特集

2017年4月2日、9日 二週連続放送「サンガイ国立公園」

発見!標高4000mに生息する黒いバク

サンガイ国立公園の風景は、標高や地域によってさまざまな表情を見せます。広大な草原が続いたかと思えば、富士山よりも高地に突如現れる深く湿った森、雲霧林。この不思議な山には、変わった姿をした巨大植物と、幻の動物ヤマバクが生息していました。

──普段は人が入らないサンガイ山の周りは、どのような場所なのでしょうか?

江夏:サンガイ山の周辺は、広範囲にわたって火山灰が降り積もった土地です。標高の高い場所ですが、火山灰はミネラルを多く含んでいるので、植物がよく育ちます。標高3500m付近にはイネ科の植物の大草原が広がっていて、その中にひときわ背の高い植物が生えていました。アチュパジャというその植物は、高さが3mもありますが、樹木ではなく草なのです。根元にはトゲのある葉が生えていて、茎の表面は細かな毛で覆われていました。この辺りは夜になると氷点下になります。表面の毛は、その寒さをしのぐためのものだと言われています。

斜面にニョキニョキと生えているアチュパジャは、3mにもなる巨大な草。夜の寒さに耐えられるように、細かな毛で覆われています。

──巨大な草が生えている風景は、まるでSFの世界ですね。そこからさらに登っていくと、周囲の風景はどのようになっていくのですか?

江夏:一般的に、標高が上がると植物はまばらになり、丈も低くなっていくものですが、サンガイ山では、草原よりも高地の標高3800m辺りから上には雲霧林が広がっているのです。コケに覆われた深い森で、そこにも巨大な高山植物が茂っていました。

標高3800m辺りから、周囲の様子が一変しました。巨大な高山植物がひしめく、苔むした雲霧林です。アマゾン流域の湿気のある空気が、サンガイ山を超えて雨を降らせるのです。

──高地にもかかわらず、そのようなうっそうとした雲霧林が広がっているのはどうしてなのでしょうか?

江夏:それは、サンガイ山が位置する場所が特殊だからです。サンガイ山はアンデス山脈の端に聳えているのですが、登山道の反対側は、アマゾン川の上流域になっています。アマゾン流域の湿った空気がサンガイ山にぶつかり、雲を作って標高4000m付近や反対側の斜面に雨を降らせます。たっぷりと降る雨のおかげで、緑豊かな雲霧林が出来上がったのです。ただし山から離れるに従って空気は乾いていくので、やがて雲霧林が途切れて草原になっているというわけです。

雲霧林に生えている巨大植物のひとつ、パラグィージョ。根元から伸びているちょっとグロテスクなものは、果実です。

──なるほど、アマゾンの上流域に近いという特殊なロケーションが、このような不思議な植物の生態を生んでいたのですね。

江夏:そうなんです。植物だけでなく、ここには珍しい動物も生息しています。アンデスの山奥に2500頭しかいないという絶滅危惧種、ヤマバクもそのひとつです。サンガイ国立公園は、数少ないヤマバクの生息地域なのです。

サンガイ国立公園に生息しているヤマバグの姿を撮影するため、手がかりを探して森を歩き回りました。足跡と糞が見つかりました。

──希少な動物ですね。そのヤマバクの特徴を教えてください。

江夏:前身が黒い毛で覆われていて、長い鼻を持っています。視力は弱いのですが、嗅覚が発達しています。その姿を何とかカメラに収めようと、山の中を探し回りました。落ちていた糞や、足跡を頼りに探索すること7時間。標高4000m付近で、ようやく出会うことができました。体重200kgほどの大きなヤマバクでした。大きなヒヅメを使って、斜面を登っていく様子などを撮影することに成功しました。

捜索を始めて7時間が過ぎた頃、ようやく1頭のヤマバクに出会うことができました。その後にもう一頭現れ、貴重な姿を映像に収めることができました。

──珍しい野生のヤマバクの姿が番組で見られますね。では最後に、番組を楽しみにしているみなさんに、あらためて見どころをお願いします。

江夏:今回は1000回目の放送を記念して、日本のテレビカメラが初めてサンガイ山の頂上を撮影しました。この番組『世界遺産』の醍醐味は、通常では見られない場所の貴重な映像を、あたかもそこにいるような臨場感でじっくり見ていただけるところです。今回のサンガイ国立公園でも、貴重な映像をお届けします。不思議な動植物と、険しく美しい自然に囲まれた“南米の富士山”の姿を、ぜひご覧ください。

厳しく美しい自然がある、“南米の富士山”サンガイ山。その裾野には独特の風景が広がり、不思議な動植物が生息していました。