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コロンビア・コーヒーの文化的景観

THE世界遺産ディレクター取材記

―農園の土地は機械化ができないほど急斜面であるというお話がありましたが、コーヒー農園とはどういう風景なのですか?

コロンビア・コーヒーの文化的景観

江夏:コロンビアのコーヒー農園は傾斜40~45度にもなる山あいの斜面にあり、山の頂上に農家の家がある風景が多いです。斜面にはコーヒーの木と一緒に、バナナの木が植えられています。これはコロンビアの農家の工夫のひとつです。コーヒーの木が人の背丈くらいなのに対し、バナナの木は2メートルほどの高さがあります。夏場の強い日差しからコーヒーの葉が焼けないように、日陰を作って守る役割をしてくれるのです。また、コロンビアではバナナがよく食べられているため、農家の副収入にもなります。

―バナナの木を植えれば一石二鳥となるわけですね。しかし、なぜわざわざ山の急斜面に農園があるのですか?

江夏:アンデス山脈の気候や地形が、コーヒーの生育にとても適しているからです。標高の高い場所は昼夜の寒暖の差が大きく、コーヒーの実が収縮と膨張を繰り返しておいしくなります。また赤道に近くて標高の高い場所では、頻繁に雲が発生し雨が豊富です。なおかつ山の急斜面が水はけをよくしてくれるため、根が腐らずにおいしいコーヒーができるのです。

―その土地の要素を最大限に活用しているのですね。しかし農業の機械化ができず、大量生産が難しいという条件の中で、世界中に輸出できるほどコーヒー生産が盛んになったのはどうしてですか?

江夏:コロンビアコーヒー生産者連合会(FNC)という組織の影響力が大きいと思います。これは1927年に設立された組織なのですが、コロンビアコーヒーはこの組織によって国際的な広告戦略が図られてきました。コロンビアで生産されたコーヒーには、品質を保証するFNC認定のロゴマークが付けられています。

―このロゴマークに描かれているおじさんは誰ですか?

コロンビア・コーヒーの文化的景観

江夏:このおじさんは「フアン・バルデス」という架空のキャラクターです。コロンビアで大人気の人物で、テレビCMなどではイラストだけでなく、モデルを起用した、実写版の“おじさん”もいます。2代目までは俳優によって演じられていましたが、現在3代目フアン・バルデスさんは元コーヒー生産者の方が演じているんです。このロゴに描かれているような、素朴で実直なおじさんが、手間暇をかけてコロンビアコーヒーを生産している、というイメージがアピールポイントになっているようです。