特集

2016年10月23日放送「ル・コルビュジエの建築作品」

東京初の文化遺産!柱に刻まれた木目へのこだわり

晩年、ル・コルビュジエはそれまでの自分の作品とは大きく異なる印象の建築作品を手掛けました。スイスとの国境近くにある奇妙な建物──ロンシャンの礼拝堂です。そして、ル・コルビュジエの作品は海を渡り、日本にも届きます。国立西洋美術館は、ル・コルビュジエが設計しました。そしてそこには、日本らしさを示す唯一無二のデザインが加えられたのです。

──続いて紹介するのは、ロンシャンの礼拝堂ですね。

尾賀:はい。この礼拝堂は、それまでのル・コルビュジエの作風とは大きく違っていて、「カニの甲羅」と呼ばれる独特の屋根が特徴です。それまでのフラットな面構成ではなく、有機的なうねりのある形状をしています。

それまでの建築作品とは大きく印象が異なるロンシャン礼拝堂。フラットな面構成ではなく、有機的なうねりのある外観が特徴です。

──ル・コルビュジエのそれまでの建築作品とは印象が違いますね。建物の中はどのような雰囲気なのでしょうか?

尾賀:中は一見真っ暗なのですが、そこにはル・コルビュジエらしい演出がありました。小さい窓が壁一面に配置されているのですが、位置や形もそれぞれ違っています。外にいくほど狭くなる形状の奥まった窓枠には、ル・コルビュジエ自らの手でさまざまな装飾が施された窓ガラスがあり、カラフルな光がグラデーションで差し込んでくる仕掛けになっています。教会建築としての荘厳で神聖な空間が、近代建築の常識を超えた技法で表現されていました。「光の建築家」と呼ばれるル・コルビュジエの、光の表現をご覧いただけます。

ロンシャン礼拝堂の中は、様々なサイズの窓から差し込む光のグラデーションで、荘厳な雰囲気が演出されています。窓ガラスに描かれたデザインはル・コルビュジエ自身の手によるもの。

──映像で見るのが楽しみですね。ル・コルビュジエが演出する荘厳な雰囲気とは、どんなものなのか気になります。

尾賀:はい。また、ロンシャン礼拝堂の特徴的な屋根の中には、ある秘密が隠されていました。現地の方によれば、ロンシャン礼拝堂の屋根裏にテレビカメラが入ったのは、世界でも初めてとのことです。

──どのような秘密が隠されていたのでしょうか?

尾賀:屋根裏には広い空間が広がっていました。この空間は、礼拝堂内の柱の中を通る空間とつながっています。屋根裏の空間と堂内をつなぐような形です。これは、どうやら音響効果を狙って考えられた構造のようなのです。礼拝堂では賛美歌などが歌われます。ギターのサウンドホールのように、礼拝堂内の音を屋根裏の空間で共鳴させ、それを堂内に放出しているそうです。

ロンシャン礼拝堂の屋根裏にはコンクリートで覆われた空間が広がっていました。それは柱を通る穴を通して礼拝堂内とつながっていました。賛美歌などの歌声がこの空間で共鳴し、堂内に放出される仕組みです。

──そこまで考えているとは、驚きですね。そしていよいよ、国立西洋美術館の紹介です。東京に誕生した初めての文化遺産ですね。

尾賀:そうですね。国立西洋美術館も、ピロティや、大きな窓ガラスから差し込む自然光を巧みに利用した展示スペースなど、ル・コルビュジエらしい特徴が現れた建築作品です。番組では、ピロティに使われている鉄筋コンクリートの柱に注目しました。この柱には、日本独自のアレンジが施されているのです。近くでご覧になった方は気が付いたと思いますが、柱には木目が刻まれています。これは工事を担当した日本の建築家が、日本らしさを表現するために考え出したものです。その日本人は森丘四郎さんといい、フランスでル・コルビュジエの師匠でもあるオーギュスト・ペレから鉄筋コンクリートを学んだ方です。

東京に誕生した世界遺産、国立西洋美術館もル・コルビュジエらしい特徴を持つ建築作品です。1階には柱で支えられたピロティがあります。

──ル・コルビュジエの設計に日本らしさを埋め込んだわけですね。実際にはどのようにして木目を付けたのでしょうか?

尾賀:この木目は、現在は入手困難な姫小松という希少な松で付けられました。約4cm幅の板を張り巡らせて風呂桶のようなものを用意し、そこにコンクリートを流し込んで造っていったのです。番組では、58年前に建築現場に携わった方の貴重な証言も取材できました。木目の柱の建造は非常に手間のかかる作業ですが、採算を度外視してでも世界一の柱を造ろうと、挑戦したそうです。また、当時建築に携わった清水建設にご協力いただき、柱に木目を付ける作業を再現してもらいました。西洋美術館の木目の柱が誕生するシーンをご覧いただきます。

館内にも数多く配置されているコンクリートの柱に近づいてみると、表面に木目の模様があしらわれていることが分かります。これは、日本の建築家が日本らしさを演出するために考えたものです。

──最後にあらためて、番組の見どころを教えてください

尾賀:ル・コルビュジエという偉大な建築家を30分にまとめることは非常に難しい作業でしたが、番組を通して、現在のわれわれが暮らす住居の原点を作った人、またそこに関わった人、そして今も関わっている人の「想い」を伝えたいと思っています。また、建築になじみのない方にも、興味を持ってもらえる橋渡しの役割になればと思います。番組を見終わってから街を歩くと、そこにはル・コルビュジエの影響を受けたのではないかと思わせる建築が、そこかしこにあることに気が付くはずです。

実際に柱の作り方を再現してもらいました。約4cm幅の板を並べて円柱を作り、コンクリートを流し込んで固めます。これを組み上げて柱としました。たいへん手間のかかる作業です。柱の写真を見たル・コルビュジエは、日本特有の質の良さを誉めたといいます。