特集

第36回世界遺産委員会報告

6月24日より、第36回世界遺産委員会がロシアのサンクトペテルブルグで行われています。その模様を世界遺産のスタッフが現地からレポートしていきます。 レポートは到着次第、特集ページにアップしていきますのでお楽しみに!

委員会報告9 【会議五日目】
6月29日(金)
世界遺産委員会レポート

今日から、いよいよ新しい世界遺産を決める審議が始まりました。

注目はユネスコに加盟したばかりのパレスチナが、緊急登録を申請した「ベツレヘムのキリスト聖誕教会」。
 
パレスチナは、昨年10月にユネスコへの加盟が認められ、世界遺産条約も批准。「国家」として、国際社会に参加する場を得たのです(ちなみに、昨年にブルネイ・ダルサラームも批准し、世界遺産条約に加盟する国は189カ国になりました。これは、国際条約の中で、もっとも締約国が多い条約になります)。

この加盟めぐっては、イスラエル寄りのアメリカが反発。ユネスコへの拠出金をストップする事態になりました。

今回、「キリスト聖誕教会」が世界遺産に登録されることになれば、パレスチナは「国家」としての存在感をさらに増すこととなるので、アメリカ、イスラエルの反応をふくめ、注目の的だったのです。

「キリスト聖誕教会」は、キリストの生誕地の上に作られたとされる教会です。

「アラブ人のパレスチナが、なぜキリストを?」と思われるかもしれませんが、キリストはイスラームでも偉大な預言者のひとりとされているのです。

パレスチナは、大規模な修復に着手できていないこと、イスラエル軍による監視下で自由が制限され、資材を調達できないことなどを理由に、緊急登録を申請しました。

これに対しICOMOSの事前評価は、適切な管理・修復作業が行われていないことは認めながらも、緊急に登録・保護するほど劣悪な状態にはなっていないと判断し、「緊急登録を認めず」。世界遺産委員会が始まる前の予想では、世界遺産への登録は難しいと思われていました。

ところが、フタを開けてみると、「緊急登録して、危機遺産リストにも同時に登録しよう」という提案が出て、審議の結果、世界遺産への登録が決まってしまったのです。

大番狂わせに、場内は騒然となりました。

世界遺産登録を通じて、国際社会の中での地位を高めようというパレスチナの戦略。世界遺産委員会は、国際政治の駆け引きの舞台でもあるのです。

この日は、さらに、「カルメル山にある人類進化の遺跡群(イスラエル)」、「バリ州の文化的景観(インドネシア)」、「バサリ地方:バサリ族、フラ族、ベディック族の文化的景観(セネガル)」、「ザナドゥの遺跡(中国)」、「ラバト、現代の首都と歴史都市(モロッコ)」、「グラン=バッサムの歴史都市(コートジボワール)」の6つが、文化遺産として登録が決定。さらに複合遺産として、「ロック諸島南部の干潟(パラオ)」が決まりました。パラオは、これが初めての世界遺産です。

「キリスト聖誕教会」と併せて、8つの世界遺産が新たに生まれた一日でした。

プロデューサー 堤