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運河キングダム・イギリス 産業革命を支えた世界遺産「ポントカサステ水路橋と運河」

イギリスの産業革命を発展させた運河網THE世界遺産ディレクター取材記

―当時の最新技術だったのですね。わざわざ船が通る橋を作るほど、運河の整備に力を入れていたのはなぜでしょうか?

イギリスの産業革命を発展させた運河網THE世界遺産ディレクター取材記

愛場:18世紀に起きた産業革命が理由です。工場制機械工業が始まり大量生産が可能になったことで、さまざまな産業が生まれました。そのなかで、例えば鉱山で採れた鉄鉱石を、製鉄所へ運んで鉄に加工する。さらにその鉄を港や工場へ運ぶ。このときの輸送手段として、水路が作られたのです。それまでは馬車で運んでいたのですが、時間やコストが大きくかかります。しかし船の場合、馬車と比べて25倍もの量を一度で運べました。

―なるほど。物流のために運河は発達したんですね。

愛場:運河は物流のネットワークとして産業革命を支え、飛躍的に発展させました。その産業の発展のなかで、蒸気機関車が発明されます。1825年には、イギリスで世界初の商用鉄道が登場しました。船よりも速く、多くの量を運べる鉄道によって、運河はあっという間に物流の主役の座を奪われてしまいます。現在利用されているイギリスの運河は、レジャー用に復活したものなんです。

―時代の変化で廃れてしまった運河が、レジャーとして復活したきっかけは何だったのでしょうか?

愛場:第二次世界大戦後、1960年代にイギリスで起こった、「ナショナルトラスト」という自然や歴史に関わる保護運動が始まりです。自然や、蒸気機関車などの古いものを大切にしようという動きのなかで、運河も注目されました。また、戦後は人々に余裕が生まれ、レジャーに目が向いたということもあります。運河はメンテナンスもされず放置されていて、水が止まっている場所もありましたが、現在は6000kmのうち3000kmくらいが整備され、使われています。

―運河でレジャーを楽しむというと、どんな船に乗っているのでしょうか?

イギリスの産業革命を発展させた運河網THE世界遺産ディレクター取材記

愛場:運河を走る船は、「ナローボート」といいます。現在レジャー用に使われている船は、観光用と船上で暮らすためのものです。幅が約2mしかない細長い船で、この形は昔と同じです。長さは自由ですが、18世紀の運送用の船は平均約17mでした。このユニークな形はイギリスにしかありません。イギリスの運河の特徴は距離の長さだと話しましたが、もう一つの特徴は川幅の狭さです。建設費用と時間の削減で川幅を狭くしたため、そこを走る船の幅はたったの2mになりました。そして荷物をより多く運ぶため、狭くした分を長さで補ったら17mという長さになったのです。