特集

2017年3月5日放送「ワルシャワ歴史地区」

華やか!50年ぶりによみがえった王宮

ワルシャワの美しい王宮は、ワルシャワ市民の誇りです。しかし、ナチス・ドイツの最初の爆撃で破壊された建物でした。長い時間を経てよみがえった王宮は、室内に無数にあしらわれた金色の木の葉の装飾一枚に至るまで、見事に復元されていたのです。

──旧市街の中心的存在である王宮の復元について教えてください。

石渡:はい。実はワルシャワ歴史地区が1980年に世界遺産に登録されたとき、王宮はまだ再建されていませんでした。戦後、旧市街の復元作業はすぐに始まりましたが、王宮には手が付けられなかったのです。王宮はワルシャワ市民の誇りであり、心の支えと言っていいものです。にもかかわらず、すぐには再建できませんでした。

復元された王宮。ワルシャワ市民の誇りであった美しい王宮の姿は、世界遺産に登録された1980年には、失われたままでした。

──国の象徴ともいうべき王宮の再建が遅れた理由は、何だったのでしょうか?

石渡:ポーランドは戦後、ソビエト連邦の強い影響下に置かれた共産主義国家でした。そのため、王宮の復活は過去の王政を認めてしまうことになるため、当時の政府が修復を認めなかったそうです。工事が始まったのは1971年になってからでした。そこから完成までに、実に17年かかっています。内装工事だけで14年もかかりました。

王宮内の豪奢な部屋の中も、天井画や装飾に至るまで、破壊される前の姿を取り戻しています。

──完全に破壊された王宮を建て直したわけですから、たいへんな手間ですね。どのようにして復元していったのでしょうか?

石渡:建物の外観はもちろん、部屋の中の装飾や調度品まで、すべてを復元する工事でした。修復チームのチーフだった方に会うことができたので、実際に当時の仕事ぶりを再現してもらいました。壁や天井の装飾品など、資料を見ながらひとつひとつ作り直していく地道な作業でした。石膏と漆喰を駆使して形を整え、それを磨いて大理石に見せるのです。

当時の修復作業を実際にやってもらいました。装飾ひとつひとつを石膏や漆喰で作り、形を整えて磨くことで大理石のように見せていきます。

──正確に直していくためには資料が必要だと思いますが、何を参考にして復元していったのですか?

石渡:残された数少ない写真や絵、実際に王宮で働いていた人の記憶などを頼りに、復元していきました。しかし、絵や写真では見た目は確認できても中の構造までは分かりません。しかも復元するための材料が当時の材料とは異なることが多く、直すためには検証や工夫が必要でした。苦労したのは「ライオンの皮」と呼ばれる、歴代の王の肖像画が飾られた大きなフレームでした。せっかく作っても強度が足りず壊れてしまうため、最終的に金属のフレームを埋め込んで補強したそうです。

「ライオンの皮」と呼ばれる、歴代王の肖像画のフレームの再現は、苦労が多かったそうです。そのままでは崩れてしまうので、金属のフレームを埋め込んで補強しました。

──なるほど、手探りの修復作業だったのですね。それは時間がかかりそうです。

石渡:そんな中で、ガレキの中から奇跡的に手がかりが見つかったこともありました。王宮内には、至る所に木の葉をあしらった装飾があったのですが、小さなものだったので戦前の写真などを見ても細部がどのようになっているのか分かりません。しかしある日、王宮が崩れた跡から、その小さな木の葉の飾りが数枚見つかったのです。オリジナルの葉っぱから石膏で型枠を造り、それを元に何千枚もの金属の葉っぱの飾りを製作しました。それらを壁や扉に取り付けて金箔を貼り、戦前と同じような状態に復元できたのです。

──そのような苦労があって復元された王宮をご覧になって、どのように感じましたか?

石渡:王宮の部屋はかなりの数があるのですが、ひとつひとつが見応えのある美しい仕上がりで、内装に至るまでよくぞここまで再現したものだと感心しました。1939年のナチス・ドイツによる空爆で、最初に破壊されたのが王宮でした。それから50年ほど経って、ようやく完成したのです。王宮の復元費用も、やはり市民のカンパで成り立っています。復元することが決まってから、寄附はすぐに集まったといいます。それだけ、ワルシャワ市民の強い願いが込められていたのです。

王宮内の至る所にあった小さな葉っぱの飾りが、王宮の跡から奇跡的に見つかりました。そのおかげで、どのようなデザインになっていたのかが分かったのです。

──では最後に、あらためて番組の見どころをお願いします。

石渡:はい。ワルシャワは、以前から行ってみたいと思っていた街だったのですが、取材で訪れて感じたのは、街を復興させた市民の熱い想いでした。この世界遺産は、ワルシャワ市民の熱意に与えられたと言っても過言ではありません。ワルシャワ旧市街のそんな一面を、番組を通して知っていただければと思います。