特集

2018年2月18日「メイマンドの文化的景観」

火山が生んだ洞窟住居

岩に開けられた多数の洞穴。メイマンドの洞窟住居は、どうやってこんなにたくさん作られたのでしょうか? その秘密は、火山で生まれた土地にありました。遊牧民たちがこつこつと掘って作った洞窟住居で、今なお人々が暮らせる理由も明らかになります。

──2000年もの間、洞窟で暮らしてきたメイマンドの人々ですが、どうやって洞窟住居を作ったのでしょうか?

石渡:400以上もあるメイマンドの洞窟住居は、実はみんな手掘りなんです。遊牧民が金づちとのみを使って、こつこつ手作業で掘っていったそうです。

メイマンドの洞窟住居の居間。この広い空間も、金づちとのみを使って手掘りされた洞窟なのです。

──岩を手作業で掘っていくとなると、たいへんな労力ですね。

石渡:はい、実際に掘るのはたいへんな作業だったと思います。ただ、この辺りの岩は柔らかくて、掘るのには好都合でした。実はメイマンドは火山の麓にあって、周辺の荒涼とした土地は、火山活動で生まれたものなんです。メイマンドの岩は火山灰が積もってできているので、もろいんですね。

メイマンドの地形は、火山活動によって生まれました。洞窟住居は、火山灰が積もってできたもろい岩壁に掘られたものでした。

──なるほど。ではなぜ、ここに住居を作ったのでしょうか?

石渡:ハッキリとした起源はわかっていませんが、遊牧民が寒さをしのぐために作った休憩所のような穴だったのではないかと思われます。今でこそ、洞窟住居は広くて、いくつかの部屋が作られていますが、最初の頃に掘られた洞窟は、いわゆるワンルームのような小さなスペースしかありませんでした。しかも、岩壁の上のほうに入口が作られています。これは、猛獣などの危険から逃れるためだったと考えられます。そのうちにメイマンドで暮らす人が増えて、それに合わせて洞窟も増えていったんですね。

岩壁の上のほうに作られた洞窟は、古い時代のものです。安全を確保するために外敵から身を守りやすい、高い位置に作られました。

メイマンドの洞窟住居の前には、やはり岩を利用して作ったかまどがありました。竈の中で蒸し焼きにして作るパン作りを見せてもらいました。

──しかし、もろい岩だとすると、年月が経つと風化して崩れてしまう心配はないのでしょうか?

石渡:洞窟住居が崩れないのには理由があります。洞窟で過ごす間、人々は中で火を焚きます。そのため壁はすすで真っ黒になっていました。火を使っていなければ、岩肌に雨が染み込んで劣化し、洞窟が崩れてしまいます。人々が2000年にわたって洞窟で昔と変わらない暮らし続けてきた結果、洞窟が守られてきたというわけです。メイマンドに住む人たちの元々の宗教は、ゾロアスター教でした。拝火教ともいわれ、火を信仰していました。メイマンドには、ゾロアスター教の寺院だった洞窟も残されています。

常に火が焚かれる洞窟住居の壁は、ススで真っ黒。火の熱が洞窟住居の湿気を防ぎ、もろいはずの洞窟住居を守ってきました。寺院には、聖なる火を焚いていたとされる2つの炉。火を信仰するゾロアスター教の名残です。

──この地域の遊牧民の長い歴史が、さまざまなかたちでこの洞窟の暮らしに残されているんですね。最後に、番組の見どころをあらためてお願いします。

石渡:日本のテレビとして初めて、メイマンドの暮らしをカメラに収めてきました。春・夏・冬の居住地をしっかりと撮影した映像は世界的にも珍しいと思います。またドローンを使った洞窟住居の入口が並ぶ空撮映像も、みなさんが見たことのない不思議な光景になっているはずです。2000年もの間、昔ながらの生活を守り続けてきた遊牧民の生活を記録した貴重な映像を、ぜひご覧ください。