特集

2017年7月9日「ツィンギ・ド・べマラハ厳正自然保護区」

100キロも続く針の岩山と謎の地下迷宮

ツィンギの針の岩山は、100キロにもわたって続いています。この独特の光景を生み出している尖った岩はどうやって生まれたのでしょうか? そして、針の岩山の下はまったくの別世界がありました。無数の洞窟が地下迷宮のように広がっていたのです。

──純白のサル、デッケンシファカが棲むツィンギは、針のような岩山ということですが、実際に登ってみていかがでしたか?

江夏:驚くほど尖った鋭い岩が無数に突き出していて、登るのはたいへんでしたね。また、そのような針の岩山が100キロにわたって続いている光景は、圧巻です。これまで世界中の大自然を撮影してきましたが、こんな風景は見たことがありませんでした。

針のような鋭い岩が並ぶ、ツィンギ独特の風景。そんな岩山が100キロメートルにわたって続く光景は圧巻です。

──それだけ鋭い岩だらけの場所だと、撮影ポイントに移動するだけでもたいへんそうですね。

江夏:そうですね。岩山ではキャンプできないので、近くの村からツィンギに通い、毎日2〜3時間かけて登りました。素手だとケガをしてしまうほど岩が尖っているので、クライミング用の革手袋をして手を守る必要がありました。それでも、いろいろなところがアザだらけになりました。もちろん、落下したら、命の保障はありません。

宙に浮いたような不思議な形の岩もありました。尖った岩を近くで見ると、雨水が流れてできた溝が見えます。

──ツィンギの岩は、どうして針のように尖っているのでしょうか?

江夏:ツィンギの一帯は、サンゴなどの死骸が積もってできた石灰岩の地層です。2億年ほど前に海底でつくられた石灰岩が隆起して、台地が生まれました。石灰岩は雨に溶けやすく、雨水が岩肌を流れて浸食していった結果、先端が尖った針のような形になったのです。尖った岩を近くで見ると、先端から水が流れた跡が溝となって残っているのがわかります。

切り立った岩の隙間で、ひと休みの江夏ディレクター。尖った岩だらけのツィンギの移動はたいへんで、あちこちにアザができたそうです。

──雨が作り出した針の岩山だったのですね。

江夏:そうなんです。針の岩山は無数に刻まれた深い谷で分断されているのですが、これも雨によって作られたものです。石灰岩が隆起した際にできた亀裂に雨水が染み込んで台地の内部を浸食し、地下に無数の洞窟を生み出しました。その洞窟は、かつて地下水で満たされていました。その後、地下水が減ると空洞になり脆くなった天井が崩れ落ちて、高さが100メートルもある深い谷になったのです。谷底には、岩の上とはまるで違う世界が広がっていました。

針の岩山の隙間にある深い谷底は、暗くじめじめしていました。谷底のわずかな土壌を求めて、絶壁の上に生えた木々の根が垂れ下がっています。

──谷のほうはどのような場所になっているのですか?

江夏:谷は一転して暗く、じめじめしています。絶壁に挟まれた谷には、地底へとつづく無数の入口がありました。そこを降りてゆくと洞窟が迷路のようにつながっていて、まるで地下迷宮のようです。乾季でも枯れない地底湖もあり、その水を求めて、岩山の木々の根が石灰岩のすき間を通って洞窟に垂れ下がっていました。洞窟の中に大量の根っこが垂れ下がってきている光景は、まるで異世界に降り立ったような雰囲気です。ツィンギに生育する、そんな不思議な植物たちも登場します。

地下には多数の洞窟があり、迷宮のようになっていました。地上の木々の根が、地下水脈の水を求めてここまで垂れ下がり、不思議な光景を作っています。

──地下に広がる異世界の映像も楽しみにしています。最後に、視聴者のみなさんにあらためて見どころをお願いします。

江夏:ツィンギでの撮影はたいへんでしたが、その甲斐あって、不思議な風景や珍しい動植物がたくさん登場します。今回は特別に許可をもらって、ドローンを使った空撮も行いました。針の岩山がどこまでも続く圧巻の風景はもちろん、岩山を飛び回るデッケンシファカの空撮にも成功しました。とんでもない映像が撮れているので、ぜひ番組でご覧ください!

ドローンで撮影した、真上から見たツィンギ。尖った岩や深い谷が描く不思議な風景が広がります。