特集

2016年9月25日放送「嚴島神社」

850年!海に浮かぶ美しい神社

瀬戸内海に浮かぶ安芸の宮島。嚴島とも呼ばれるこの島は、遠い昔から神の島として崇められてきました。嚴島神社が現在の姿になったのは約850年前、平清盛が建立しました。神の島の陸地には社殿を建てられないため、海の上に建てられたのです。建築物にとって厳しいはずの海の上で、今なお壮麗な姿を保ち続けていられるのはなぜなのか──久留島ディレクターがその秘密に迫りました。

嵐にも耐える社殿の秘密

平清盛が造営したという、現在の嚴島神社。満潮時には海に浮かんでいるように見える美しい社殿が特徴です。しかしそれは一方で、常に海水にさらされることになり、特に木造の建築物は傷みが進行してしまうはずです。ではなぜ今も美しい姿を保っていられるのか? そこにはさまざま工夫と努力が隠されていました。

──まずは今回の世界遺産について教えてください。

久留島ディレクター(以下、久留島):広島県の西部、瀬戸内海の島である嚴島の北西部に建てられた、嚴島神社です。背後には弥山という山があり、山麓に広がる原始林と共に、世界遺産として登録されています。干潟に建てられた社殿と鳥居は、満潮時には海に浮かぶように見え、その美しい風景が世界的に有名です。

海の中に立つ大鳥居の奥には、海面に浮かぶようにたたずむ嚴島神社の社殿が見えます。まずは海に建てられた鳥居がどうやって、立っていられるのかを調べました。

──嚴島神社と言えば、やはり海に浮かぶ大鳥居と美しい社殿を思い浮かべますね。そして素朴な疑問として、海にさらされた厳しい環境で、なぜ木造の建物が耐えられるのか気になります。

久留島:そうですよね。現在の姿の社殿が建てられたのは850年も前、社殿の下は何本もの柱で支えられていて、満潮になったときに海面ギリギリに浮かんでいるように見えます。今回の番組では、嚴島神社がなぜ美しい姿を保っていられるのか、その秘密に迫りました。

潮が引くと、大鳥居まで歩いて近づくことができます。しかし根元は砂に埋まっていて、どうして砂の上に建っていられるのかは分かりません。

──まず鳥居についておうかがいします。海の中ということは砂の上に建てられたということになりますが、そんな不安定な場所にあのような巨大な鳥居が立っているのは不思議に思えます。

久留島:嚴島神社の鳥居は6本の柱で支えられた安定感のある構造になっていますが、そのままでは海底の砂が流れて埋まり、倒れてしまいます。干潮になると鳥居の下まで歩いて行くことができるので、実際にご覧になった方もいると思いますが、根元は砂に埋まっていてその下がどうなっているのかよく分かりません。66年前に行われた昭和の大修理の資料に、その答がありました。

──貴重な資料が残されていたのですね。鳥居の根元はどのようになっているのでしょうか?

久留島:保管されていた資料には、修理中の写真も残されていました。そこには千本杭という何十本もの松の杭を束ねたものが写っていました。それを地中に打ち込んで土台とし、鳥居はその上に乗っているだけなのです。鳥居の屋根の部分に空洞があって、中には砂利が詰められていました。そうすることで鳥居の重さは約60トンとなり、その重みで波の力や海風にも耐えているのです。

昭和の大修理の資料によると、鳥居の柱の下には松の杭を束ねた千本杭が埋められており、鳥居はその上に乗っているだけなのです。

──乗っているだけとは意外です。絶妙なバランスが取られていたわけですね。一方の社殿ですが、こちらも海にさらされた状態なので腐食などの傷みが気になります。どのようにして維持しているのでしょうか?

久留島:特別に許可をいただき、社殿の床下にカメラが入りました。床下には建物を支える床柱が並んでいるのですが、ほとんどの柱は部分的に新しい木材が継がれていました。具体的には、傷んだ部分を削り取って、同じ形の部材を継ぎ足しているのです。

海面ギリギリになるように建てられた社殿は、たくさんの柱で支えられていました。ほとんどの柱が継がれていて、交換されていました。

──海面ギリギリに浮かぶ社殿の美しさは、細やかな修繕作業で支えられていたのですね。

久留島:そうなんです。しかし、美しく見せるために満潮時に海面ギリギリになるように設計されているため、台風や高潮の影響でどうしても冠水してしまうことがあります。そんな時のための工夫が、床板にありました。よく見ると床板がすき間だらけなのです。これは高い波が寄せてきたときに、床全体が波の衝撃を受け止めないようにすき間を作り、逃げを作っているのです。また、海の方に張り出している平舞台は、石の上に乗せてあるだけで、冠水すると筏のように浮かぶことで衝撃を和らげる仕掛けになっています。

床板にも工夫がありました。板と板の間に見えるすき間は、わざと開けられたもの。高潮などで波が打ち寄せたとき、衝撃を逃がすのです。

──海面に浮かぶようなたたずまいを維持していくために、さまざまな工夫が込められていることが分かりました。普段は見られない映像が見られそうですね。

久留島:今回特別に許可をいただき、海水に浸かっている大鳥居の根元を水中カメラマンが撮影しました。大鳥居の柱の根元で、牡蠣やイソギンチャクなどの海洋生物が生き生きと暮らしている様子が見られました。嚴島神社の大鳥居の、新たな一面を見た思いがしました。