が2本。皮膚もインドサイとは見た目の質感が違っています。

──カジランガ国立公園に暮らすインドサイの特徴を教えてください。

田口:インドサイは、大きいもので体長が4.2メートル、重さが3.5トンにもなります。アフリカのシロサイやクロサイと見た目で大きく違うのは、皮膚が分厚く西洋の鎧のような姿をしているところと、角の数が1本というところです。インドサイとジャワサイは角が1本ですが、他のサイは2本の角が生えています。ジャワサイは絶滅が危惧されていてインドネシアで保護されている数十頭しかいません。つまりインドサイは、今もまとまった数が生息している最後の一角獣とも言えるんです。

インドサイの特徴は、1本の角と、分厚い鎧のような皮膚。後ろから見ると、まるで袴をはいているように見えます。

──カジランガ国立公園では、何頭くらいのインドサイが確認されているのでしょうか?

田口:現在ではおよそ2000頭のインドサイが暮らしていると言われています。もちろん世界最多の生息数です。一時期は密猟のため、カジランカのインドサイは200頭以下にまで減って絶滅の危機に瀕していました。密猟者の目的は、漢方薬の原料として高値で取引されている角です。現在は保護されていて、生息数は順調に増えています。インドサイは本来、インドだけでなく、パキスタンからネパール、バングラデシュにかけて生息していましたが、カジランカ国立公園以外の生息地では数が減少していて、数を増やすためにカジランカのインドサイを移すこともあるそうです。

──公園内では、インドサイとはどうやって出会うのでしょうか?

田口:カジランガ国立公園では、インドサイをジープの上から見学するツアーが用意されています。運がよければかなり近くで見ることもできます。ただし、巨大なインドサイは危険だし、ほかの野生動物も多いので、ツアーでは絶対に車から降りてはならないルールになっています。今回は特別な許可をもらい、車から降りて撮影を行いました。そのおかげで、インドサイのさまざまな生態と貴重なシーンを映像に収めることができました。

ツアーのルート上を通るインドサイ。こんなに近くに現れることも。危険を避けるため、撮影は必ず車の後ろに隠れた状態で行われました。