特集

2015年5月10日放送 「村をのみこむ溶岩の島」 ハワイ火山国立公園

女神ペレとハワイの神話

ハワイの神話に登場する火山の女神ペレは、奔放で美しいが嫉妬深く、怒りに触れると火山を爆発させる激しさを持っていた。ハワイの人々はペレを敬い、火山の爆発は彼女の怒りとして恐れている。彼らの生活は今でもハワイの神話に根ざしているのだ。キラウエア火山を始めとするハワイ島の苛烈な火山活動は、人々の生活に深刻な被害をもたらしているが、今でも人々は神話の一部としてそれを受け入れている。

火山の島、ハワイ島

キラウエア火山を始めとするハワイ島の火山は、今も活発に活動している活火山であり、大量の溶岩を流出し続けている。溶岩流はそこで暮らす人々の脅威となっており、1991年にはカラパナ村が溶岩によって消滅した。また2014年には、流れが変わった溶岩が近隣のパホア村に達し、今まさに溶岩が流れ込んでくる事態となっている。今も被害が広がる村にカメラが入った。

─今回の世界遺産は「ハワイ火山国立公園」ですが、ハワイの中でも最も大きな島、ハワイ島が主役ですね。

奥村健太ディレクター(以下、奥村):ハワイ火山国立公園は、ハワイ島の南東にあるキラウエア火山を中心とした火山地帯です。現在も激しい火山活動が続いていて、周辺には深刻な被害が広がっています。まずはその状況を見てきました。

パホア村に流れ込んだ溶岩。1200度の高熱ですべてを焼き尽くしていきます。村に深刻な被害を与えました。

─昨年ニュースでも報道されていましたが、近隣の村に溶岩が流れ込んでいるようですね。実際の被害をご覧になっていかがでしたか?

奥村:被害を受けたパホア村を、特別に許可をもらって取材してきました。危険なため現在は市民防衛局による警備が行われていて、住民以外は入ることができません。村に入ると、周囲には焦げたにおいが立ちこめています。流れ込んできた溶岩が冷えて固まり、小山のような存在感で横たわっている様子には圧倒されました。近隣の日系人墓地にも到達していて、墓石が溶岩に飲み込まれた情景は痛ましいものでした。

─何とかして溶岩を止めることはできないのでしょうか?

溶岩が流れ込んだパホア村の日系人墓地。墓石が飲み込まれる痛ましい光景が広がっていました。

村に流れ込んで溶岩は冷えて固まり、山のように横たわっていました。こうなるともう撤去することもできません。しかし、人々はそれを受け入れていました。

奥村:多くの施設や牧草地、もちろん住宅も被害に遭いました。しかし、彼らは溶岩を止めることはしないのです。流出し続ける1200度の高温のマグマは、止める手立てがほとんどありません。

また、仮に止めたとしてもそれによって流れが変わるだけで、別のところに被害が広がる可能性があります。そして何よりも、住民にはキラウエア火山の噴火は女神ペレの怒りだという神話の信仰があります。ペレの怒りを受け入れるという考え方が根底にあるため、なすがままなのです。

──それが火山や溶岩と共に暮らしてきた人々の考え方なのですね。

奥村:はい。またハワイの人々は、溶岩は破壊するだけのものではないという考えも持っています。確かに、溶岩は様々なものを破壊しますが、最終的に海に流れ落ちて新しい土地を作り出してくれるわけです。ミネラルを多く含む溶岩は、実は豊かな土地の元になっていて、その証拠が火口の周辺で見られました。そのひとつが、約50年前の噴火では570メートルの火柱が上がったというイキ火口周辺です。そこでは、コケのような地衣類が発生して徐々に溶岩を砕き、植物が生え、やがて森になっていく様子が分かります。

海に流れ込んだ溶岩は水蒸気爆発を起こしながらも冷えて固まり、新しい土地を生み出していきます。

─たった50年前の噴火の跡地で、そのような変化が観察できるのですか。

奥村:そうです。そこで何が起きているのかを番組で紹介しています。絶海の孤島がこれだけ豊かな土地になった理由も、そこにありますね。ハワイ島は、地球の成長や変化の様子をすべて見ることができる奇跡の場所なのです。

溶岩が流れた跡に出来上がる、溶岩洞窟も冒険しました。生物をほとんど見ることのない洞窟の先には、生命力あふれる世界が広がっていました。