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2016年10月23日放送「ル・コルビュジエの建築作品」

2016年7月、東京で初めての文化遺産が誕生しました。7カ国にまたがる17作品で構成される「ル・コルビュジエの建築作品」のうちの1つとして、上野の国立西洋美術館が登録されたのです。ル・コルビュジエは、近代の建築に最も影響を与えた建築家といえます。既成概念にとらわれず、鉄筋コンクリートを生かしたモダンでシンプルなデザインの住居は人々を驚かせました。そんなル・コルビュジエの建築作品をフランスと日本で取材した尾賀ディレクターに、話を聞きました。

鉄筋コンクリートが実現した建築の革命

ル・コルビュジエ以前のヨーロッパの建物は多くがレンガや石で造られ、豪奢な装飾が壁や柱を彩った、重々しい建て構えでした。ル・コルビュジエは、それをガラリと変え、暮らしやすく便利で、明るく自由な空間を持つ住居を造りました。フランスに建築された、2つの異なるタイプの住居には、その特徴が色濃く表れていました。

──今回は複数の国にまたがる世界遺産ですね。まずはどういった内容の番組になるのか、教えてください。

尾賀ディレクター(以下、尾賀):はい。ル・コルビュジエは近代建築の三大巨匠のひとりに挙げられる建築家です。フランスを拠点にし、20世紀初頭から中期にかけて多くの建築作品を残しました。従来のレンガや石造りの重々しい建物とは違って、鉄筋コンクリートを活用し、シンプルで、より便利な生活ができる場を目指した近代建築の礎を作った建築家といえます。そんなル・コルビュジエの作品の中から、彼のユニークなこだわりが込められた建築を紹介します。そして、東京で登録された初めての文化遺産である上野の国立西洋美術館も登場します。

柱が並ぶ1階部分のピロティ、大きな窓が並ぶデザインなど、ル・コルビュジエの建築作品の特徴を備えるサヴォア邸。当時の人々には「地上に舞い降りた宇宙船」と呼ばれました。

──ル・コルビュジエがこだわった建築作品には、どういった特徴があるのですか?

尾賀: 1931年に建てられた個人向けの別荘、サヴォア邸で説明しましょう。ル・コルビュジエはこのころ「近代建築の5原則」を提唱し、サヴォワ邸はその原則が見事に取り入れられた建築です。まず、「自由な平面」と「連続する窓」。壁によって支えられていた石造りの建物とは違い、柱で支える近代建築では空間を自由に作り、壁に窓を並べることを可能にしました。サヴォア邸には広い間取りの居間が作られ、大きな窓が並ぶ明るい空間になっています。次に、「自由な壁面」です。サヴォア邸は、室内を明るく快適な空間しつつ、外観も自由にデザインされた建物になっています。「屋上の庭園」も原則の1つです。屋根ではなく屋上には庭園があり、癒しの空間になる一方で、植物や土が暑さや寒さを和らげます。そして、1階部分に造られた「ピロティ」です。これは、建物を柱で支えることで実現したスペースで、自由に通り抜けられる空間を作りました。

屋上の庭園も、ル・コルビュジエの建築作品の特徴です。日当たりのいい屋上に癒しの空間を作り上げています。

──なるほど。今ではよく見られる建物の構造ですが、当時としては画期的だったのですね。

尾賀:そうです。ル・コルビュジエの有名な言葉で「住宅は住むための機械である」というものがあります。それは一見突き放したような印象を与えますが、実は機能的な住居をデザインし、そこで暮らす人のことを誰よりも考えていたのです。例えば、ピロティに車を停めれば雨に濡れることなく家の中に移動できるなど、ル・コルビュジエの住居は常に便利さや快適さを追求してデザインされていました。

──ル・コルビュジエのこだわりは、見た目だけではなく機能性にもあるのですね。次に紹介する建築作品は何でしょうか?

尾賀:フランスのマルセイユにあるユニテ・ダビタシオンです。ル・コルビュジエの建築の特徴を備えた巨大な集合住宅で、1955年に建設されました。1階部分は太い柱で支えられたピロティになっており、建物の中にはお店や保育園、屋上にはプールもあります。18階建てで334戸に最大1600人が暮らせるという規模の大きさも、建物全体を街にしようとしたコンセプトも、当時としては画期的でした。現在の集合住宅の基礎を築いた建築作品とされています。

1955年竣工のマルセイユのユニテ・ダビタシオンは、現在のマンションの基礎を造ったといえます。コンクリート打ちっ放しの巨大な柱で支えられたピロティによる空間は、現在は駐輪場などに利用されています。

──ユニテ・ダビタシオンには、今も人が住んでいるのですか?

尾賀:はい。今でも多くの人が暮らしていています。その中の1人を取材し、部屋を見せてもらいました。建築事務所で働いている女性で、職場もユニテ・ダビタシオンの中にあります。部屋は光の入り方が特徴的でした。メゾネットになっていて、朝は1階部分に東から光が入り、夕方は2階の窓から西側の光が入ってくるようになっているのです。ル・コルビュジエのコンセプトを楽しみながら生活しているようでした。そのほか、キッチンにまでもル・コルビュジエのこだわりが詰まった住居は、番組でご覧ください。

現在も多くの人が暮らすユニテ・ダビタシオン。ここに暮らしている女性を取材しました。光あふれる部屋での、快適な暮らしを紹介します。

──ユニテ・ダビタシオンには、観光客も入ることができるのでしょうか?

尾賀:はい。中にはカフェ・レストランもありますし、4階にはホテル・ル・コルビュジエというホテルがあって、宿泊することもできます。世界の建築に影響を与えた建物に宿泊して、世界遺産を体感するのもいいと思います。

ユニテ・ダビタシオンの中には、カフェ・レストランなど、社交場も用意されています。保育園やプールも作られ、建物を1つの街にするというル・コルビュジエのコンセプトが生きています。