特集

2017年11月19日「ウィーン歴史地区/ブダペストのドナウ河岸」

愛する新天地を独立させたプリンセス

ウィーンでの生活に嫌気がさしたエリザベートは、何と王宮を飛び出してしまいます。そして見つけた新天地はハンガリーのブダペストでした。この街を愛したプリンセスは、驚きの行動に出ます。自分たちが支配していたこの国の自治権を、夫である皇帝に認めさせたのです。そしてブダペストは、美しく生まれ変わりました。

──エリザベートゆかりの世界遺産は、ウィーンからハンガリーのブダペストに移りますね。

久留島:ウィーンの宮殿での窮屈な生活に嫌気がさしたエリザベートは、頻繁に旅に出るようになります。ブダペストを訪れたとき、閉鎖的なウィーンとは違い、開放的な気質のあるこの街をエリザベートは気に入りました。鉄道網の発展もあり、彼女は頻繁にハンガリーに滞在するようになりました。

ドナウの真珠と呼ばれる美しい街、ブダペスト。エリザベートが愛したこの街は、エリザベートの努力によって自治権を手に入れ、生まれ変わりました。

──ウィーンでから逃げ出したような格好ですね。取材で訪れたブダペストはどんな街でしたか?

久留島:実際にブダペストを訪れると、ウィーンとは街の様子がガラッと変わるのがわかります。ブダベストの街中には、おとぎの国のような形をした独特のデザインの尖塔が建てられていたり、建築物の屋根瓦や壁や柱などに草花を模したような不思議な模様が埋め込まれていたりして、オリエンタルな雰囲気がありました。エリザベートはこの街を愛し、ハンガリーの人々もエリザベートを愛しました。

ブダペストの街には、エリザベートのグッズやパッケージがあふれていました。大昔の歴史上の人物ということではなく、より身近なカリスマ的な存在として、今でも非常に人気が高いのです。

──エリザベートがハンガリーでも愛された理由は何でしょうか?

久留島:当時、ハプスブルク帝国の支配下にあったハンガリーは自治権の獲得が国民の悲願でした。エリザベートは、ハンガリーの自治権を認めるように夫である皇帝を粘り強く説得したのです。それほど、この国が気に入っていたのです。結果、皇帝とエリザベートがハンガリー王と王妃を兼ねる形で自治を認め、ハンガリーは事実上の独立国となったのです。こうしてエリザベートは、ハンガリーの運命を変えた女性となり、ハンガリー国民に歓喜を持って迎え入れられました。世界遺産であるマーチャーシュ教会で戴冠式が盛大に行われ、首都ブダペストは、そこから大きく変わることになるのです。

フランツ・ヨーゼフ皇帝とエリザベートの戴冠式が行われたマーチャーシュ教会。壁や柱を埋め尽くす不思議な模様は、ハンガリー独特のものです。

──エリザベートが王妃となってから、ブダペストはどのように変わっていったのでしょうか?

久留島:ブダペストには、エリザベート専用のボックス席があるオペラ座や、ドナウ川河畔の国会議事堂など、新しい建物の建設が進みました。特に、惜しみなく予算がつぎ込まれた議事堂は、ハプスブルク帝国に対するハンガリー国家の意地と誇りを感じる豪華さです。ブダペストの大通りとなっているアンドラーシ通りや、世界初となる電気式の地下鉄も敷設されました。これは世界で唯一の世界遺産に登録されたメトロです。こうしてブダペストは、エリザベートのおかげで“ドナウの真珠”と呼ばれる美しい街に生まれ変わり、それが今もハンガリー国民の誇りなのです。現在でもハンガリーの人々は、エリザベートをハンガリーの王妃として認識していて、彼女のことを知らない人はいないほどの人気です。

ウィーンに対抗するかのように建てられたオペラ座には、エリザベートもたびたび足を運びました。一般客とは別に王と王妃のみが使う入口があり、彼女専用のボックス席に通じています。

ハンガリーの自治の象徴でもある国会議事堂はドナウ川のほとりに建てられました。ハンガリー国民の誇りでもあるこの建物は、世界遺産となった今も現役で使われています。

──取材を終えてみて、エリザベートという人物にどのような感想を持ちましたか?

久留島:歴史上の人物で遠い存在だと思っていたのですが、現地を訪れてみると、美のカリスマやファッションアイコンといった、より身近な存在であることがわかりました。そして、時代遅れの宮殿のしきたりと闘い、自分の考えを持って美しい街を作った女性だと、人々が話していたのが印象的でした。ウィーンもブダペストも大変美しい街並みなのですが、エリザベートの人生を通して見ると新しい発見だらけで、さらに世界遺産が面白く感じられました。番組では再現シーンも織り交ぜながら、そんな両都市の世界遺産の知られざる魅力をお送りしますので、ぜひご覧ください。

ブダペストの郊外にあるゲレデー宮殿は、エリザベートが好んで滞在した場所でした。緑豊かな広い庭で、大好きな乗馬を楽しんだのです。エリザベートが愛した宮殿の庭には、彼女の銅像がありました。