特集

2076年1月8日放送「スイス・アルプス ユングフラウ-アレッチ」

鉄道で登る! アルプス名峰と氷河

4000m級の山々がそびえるスイス・アルプス。輝く銀嶺と巨大な氷河、そのふもとには、氷河が作りだした芸術的な渓谷と、豊かな自然が広がっています。世界屈指の美しい景観ですが、近づくと、その猛々しい本性がむき出しになります。多くの登山家の命を奪った“人殺しの壁”と呼ばれる断崖絶壁、底が見えないほど深い氷河の裂け目、壮大で美しくも過酷なスイス・アルプスの自然に挑んだ和田ディレクターに話を聞きました。

65人の命を奪ったアイガー

壮大な景観を織りなすスイス・アルプス。遠目には世にも美しい山々ですが、そこには近づくものを拒む厳しい自然が待ち構えています。その代表格がアイガー北壁の断崖絶壁。高さ約1800mにも及ぶ、ヨーロッパ屈指の切り立った崖です。

──スイス・アルプスと言えば美しい山々が織りなす風景が思い浮かびます。まずは、どんな場所なのか教えてください。

和田ディレクター(以下、和田):はい。訪れたのは、スイス・アルプスの名峰を望み、アルプス最大の氷河が横たわるユングフラウ山地です。宿泊したのはグリンデルワルトという小さな村だったのですが、目の前に壁のような山が迫っていたのにはびっくりしました。番組では、スイス・アルプスの代表的な3つの山を紹介します。それぞれに特徴があってとても興味深いです。

スイス・アルプス、3つの名峰。向かって左から、断崖絶壁が特徴のアイガー、比較的登りやすいとされるメンヒ、そして“乙女”の名を持つユングフラウ。

──美しい風景が楽しめそうですね。紹介する山にはどんな特徴があるのでしょうか?

和田:スイス・アルプスを代表する3つの山を紹介します。まず、標高3970mのアイガー。この山の特徴は、北壁の険しい断崖絶壁です。北壁は、高さ約1800mの切り立った崖で、登山の世界的な難関ルートとして知られています。その隣にあるのが「修道士」を意味する名を持つメンヒで、標高は4107m。“修道士”だけにどっしりとした雄大な姿で、3つの山では一番登りやすいと言われています。さらにその隣にそびえるのが標高4158m、この山地の最高峰、ユングフラウです。“乙女”を表す山だけに、本当にいつまでも見ていたい程の美しさがありました。

ユングフラウ鉄道に乗って、標高約800mのラウターブルンネン駅から、標高3454mの終点、ユングフラウヨッホ駅まで登っていきます。

──標高の高い場所では、撮影するのが大変だったのではないですか?

和田:実は、山頂の近くまで鉄道で行くことができるのです。ユングフラウ鉄道は、標高3454mにあるユングフラウヨッホ駅まで登る山岳鉄道です。全長9.3kmの線路のほとんどはトンネルの中で、アイガーに入口があり、メンヒの中を通っていきます。トンネルの建設は岩山の中を何kmも掘り進む大工事ですが、何と100年以上前に開通したものです。

ユングフラウ鉄道は、ほとんどトンネルの中を走ります。鉄道の敷設は、100年以上前に行われた大工事でした。

──では、スイス・アルプスの山頂付近まで、誰でも簡単に行くことができるとは意外ですね。

和田:そうなんです。終点のユングフラウヨッホ駅はユングフラウの山頂を間近に望む場所にあります。ここまで歩いて登るとなると大変な労力が必要ですが、この鉄道のおかげで、お年寄りや子どもでも山頂近くの美しい景観を楽しめるのです。途中には駅もあって、アイガーのトンネルに入る手前のアイガーグレッチャー駅には、散策するにはもってこいのトレッキングコースがあります。また、トンネルの途中には、アイガーの北壁の中腹に出られる横穴があります。これはトンネル工事をしていた当時、土砂を捨てたり、遭難者を救助したりするときに使われたものです。今回は特別にトンネルの中で電車を止めてもらい、その横穴に向かいました。

工事の際、土砂を捨てたり、遭難者の救助に使われていた横穴から、アイガー北壁に。ドアを開けると、いきなり崖っぷちでした。滑落したら一巻の終わりです。

──多くの登山家の命を奪ったというアイガーの北壁に出るのは緊張しますね。横穴の外はどんな風になっていましたか?

和田:横穴の出口にはドアがあるのですが、ドアを開くといきなり崖っぷちでした。実際に外に出てみると、すぐ先が600m下まで切り立った崖になっているのです。足下は凍った雪で覆われていて滑りやすい上、歩く幅は30cmくらいしかなく、壁に張り付いていないと落ちてしまいそうでした。そこから、私もアイガーの北壁に挑んでみたのですが……結果は、番組でご覧ください。

和田ディレクター、アイガー北壁に挑む! 足の置き場もおぼつかない垂直の絶壁を登ります。

──アイガーの北壁がどれくらい険しい場所なのか、映像で見るのが楽しみですね。終点のユングフラウヨッホ駅は、どんな場所でしたか?

和田:レストランやお店もある、近代的な空間になっています。外にも出られるようになっていて、実際に標高3454mの現場を体感することができます。さらに上に登ると展望台があり、天気がよければすばらしい眺望が広がっています。また、そこからはアルプス最大の氷河である、アレッチ氷河を見ることもできます。観光スポットとしては、本当にオススメの場所ですね。

ユングフラウヨッホ駅からエレベーターで登れる展望台では、すばらしい眺望が待っていました。巨大なアレッチ氷河もここから見ることができます。