特集

2017年6月11日「コルシカ島のポルト湾周辺」

奇岩だらけの海で深海生物を発見!

奇岩の島コルシカの独特の光景は、海の中に不思議な生態系を生み出していました。タフォニによって作られた奇岩は海中にも広がっており、浅い海にもかかわらず、深海生物が見られるのです。また、風の強いコルシカ島にはマキと呼ばれる灌木が一面に広がり、島特有の風景を作っていました。マキは、薬や工芸品として人々の生活も支えていました。

──奇妙な穴、タフォニなどの独特の景観を持つコルシカ島の自然ですが、他にも変わった風景はありましたか?

久留島:実は海の中にもコルシカ島の特徴を示す光景が広がっていました。海に潜って海中の様子を撮影してみたのですが、陸上で見たタフォニが海面の下の世界にも続いているのです。

タフォニはコルシカ島周辺の海中にも広がっていました。海面が下がっていた寒冷期に作られたタフォニが沈んだものだと言われており、生物の住み処としても格好の場所です。ハタの仲間で体長1メートルにもなる巨大魚、ダスキークルーパーが悠然と泳いでいます。

──風が運んできた塩の影響で形作られたはずのタフォニが、どうして海中でも見られるのでしょうか?

久留島:2万年ほど前の地球の寒冷期には、海面が120メートルほど下にあったのです。その頃には海上にあった岩が塩で削られ、その後に海面が上昇して海に沈んだ結果、海中のタフォニになったのです。タフォニによって入り組んだ岩場は、海中生物たちにとって格好の住み処になっていました。

──海の中のタフォニには、どのような生物が生息しているのでしょうか?

久留島:水深30メートルほどのところに潜ってみると、美しいベニサンゴを撮影することができました。ベニサンゴは、かつて金と同じ価値があるものとして取り扱われていたこともあって乱獲され、今では希少なものです。しかも本来は、水深100〜200メートルの深い海に生息しているので、通常はダイビングで見ることはできません。

海賊の宝物などにも描かれていた、希少なベニサンゴがいました。本来は深い海に棲む生物ですが、入り組んだ岩で暗くなっているコルシカ島の海では水深約30メートルのところで見ることができます。深海生物であるオキノスジエビも見つけました。

──深い海に棲んでいるはずの生物が、どうして浅いコルシカ島の海では見ることができるのですか?

久留島:タフォニの影響で複雑な形をした岩場が光を遮っているので、この辺りの海は深海のような暗さなのです。他にも、深海生物のオキノスジエビや、巨大なハタの仲間、ダスキーグルーパーなどの珍しい生物も見ることができます。また、入り組んだ岩は、海中に面白いものを作り出していました。海中の断崖にも縦穴ができています。その空洞に空気がたまり、海中に水面ができるのです。それは「エアドーム」と呼ばれ、水中から見るとエアドームの水面が鏡のように反射して、とても幻想的な光景でした。

海中のタフォニに空気がたまってできたエアドーム。海中から見ると、水面が鏡のように周囲を映しています。

──海の中にもコルシカ島独特の光景が広がっているのですね。

久留島:はい。タフォニ以外の島の内陸部の風景も特徴的です。開けた土地には「マキ」と呼ばれる低木の茂みが広がっていました。土地がやせて乾燥しており、風も強いので、そのような環境に耐える背の低い植物が育っているのです。産業が少ないコルシカ島では、マキを使った伝統工芸品もあります。コルシカナイフと呼ばれるこの島独自のナイフの柄には、丈夫でしなやかなマキが使われています。また、現在ではアロマオイルとして大人気のマキ、イモーテルから採れる精油は、コルシカ島では昔からケガの治療などに使われてきました。マキは、島の文化に根付いていました。

コルシカ島は、かなりの部分が灌木「マキ」の茂みで覆われています。実はこのマキ、トゲや硬い枝を持つ種が多いのです。撮影のために茂みに入ると、ウインドブレーカーやズボンが穴だらけになってしまうという苦労話も。

伝統工芸品であるコルシカナイフ。柄には、ヤギの角やマキが使われています。マキから抽出される精油も、薬として昔から使われていました。

──最後に、番組を楽しみにしているみなさんに見どころをお願いします。

久留島:コルシカ島に残された自然の、独特の姿をお楽しみいただきたいと思います。また自然の他に個人的に印象深かったのが、コルシカ島で暮らしている人々です。世界遺産のエリアの中に、ジロラッタ村という15人ほどが暮らす小さな村があります。車で通れるような道らしい道は村に通じておらず、船で行くしかない場所です。その村から見える風景やそこで暮らす人たちの暖かい言葉が、心に残っています。番組でも紹介しますので、コルシカ島のそんな一面もぜひご覧ください。

15人ほどの村民が暮らすジロラッタ村。村に続く道路はなく、船やヘリで行くしかありません。コルシカ島の自然に囲まれた美しい風景が広がっており、今では観光地としても人気の場所です。