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コロンビア・コーヒーの文化的景観

THE世界遺産ディレクター取材記

―「コロンビア」と聞くと、誘拐や麻薬といった治安がよくないというイメージが先行してしまうのですが、実際に取材に行った印象はどうでしたか?

コロンビア・コーヒーの文化的景観

江夏ディレクター(以下:江夏):実はコロンビアは現在、観光大国です。都市部では観光化が進み、旅行者を積極的に誘致しています。取材に行ったマニサレスという都市は、アンデス山脈の山あいにビル群を持つ大規模な都市で、治安も良いところですよ。今回はマニサレス周辺にある「世界遺産コーヒーの文化的景観」を取材しました。

―コロンビアが観光大国なのは意外ですね。ところで「コーヒーの文化的景観」とは、どういった世界遺産なのでしょうか?

江夏:「コロンビア・コーヒーの文化的景観」は、6つのコーヒー農園地域の景観群から構成されています。この6つの地域の中には、アンデス山脈の山間や丘陵地、なかには都市部なども含まれています。これらの地域の特徴的な地形や気候がコーヒー生産に活用され、人々の知恵や工夫が反映されています。コロンビアのコーヒーの歴史は意外と浅く、本格的にコーヒー生産が始まったのは100年ほど前のこと。世界で最も多くコーヒーを生産するブラジルが本格的に栽培を始めたのが、今から250年ほど前とされていますから、コロンビアではそれよりもずっと短い期間でコーヒー産業に取り組んできたことになります。それでも現在は生産量世界第3位なんですよ。

―生産量が世界第3位ということは、コロンビアには大規模農園があるのでしょうか?

コロンビア・コーヒーの文化的景観

江夏:実はコロンビアではコーヒーの大規模農園はほんの一部しかなく、ほとんどの生産が小農園で行われています。というのも、ほとんどの農園の土地が、アンデス山脈の山奥にあり、急斜面のために農業の機械化ができないからです。大量生産による効率性は下がってしまいますが、そのかわりにコーヒー豆の収穫がすべて手摘みで行われ、上質な品質管理ができています。コーヒーの実は、緑色の実が赤く熟した時が最も味がよくなる完熟のサインです。そのサインは枝によってばらつきがあり、収穫のタイミングも異なります。農業を機械化していないから、赤く完熟した実だけを一つ一つ手摘みで収穫することができるのです。