特集

2018年4月1日「ジャンヌ・ダルク特集(フランス)」

ジャンヌ・ダルクはランスのノートルダム大聖堂を目指す

オルレアンを解放したジャンヌ・ダルクは、ランスのノートルダム大聖堂を目指しました。シャルル7世を真のフランス王にするため、歴代王に倣ってここで戴冠式を行うためでした。こうして祖国フランスのために純真な心で戦うジャンヌ・ダルクでしたが、その先には悲劇が待ち受けていました。

──ジャンヌ・ダルクの足跡をたどる世界遺産の旅、続いての目的地はどこでしょうか?

石渡:フランス北部の都市、ランスです。ランスは当時のフランスの中心的な都市のひとつでした。ランスのノートルダム大聖堂の脇には、馬に乗って剣を振りかざし、大聖堂を見上げるジャンヌ・ダルクの像があります。なぜここにこんな像が飾られているかというと、ノートルダム大聖堂がジャンヌ・ダルクの目的地だったからなんです。ジャンヌ・ダルクの戦いは、オルレアンを解放して、ランスのノートルダム大聖堂でシャルル7世の戴冠式を行うことが目的だったんです。

ランスにある世界遺産、ノートルダム大聖堂。シャルル7世の戴冠式を行うことが目的でした。大聖堂を見上げるように、ジャンヌ・ダルクの像がありました。

──ランスのノートルダム大聖堂での戴冠式にこだわったのはどうしてですか?

石渡:ノートルダム大聖堂は、パリやルーアンなどの有名なものもいくつかありますが、ランスは、フランク王国時代の初代王であるクロヴィス1世が洗礼を受けた場所で、歴代フランス国王はランスのノートルダム大聖堂で戴冠式を挙げてきました。逆に言うと、ここで戴冠式を挙げていないとフランスの王とは認められないという特別な場所でした。ランスはオルレアンからさらに北にある都市でした。ジャンヌ・ダルクは敵陣の中をさらに北上して、一週間ほどでランスにたどり着きました。

ランスはフランス初代国王のクロヴィス1世が洗礼を受けた場所で、歴代フランス王はランスのノートルダム大聖堂で戴冠式を挙げてきました。大聖堂の「国王のテラス」には、歴代王の彫像が並んでいました。

──ランスのノートルダム大聖堂にはどんな特徴がありますか?

石渡:大聖堂に隣接するトー宮殿、ランス市内のサン=レミ旧大修道院とともに世界遺産に登録されています。ファサードには「国王のテラス」と呼ばれる彫像があり、歴代フランス王がズラリと並んでいます。大聖堂は美しいステンドグラスが有名で、実際に戴冠式を行った場所なども番組で紹介します。また、ランスの古文書館には、ジャンヌ・ダルクが市民に宛てた手紙が残されていました。農家出身のジャンヌ・ダルクは読み書きができなかったとされていて、手紙は誰かが代筆したもののようです。手紙の最後のサインだけが本人のものではないかと伝えられていますが、真偽の程は確かではありません。

大聖堂の内部に入ると、美しいステンドグラスが目を引きます。この広間で、シャルル7世の戴冠式が行われました。

──大きな目的だったシャルル7世の戴冠式を成し遂げ、その後のジャンヌ・ダルクはどうしたのでしょうか?

石渡:その後ジャンヌ・ダルクは戦いを続けようとしますが、もはや戦いを望まないシャルル7世と意見が合わなかったり、戦力不足のまま行ったパリ攻略で失敗したりして次第に孤立し、1430年3月には戦場でつかまってしまいます。こういった場合、フランスがお金を支払って身柄を引き渡しを要求するのですが、シャルル7世は見捨ててしまったと伝えられています。結局イングランド側が身柄を引き受け、数カ月間の異端審問の後に、1431年5月にルーアンで火あぶりで処刑されました。犯罪者として処断されたジャンヌ・ダルクですが、百年戦争終結後には復権裁判によって無罪となり、1920年にはローマ・カトリック教会の聖人とされています。

ランスの古文書館に保管されている、ジャンヌ・ダルクの手紙。市民を勇気づける内容が書かれています。ジャンヌ・ダルクは読み書きができなかったのですが、最後のサインだけは、本人による自筆ではないかと言われています。

──今回の撮影を通して、ジャンヌ・ダルクという人物についてどのような感想を持ちましたか?

石渡:ジャンヌ・ダルクが17歳の1429年3月、シノン城でシャルル7世に会い、5月にはオルレアンでイングランド軍を撃退し始め、7月にはランスで戴冠式を挙げています。これだけの偉業を半年に満たない短い期間で成し遂げていたということには、あらためて驚きました。また、フランス各地にジャンヌ・ダルクの像やプレートなどが造られていて、まさにフランスの英雄だということも現地で実感しました。ジャンヌ・ダルクの活躍があって、ルネサンス以降の輝かしいフランスの歴史が形作られたと言えます。今に残される世界遺産の映像を通して、ジャンヌ・ダルクとはどんな存在だったのか、あらためて知っていただければと思います。

大聖堂に隣接するトー宮殿には、戴冠式にまつわる宝物殿があります。戴冠式で使われた聖杯(12世紀のもの)と、戴冠式で使われる聖油をしまった箱(19世紀のもの)。