特集

2017年1月8日放送「スイス・アルプス ユングフラウ-アレッチ」

氷河が生んだ森と谷

スイス・アルプスの世界遺産には、ユングフラウ地方を流れる、アルプス最大のアレッチ氷河も登録されています。実は氷河はゆっくりと流れています。その巨大なエネルギーから、巨大なクレバスを作り、アルプスの美しい森や、人々が暮らす豊かな谷も生み出しました。

──続いてはスイス・アルプスのもうひとつの主役、巨大なアレッチ氷河ですね。

和田:ユングフラウ鉄道の終点、ユングフラウヨッホ駅の展望台からアルプス最大のアレッチ氷河が見えます。その長さは20km以上。氷河の上は見た目は広い雪原ですが、実は非常に危険な場所なのです。氷河を知り尽くしている地元のガイドについて氷河の上を歩いたのですが、常にガイドとザイルで体をつなぎ、彼の足跡の上以外は踏むなと、厳重に注意されたほどです。

アルプス最大の氷河である、アレッチ氷河は、厚いところでは氷の厚さが900mにもなります。年間に2mほどの速度でゆっくりと移動しています。

──氷河の上にはどのような危険があるのでしょうか?

和田:氷河には、氷の裂け目であるクレバスが至る所にあるのです。遠くから見えるくらい大きなものは幅が200m、深さは50m以上にも達し、落ちたら救出するのが極めて難しいのです。クレバスの上に雪が積もって隠れていることもあります。私たちはガイドの先導で、巨大なクレバスの中に入ってみました。

氷河にできる巨大な氷の裂け目、クレバス。その中の様子を探るため、急な傾斜を降りていきます。撮影機材を抱えたまま進むのは至難の業。

──クレバスの中はどんな状態でしたか?

和田:斜面をロープで降りていくような場所です。アイガーのような急斜面ではないのですが、新雪が上に積もっているため非常に滑ります。一回滑ると、アリ地獄のようにジワジワと下へ落ちていくので、油断できません。私たちは撮影機材を持ちながら降りていくので、なおさら大変でした。クレバスの底はまったく見えない状態で、恐ろしかったですね。

どこまで続いているか分からない深いクレバスの底。雪の重さがかかる氷河の氷は、空気があまり入らないので、限りなく透明でした。

──このような巨大なクレバスは、どのようにしてできるのでしょうか?

和田:アレッチの氷河は、年間約2mという実にゆっくりとしたスピードで流れています。氷河が流れていく山地には起伏があるので、急なところで流れが速くなります。また、厚みのある氷河では、底と表面で流れの速さが異なります。こういったズレが原因となって、氷河に亀裂ができるのです。また、この氷河の流れは、アレッチ氷河の表面にできている2本の線も作っているのです。

──そういえば、アルプスの氷河の表面に車線のような2本の線が目立ちますね。

和田:そうなんです。この2本の線の正体を探るために、実際に線の上に降り立ってみました。線の正体は、岩や砂利などが集まったものだったのです。先ほど説明したとおり、氷河は周囲の岩肌を削りながら流れています。その際に、氷河といっしょに削り取った土砂もいっしょに移動します。そのまま3つの氷河が合流すると、土砂がそのまま氷河に挟まれ、モレーンと呼ばれる2本の線となって残るという仕組みだったのです。

氷河の上には、まるで道路のように2本の線が続いています。それが何なのかを調べるため、ヘリコプターで降りてみました。それは、氷河が削り取った土砂だったのです。

──なるほど。そうやって削り取った土砂が、模様となっていたのですね。

和田:氷河はこの地域の地形にも大きく影響しています。アルプスのふもとには、Uの字のカタチをした美しい谷間の村があるのですが、これはかつて氷河が削り取った場所なのです。また、氷河の末端の部分ですが、氷河が消え去った後、運ばれてきた土砂だけが残されます。そこに、周りから種が飛んできて新しい森を作ることがあります。これは“氷河の森”と呼ばれ、スイスの美しい自然を作るとても大切な一要素となっているのです。

氷河が削り取ってできた美しいU字の谷間です。この緑豊かな土地も氷河が生み出したものなのです。

──最後に、番組を楽しみにしている皆さんに見どころをお願いします。

和田:スイス・アルプスの雄大な景観を、最新の4Kのカメラをフル活用して収めてきました。ロケ中は好天にも恵まれて、アルプスの名峰が夕日に照らされて赤く染まるシーンなど、数多くの貴重な瞬間も捉えることができました。アルプスの美しく厳しい自然を満喫してください。