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2018年1月21日「パンタナール保全地域」

世界で唯一!ジャガーに出会える場所

南米の中央部に広がる大湿地帯、パンタナール。雨季には大地が水没し、乾季には大草原が広がります。そして、数多くの動物が生息しており、その頂点に立つのがジャガーです。幻の動物とも言われるジャガーですが、パンタナールでは、直接姿を見ることができるのです。その生態を追って、小澤ディレクターが大湿地帯に向かいました。

悠然と泳ぐジャガーが目の前に!

湿地帯で暮らすジャガーは、乾季には水辺に現れます。ジャガーに出会えるというポイントにボートで向かった撮影班でしたが、そこにはちょっと意外な光景が待っていました。

──今回は、南米のパンタナール保全地域ですね。まずはサイトの概要を教えてください。

小澤ディレクター(以下、小澤):パンタナール保全地域は、ブラジルの西部にある湿地帯です。「パンタナール」とはポルトガル語で「大湿地」という意味なんですね。広さは何と日本の本州ほどもあって、さまざまな動植物が見られる自然豊かな場所です。特にジャガーの生息地として知られていて、今回はその姿をカメラに収めるべく、パンタナールに入りました。

雨季には、あちこちが水に沈むパンタナールですが、乾季には水が引いて大草原になります。陸路でパンタナールを目指します。

──パンタナールでは、ジャガーはどのような場所で見ることができるのでしょうか?

小澤:パンタナールには雨季と乾季があって、取材したのは乾季でした。パンタナールは全体が盆地状になっていて、あまり高低差がありません。そのため、雨季に大量の雨が降ると水の逃げ場がないので水没してしまうんです。一方の乾季は、水が引いて大草原が生まれます。そんな乾季には、ジャガーは川沿いで見られると聞いていました。今回は、10年以上ジャガーを追い続けているという写真家の方に案内してもらい、ボートに乗ってジャガーが出現するというポイントに行ってみました。すると、さすがジャガー撮影のベテランのアドバイスだけあって、ほどなく川沿いの茂みからジャガーが現れたんです。さらに、そのまま川に入って悠然と泳ぎ始めたんですよ。ネコ科の動物は水を嫌がるはずなのに、これにはびっくりでしたね。

小型のボートでジャガーを探しながら川を進みます。すると川岸を歩くジャガーに遭遇しました。何とパンタナールのジャガーは水を嫌がりません。川に飛び込むと、悠々と泳ぎ始めました。

──泳ぎが得意とは、確かにネコ科のイメージと違いますね。それにしても、そんなに簡単にジャガーを見ることができるのですか?

小澤:こんなに簡単に会えるとは思わなかったので、驚きました。ジャガーは本来密林などに潜んでいるので、姿を見ることすら非常に難しいはずです。でもパンタナールは、そんな幻と言われていたジャガーの姿を、ほぼ確実に見ることができる特別な場所なんです。実は、ジャガーを撮影していると、周りに観光客を乗せたボートがどんどん集まってきました。パンタナールは、世界中の人々がジャガーを見るためにやってくる観光地になってるんです。

実はジャガーの見学ツアーに訪れた人々のボートで、川は混雑していました。近くにボートがいても、ジャガーは怖がる様子もありません。

──ジャガー見物にそんなに人が集まって、危険はないのでしょうか?

小澤:ボートで見物するのは、危険を避ける意味もあります。もちろん、観光には細心の注意が払われているので、襲われたという話はありません。でも、家畜の被害はあるんです。実はパンタナールでは、世界遺産に登録される前から牧畜が行われていて、今でも続いています。ただ、牧畜といっても柵もない放牧で、牛たちは草原で自由気ままに草を食べているので、ジャガーに襲われることがあるんだそうです。実際、撮影途中で見つけたジャガーの糞には、大量の牛の毛のほかに、ひづめまで混じっていました。毛皮や骨をかみ砕いたんですね。ジャガーのアゴがとんでもなく強いということを思い知りました。家畜を守るため、以前は、ジャガー狩りが行われていたそうです。また、高値で取り引きされる希少な毛皮も、重要な商品になっていました。

ジャガーのさまざまな生態を撮影することができました。水辺でリラックスする様子や、珍しい交尾のシーンなどもカメラに収めました。

──ジャガーと戦うのは相当勇気がいりそうですが、どんな方法でジャガーを狩っていたのでしょうか?

小澤:祖父がジャガー狩りの名人だったという人に、話を聞かせてもらいました。当時はヤリ1本持って1対1でジャガーと戦ったそうです。追い詰められたジャガーは、目の前で仁王立ちするそうです。そこですかさず、ヤリで心臓をひと突きするという、まさに命がけのジャガー狩りだったんですね。鉄砲で殺すと毛皮が傷つきますが、この方法だと毛皮の大切な部分を傷つけずに済みます。今ではジャガーは保護されていて、もちろん狩りは禁止です。地元の保護活動の成果が実を結んでジャガーの数は徐々に増え、今では見学ツアーが組めるほどになったというわけです。

パンタナールで暮らす人々は、以前はジャガー狩りを行っていました。ヤリ一本でジャガーを狩っていたのです。実際に使っていたヤリを見せてもらいました。