特集

2017年11月19日「ウィーン歴史地区/ブダペストのドナウ河岸」

皇妃エリザベートと2つの都

19世紀末、オーストリア一帯を支配したハプスブルク帝国の皇妃であり、後にハンガリー王国の王妃にもなったエリザベート。172センチの長身でウエストは51センチと、モデルのようなスタイルに美貌を兼ね備え、彼女のゆかりの地であるオーストリアとハンガリーでは、現在でも絶大な人気を誇ります。今回はエリザベートの人生に関わった2つの世界遺産です。取材を終えた久留島ディレクターに話を聞きました。

大帝国の王宮で孤独だったプリンセス

16歳で皇妃となったエリザベートは、ハプスブルク帝国の帝都ウィーンの王宮の中にあって孤独で息苦しい日々を送っていました。窮屈な生活から抜け出すため、お忍びで街に出て大好きなスイーツを買い求め、部屋にはトレーニングのための体操器具を設置。ちょっと風変わりな皇妃の部屋が、世界遺産の王宮に残されていました。

──今回は、ハプスブルク帝国の皇妃、そして後にハンガリーの王妃にもなったエリザベートにまつわる世界遺産ですね。皇妃エリザベートと、登場する世界遺産について教えてください。

久留島ディレクター(以下、久留島):エリザベートは、13世紀から続くヨーロッパの大帝国、ハプスブルク帝国の皇帝、フランツ・ヨーゼフ一世の皇妃でした。もともとはドイツの貴族でしたが、皇帝に見初められ、16歳で皇妃となった人です。皇妃としてウィーンのホーフブルク王宮で暮らしましたが、その後、ハンガリー王国の王妃となりました。番組ではエリザベートの波乱の人生をたどりながら、ウィーンとブダペストの世界遺産の知られざる魅力に迫りました。

ウィーンの街は観光馬車で巡ることができます。有名なオペラ座やブルク劇場、市庁舎など、通り沿いには、19世紀半ばに立てられた世界遺産の建物が次々に現れます。

──なぜ皇妃エリザベートに焦点を当てることになったのでしょうか?

久留島:エリザベートは、日本ではミュージカルの主人公として知られつつありますが、ヨーロッパでは大変人気のあるプリンセスです。現地を訪れると、お菓子のパッケージや絵はがきなど、あちこちでエリザベートの姿を見かけました。街の女性に聞いてみると、その美貌に加え、自立心のある女性として尊敬するといった答えが返ってきて、今でも大変支持されていることに驚きました。人物像を調べていくうちに、実は彼女は歴史の大きな転換点を生きた女性で、ヨーロッパの世界遺産の誕生に深く関わっていることがわかってきたんです。

そして、エリザベートが暮らしていたホーフブルク王宮へ。ハプスブルグ家の皇帝が代々暮らした王宮の中で、エリザベートは窮屈な生活を強いられていました。

──エリザベートにまつわるウィーンの世界遺産について聞かせてください。

久留島:やはり彼女の居城であった、ホーフブルク王宮ですね。世界最大級の宮殿で、面積は東京ドーム約5個分の敷地に、18棟の建物、2600もの部屋があります。ここは、ハプスブルク家の統治が終わる第一次大戦後まで、政治の中心でした。通常の王宮や宮殿と違うのは、統一された建築様式ではなく、13世紀から20世紀まで年代ごとにゴシック様式、ルネサンス様式、バロック様式などが混ざり合っている点です。これは、皇帝が替わるたびに増築が繰り返されたためで、帝国の発展と終焉を知ることができる貴重な世界遺産と言えます。また、王宮の中にあるシシー(エリザベートの愛称)博物館では、エリザベートの部屋も公開されていて、持ち物や衣装なども展示されています。熱心に説明を聞く人たちであふれかえっていて、エリザベートの人気の高さに驚かされました。

20万冊の蔵書を誇る王宮図書館は、「世界一美しい図書館」と言われています。革に金をほどこした装丁は、図書館の内装に合わせてデザインされたものです。

──ウィーンの王宮で、エリザベートはどのような生活をしていたのでしょうか?

久留島:実はエリザベートは、ウィーンでの生活に辟易としていました。以前は自然に囲まれた環境でのびのびと暮らしていたのに、突然、ハプスブルク家という栄華を極める大貴族の元に嫁いできたわけです。そこは貴族のしきたりや慣習でがんじがらめの生活が待っていました。厳しさのあまりエリザベートは、「私は今 囚われの身〜」という詩を残しているほどです。そのせいか、エリザベートは、こっそりと息抜きをしていたようです。

フランツ・ヨーゼフとエリザベートの居室も公開されています。エリザベートのプライベートルームには、使い込まれたぶら下がり器具や吊り輪などが……。こんなものをわざわざ部屋に設置して、スタイルを維持していたのです。

──意外にも王宮での生活は息が詰まるものだったのですね。エリザベートは息抜きにどのようなことをしていたのですか?

久留島:王宮から抜け出して、お忍びでウィーンの街に出かけたりしました。お気に入りのスイーツを買って、美しい宝石を探しました。エリザベートが身に付けていた有名な星形の髪飾りは、当時としては非常に前衛的で、多くの女性が真似したそうです。そのケーキショップと宝石店も取材して、エリザベートが好きだったスイーツや、実際に身に付けていたアクセサリーなども見せてもらいました。

甘いものが大好きなエリザベートが買い求めた、スミレの花びらの砂糖漬け。御用達だった宝石店で、実際に身に付けていたという、大きなダイヤがあしらわれたアクセサリーを特別に見せてもらいました。

──当時の貴族らしくない生活ですね。

久留島:そうなんです。また、スイーツが好きだったエリザベートですが、172センチの長身にもかかわらず、ウエストは生涯51センチだったと言われています。そのスタイルには秘密がありました。エリザベートの個室には、ぶら下がり健康器のような器具や、吊り輪まであるんです。エリザベートはこれにぶら下がったり、つかまって回転したりして、腹筋を鍛えていました。そんなことをやっていた貴族は、おそらく彼女だけでしょう。宮殿内のエリザベートの部屋では、これらの運動器具も見学することができます。世界遺産の豪華絢爛な部屋の中に、こんな器具が説明もなく展示してあるので、知らなければ、彼女のトレーニング道具だとはちょっと思い付かないでしょうね。