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2016年4月10日、24日 放送20周年スペシャル「大河ナイル 6700キロの旅 I・II」

The Nile

古代エジプト文明を生んだ世界最長の川を行く

4月10日、24日の放送は、「大河ナイル 6700キロの旅」です。アフリカ大陸を流れる大河ナイルは、古代エジプト文明を生み出した川として有名です。その川岸には4500年も前から数々のピラミッドや巨大な神殿が築かれ、世界遺産にいくつも登録されています。源流から河口までの距離は、実に約6700キロ。番組では、赤道直下の山から地中海まで、世界遺産を訪ねながらナイル川を船で旅します。

氷河の一滴から黄金の国へ

アフリカ内陸の山地から流れ出し、スーダンやエジプトの砂漠地帯を通りぬけ、地中海に注ぎ込むナイル川。上流は、白ナイルと青ナイルの2つに分かれており、その水源には氷河とマグマ、2つの世界があります。ナイル川の最初の一滴が落ちる場所からスーダンまでを取材した小澤ディレクターと、古代文明の発祥の地であるエジプトを取材した石渡ディレクターにそれぞれ話を聞きました。

──放送20周年スペシャル「大河ナイル6700キロの旅」ですが、まずは番組の概要について教えてください。

石渡ディレクター(以下、石渡):今回の主役は、みなさんよくご存じのナイル川です。ナイル川はエジプトだけでなくスーダンを流れていて、その源流は赤道直下の山地にまでさかのぼります。今回は、ナイル川の最初の一滴が流れ出す氷河から河口がある地中海まで、約6700キロの行程を旅します。1週目の放送では、源流からスーダンを抜け、エジプトのアブシンベル神殿までを紹介します。

白ナイルの起点となるルウェンゾリ山。ふもとは熱帯雨林ですが、頂上付近は赤道直下にもかかわらず氷河があります。

──壮大な旅になりそうですね。では、ナイル川の源流から中流まで取材した小澤ディレクターにお話を聞かせていただきます。ナイル川の源流はどんな場所にあるのでしょうか?

小澤ディレクター(以下、小澤):ナイル川を上流に向かってたどると、スーダンで白ナイルと青ナイルと呼ばれる2つの川に分かれます。白ナイルの水源は、ウガンダにあるルウェンゾリ山地にあります。ルウェンゾリ山はアフリカ第3の高さを誇る山で、赤道直下にある山頂は標高5109メートルです。ふもとは湿気の多いジャングルですが、山頂付近には何と氷河があります。そこからしたたるしずくが、ナイル川の最初の一滴なのです。

一方の青ナイルの起点は、断崖絶壁のシミエン山地。活発なマグマの活動が生んだ地形です。歯茎をむき出す姿が特徴的なゲラダヒヒが生息する場所です。

──ふもとは熱帯雨林のジャングルなのに、山頂に登ると氷河とは厳しい条件での取材でしたね。一方の青ナイルの水源はどんな場所でしたか?

小澤:青ナイルの流れは、標高4000メートルを超える高地、エチオピアのシミエン国立公園から始まります。落差1000メートルを超える絶壁がある険しい地形が特徴で、そこにはゲラダヒヒという固有種の猿が暮らしています。この激しい地形は、大地の隆起と火山の巨大噴火が造り上げたものです。周辺には、今も活発に活動を続けるマグマの湖があります。

白ナイル(左)と青ナイル(右)は、スーダンのハルツームで合流します。

──白ナイルは氷河、青ナイルはマグマという地球規模のダイナミックな営みから、ナイル川は生まれているのですね。その2つの川が合流するのはどこでしょうか?

小澤:白ナイルと青ナイルが合流するのは、スーダンの首都ハルツームです。合流ポイントは三角州になっていて、2つの川がぶつかる様子がよくわかります。ここはかつて、黄金が生んだ黒人の国、クシュ王国の領土でした。金は、街の周辺に広がるヌビア砂漠の岩盤から採れます。この金を求めて、古代エジプトはこの地を支配しました。今でもエジプトに支配されていた頃の名残があります。

ハルツームは黄金の町。かつてエジプトは、金を求めてこの地域を支配しました。金はファラオの権威を誇示するものだったのです。

──こんな上流までエジプトが支配していたのですね。その名残とはいったい何ですか?

小澤:世界遺産にも登録されているゲベル・バルカルという岩山があります。ゲベル・バルカルは、エジプト人が聖なる山として祀ったものでしたが、その近くにあるピラミッドは、クシュ王国が築いたものです。その聖なる山をクシュ王国も聖地にして、かたわらに王の墓であるピラミッドを築きました。そこにはエジプト文明に対する憧れがあったようです。実はクシュ王国はその後、逆にエジプトを侵略し、70年間ほど統治下に収めています。エジプトから撤退した後も、1000年にわたってこの地にピラミッドを造り続けました。高さは10〜20メートルくらいで、本家のピラミッドよりも尖っているのが特徴です。

ゲベル・バルカル周辺には、王の墓としてのピラミッドが残されています。エジプトの支配が終わったあとも1000年にわたってピラミッドの建設が続けられました。

──そして、ナイル川はエジプトに入っていきますね。ここからは再び、石渡ディレクターにお話を聞きます。エジプトに入って最初に登場するのは、アブシンベル神殿ですね。

石渡:はい。エジプトとスーダンの国境付近では、ナイル川は巨大な湖になっています。このナセル湖は、1970年に完成したアスワンハイダムによって生まれた、全長550キロにわたる人造湖です。アブシンベル神殿は、実はこの湖に沈んでしまう場所にありました。しかし、この遺跡を救うために神殿と石像を高台に移設することにしたのです。

アスワンハイダムの影響で湖に沈むはずだったアブシンベル神殿を救出するため、巨大な石像をノコギリで切断して運びました。近くで見ると、切断した跡がわかります。

──このような巨大な石像をどうやって移動させたのでしょうか?

石渡:ノコギリで切断して運んだのです。この大工事に携わった人がまだ健在で、現地で会うことができました。それがどのような移設工事だったのか、直接話を聞いています。ノコギリで切るという、一見大胆な手法ですが、実際には繊細で慎重な作業が必要とされました。