インタビュー Interview

阿部寛×安田顕×立川談春

  • この鼎談はクランクイン直後に行いました

2015年に放送した『下町ロケット』の反響で、一番うれしかった声をお聞かせください。

阿部寛さん(以下、阿部):幅広い層の方から“勇気をもらえるドラマ”だと言っていただけたこと、実際にモノづくりをしている方々から“『下町ロケット』を楽しみにしている”という声を聞けたことが、非常にうれしかったです。
安田顕さん(以下、安田):社長のおっしゃる通り!
阿部:(笑)
安田:居酒屋へ行ったときに、先輩方や同世代の方から励ましの言葉をたくさんいただきました。会社経営がうまくいっていない方、やさぐれちゃっているような方が、「ありがとう。がんばってみるよ」と言ってくださることもありました。それだけの思いを込めて『下町ロケット』を見てくださっているということが、とてもうれしかったです。
立川談春さん(以下、談春):落語家の大先輩から、「こういう売れ方があると思わなかったと」「ドラマに出演させていただけるのは凄いことだ」と言われました(笑)。僕自身が一番ビックリしましたけど、そんな風に言っていただけるのはうれしかったです。「どうやったら出られるんだ?」って聞かれて、「時の運です」と答えておきました(笑)。
一同:(笑)

クランクインした感想をお聞かせください

阿部:懐かしかったですね。佃製作所はセットなのですが、天井にもコンセントがあったり、壁が汚されていたりと、細部まで非常にリアルなので、実在する建物内で撮影しているようなんです。加えて、福澤監督はエキストラの方々ひとりひとりへの演出も行き届いていますし、非常に活気のある佃製作所を作り上げてくれるので、演者として幸せだなと。3年前の情熱が蘇りました。
安田:社長のおっしゃる通り。スタッフのみなさんや出演者のみなさんの熱さなのか、30度越えの気候なのか分からないですけど、汗が出てきました(笑)。熱気にあふれた現場に帰ってきたなと。
談春:オーケストラに例えると、指揮者はプロデューサーと監督。ファーストヴァイオリンは社長かな。ファーストヴァイオリンが音を鳴らすと、それに合わせて皆が音を鳴らす。 その速さに驚きました。俳優として素人の僕がいうのは何ですけど、それが3人のシーンでも、8人のシーンでも、できた!チームワークもいい、居心地もいい、すごい現場だな~と感動してしまいました。

3年ぶりの再会。久々に演じた感想と、土屋太鳳さん、竹内涼真さんら若手の成長をどう感じていますか?

阿部:談春さんとは3年ぶり。安田くんと前回ご一緒したときは、彼が犯罪者で(笑)
安田:前回ご一緒したときは犯罪者って(笑)役ですよ、役!
談春:犯罪者(笑)
阿部:犯罪者(笑)
一同:(笑)
安田:違うドラマでお会いした時は、たしかに“犯罪者”でした(笑)
阿部:見事な犯罪者でした(笑)。安田くんとはそれほど期間が空いていないので、離れていた感じがしないですね。他の皆さんも、それぞれ活躍している姿を拝見していたので、時間が経った感じはしないな。『下町ロケット』としては3年ぶりですが、“現場に入れば自然と合う”と分かるので、安心して撮影に挑ませてもらいました。
太鳳ちゃんも竹内もすごく活躍していてうれしい限りです。二人とも当時からプロ意識が高くこだわりを持って演じていたので、今後の撮影も楽しみです。
安田:そうですね。だいたい社長と同じことになってしまうんですけど(笑)。この3年間で、土屋さんも竹内さんも他の方々も、本人の強い思い、人に見えない努力、それを支えてくれる人がいて、死に物狂いでやってこられた結果が今の状況なのだろうと。今回、僕は勉強させていただこうという気持ちでいます。それと僕は竹内さんが大好きだから、挨拶がわりにいつも股間を触っていたんですけど、今回ばかりは股間を触れないなと。
阿部:触ってたよね。
安田:顔合わせのときに…
阿部:こんなスタートじゃ彼もやってられないよ。いきなり股間を触ってくるんだから。勇気があるな(笑)
安田:顔あわせのときに、おー!と思わず触っちゃったんです。そのあと、そうだ、そうだ、そうだったと。そこからはもう…(笑)
阿部:触ってないっけ?
安田:どうですかね(笑)。
談春:僕も、一日でも早くヤスケンさんに股間を触っていただける存在になりたいと思う今日この頃です(笑)。涼真くんは勢いがすごいですね。先日のロケでたまたま楽屋が一緒だったんです。海の家みたいな感じで。それぞれ自由に出番を待っていたのですが、遠巻きに涼真くんを見て、“もしかして、すごいものを見ているんじゃないかな”と。もっともっと活躍するだろうし、努力もしているだろうし、これをそばで見られているのはすごい事なんだろうなと思いました。

クランクインするにあたり、原作を読むなどの準備はされましたか?

阿部:特に何もしていません。たまたまNHKの番組でトラクターに乗っていたので、図らずも事前に準備ができたなと。原作も最後まで読んでないんです。原作と1話の台本がちょうど同じ頃に出来上がったのですが、内容が混ざらないように、まずは台本から読むことにしました。そういう感じで、行き当たりばったりでやっていこうかなと(笑)
安田:僕は…とりあえず“トランスミッション”…っていうものが大事だって。
阿部:研究したの?
安田:“トランスミッション”を検索してみました(笑)
一同:(笑)
安田:画像がいっぱいでてきて。それを見た上で現場に立ち……
阿部:それは俺も見た(笑)
安田:あとは社長に引っ張っていただいただけ。社長が行き当たりばったりとおっしゃったので、私も行き当たってばったりいこうかなと思っています(笑)
談春:原作を読んで驚きました。トラクターに乗るんですよ。僕は本当に不器用な人間なので、大丈夫かなと。ここだけの話、トラクターと耕運機を勘違いしていたぐらい。ダダダ〜っと土を耕せばいいのかと思っていたら、違った。これは大変だと思い、スタッフに相談して“特訓しましょう”となりまして。今後、集中特訓します。トラクター、デカいらしいので……。
阿部:デカいよ。結構複雑ですし。
談春:あらま。大丈夫かな。これはものすごく練習をしないとね。ということで、これから準備をします。
阿部:俺、談春さんからトラクターの乗り方を教わるってセリフがあったんですよ。昨日の台本を見たら、カットされてました(笑)
談春:(笑)
阿部:社長自ら運転する、に変わってた。(笑)
談春:そうかも(笑)。大丈夫かな?田んぼダメにしちゃうんじゃないかと心配です。
安田:(笑)
阿部:(笑)

普段、3人でどのような会話をされていますか?

阿部:意味のない会話が多いよね。どう?年収増えた?とか、どうしてる?とか書けるような内容ないよね(笑)
安田:ないですね。お化けを信じる?信じない?とか
阿部:そうそうそうそう
一同:(笑)
談春:こないだ多摩川で釣ったのはブラックバスじゃなかったとか。
阿部:そうそう。
安田:中本賢さん(笑)
談春:ブラックバスだと思ったのに、あれはブラックバスじゃないとか。今、多摩川はあゆが1000万匹遡上しているとか。そんな話をしていて「はい、出番です」って言われると、みんな瞬時に佃製作所員になる。初めはビックリしましたね。一緒にいればそうなるか?と思いましたが、そうではなくて。このチームは特別なのかな?
安田:漂う緊張感が…
談春:緊張感ありますね。
安田:この現場のすごいところ。漂う緊張感は何なんだって?

他とは違いますか?

安田:僕は違う気がします。いい方向の緊張感。
阿部:確かに緊張感あるね。
安田:昨日、開発部の社員たちに佃社長が檄を飛ばすシーンの撮影があったんです。社長が熱く語っているのを何度も聞いて、“きたきた、これだ!”と思い出して熱くなっていたわけですよ。それで「角度を変えて撮ります。少々お待ちください」と言われたので待っていたんですね。そしたら「安田くん…」と、阿部さんに呼ばれたんです。何かな?と思ってそばへ行ったら、「緊張ってどうやったら取れるんだ?」って。
一同:(笑)
安田:いやいや、今、すごい芝居されてたじゃないですか!と。
阿部:安田くん、心臓に毛が生えてそうじゃないですか。
安田:全く噛まないし、一発OKのお芝居を見せているのに、「安田くん。緊張ってどうやって取れるんだ?緊張してしょうがねえんだよ」って(笑)。こんな大先輩でも緊張するのかと。
阿部:前日に安田くんに同じ質問をされて。「どうやったら心臓に毛が生えますかね?」って。「君は十分、変な毛生えてる」と答えましたけど、そのお返しに。
一同:(笑)
安田:変な毛って(笑)
阿部:変な毛ね(笑)
安田:まともな毛は生えてないんですね(笑)

談春さんは緊張しましたか?

談春:大変でしたよ。クランクインのシーン。
阿部:談春さん、緊張する?
談春:クランクインのシーンで、阿部さんは1行、安田さんも1行、僕は3行セリフがあったんです。撮影が始まった途端、“ん?僕、バカになっちゃったかも”って。3行のセリフをABCDEと分けたとしたら、AEDBCみたいにぐちゃぐちゃになってしまって。3回くらい撮り直したら監督がきて「緊張しました?」って。
一同:(笑)
阿部:緊張してたんだね
談春:緊張してたんですね。池井戸作品で、続編で、すごく期待されていると過敏に思ってしまって。芸人だから、すごーく喜んでもらえないと意味がないと勝手に空回りして。緊張する前にセリフ言え!という空気を僕が作りました(笑)
一同:(笑)
談春:まず、落ち着けと。
阿部:まぁ、あれで現場ほぐれたよね(笑)
談春:佃製作所って言わなきゃいけないところを、帝国重工って言っちゃったり。
安田:見えない圧がすごいんですよね。「顔合わせ」の時も、部屋が狭いのか、人が多いんだか分からないんですけど、ものすごくTBSの方々が多くて。それを見たら、期待値っていうんですか…。
阿部:なんだろ、あれね。
安田:ものすごい圧が…。
談春:安田さんの名言。(顔合わせで)一言ご挨拶。「なんか、あの……小さい規模のオールスター感謝祭みたいな。こういう顔合わせは嫌です」とか言って、どんってウケけて(笑)
安田:(笑)
談春:編成の人が一番手をたたいて笑っていましたね。
一同:(笑)
安田:なんというか、続編ってすごいんですね。期待が。
阿部:そうですね
談春:感じましたね。あとは、『下町ロケット』の新シリーズをやると言ったら、みんな集まった。同じメンバーは佃製作所くらいかなと思ったら、そうじゃない。新しいキャストの方も素晴らしい方ばかりですし…。
阿部:古舘(伊知郎)さん緊張していたね。
談春:そうですね。
阿部:古舘さんが緊張している姿は貴重だなと。
安田:周りの人数ですよ、すごかったもん。
阿部:芝居なんか、ほぼ無いだろうし、でも、話始めたらさすがだったね(笑)。喋りだす前の緊張感は、これはなかなか見られないものをてるなと思って見てた(笑)

阿部さんは主演ですから、より圧を感じるのでは?

阿部:余裕のつもりでいたんですよ。それで、(本読みの時に)ギャグのつもりで訛るような芝居をやったんだけどウケけてくれなくて。俺、そういうことやっちゃいけないんだなと。島津ヒロシっていうところを、島津シロシってわざと言ったんだけど、スルーされて(笑)
談春:あれは、ツッコミづらいでしょ(笑)
阿部:マネージャーに、「あれウケなかったな」って言ったら、そういうパブリックイメージじゃないですからって(笑)
談春:それ、僕気づきました。けど、そのシーンに出てないから……
安田:地味だから拾いにくいですよ(笑)。
談春:本の読み合わせしていて、そのシーンに出てない人が「違うよ」ってつっこめないじゃないですか。
一同:(笑)
阿部:反省しました(笑)
安田:(笑)

圧というよりは、続編というプレッシャーの方がありますか?

阿部:そうですね。続編というプレッシャーは多少ありますね。ただ、会社というのは波にのって調子がいいときもあれば、突然奈落に落ちることもある。色々な事が起こるのは当然。ですから佃製作所にどんな困難が起ころうとも、そこに対して情熱を持って立ち向かう、純粋に生きる男たちを描いていきたいと。続編を意識するのではなく、佃の情熱に関しては貫き通していこうと思っています。
安田:『下町ロケット』は、佃製作所という下町の工場の社長である佃航平の生き様がドラマだと思うんです。何かが起きたときに、佃社長がどんな行動を取り、どんな言葉で伝えるのか…それを視聴者のみなさんは待っているような気がしていて。僕もいち視聴者としてそう思っているので、そこは前作と変わらない部分なのかなと。
阿部:俺ね、殿村が金持ち逃げするんじゃないかなと思ってさ(笑)
一同:(笑)
談春:意外にね
安田:そういう展開を期待している?(笑)
阿部:色々あって人間ドラマが大きく展開して(笑)
安田:殿村さんとヤマさん(山崎)が裏で手を組んじゃったりして。
阿部:(笑)
談春:逃げてね。
安田:裏切られちゃう。
阿部:それはホント困るなあ(笑)
談春:僕も困ります(笑)。
阿部:(笑)
談春:前作から3年。続編というプレッシャーはもちろんありますが、『下町ロケット ゴースト』は、今やるべきストーリーだと思っています。平成が終わる、気候も変化しつつある。進化進歩、未来へ、宇宙へ、と向いていた方向が、今度は深く掘り下げて大地へ。今の日本に寄り添う佃航平の姿…池井戸さんの着眼点は、本当にすごいなと思います。殿村はどうなっていくのかわからないけど…。
安田:大地へ。
談春:ロケットで宇宙を目指していたのに、今度は大地ですからねぇ。宇宙だけが進化でも未来でもないんだよ、と。
阿部:今までガソリンで走っていた車が、今は電気で走る世の中。すごいですよね。そうなった場合、新たな技術の影に、使われなくなる技術もある。その技術を今度は違う形で使えるように変化させていく。そういうところもしっかりと描かれていくと思います。
談春:佃航平は大変だってことですよね。ロケットを飛ばしたかったのに。
阿部:時代ですよ。
安田:時代です。
阿部:翻弄されていく。
談春:大変ですよね。

3年ぶりに演じるにあたり、前作を見返しましたか?

阿部:見てないですね。撮影現場へ行ってその日撮影する台本を見ると、福澤監督が佃航平の性格に合わせたセリフを書き足していたり、ト書きが加えられていたりするんです。そういった部分で、佃の熱さを引き出してくださるので、僕はそれをたよりながら演じています。
安田:僕もそうですね。
阿部:それによって、個性が生きてきますよ。僕だけじゃなくて、みなさんが。
談春:専門用語が突然変わったりするから、技術部長(山崎)は大変ですよね。前作の時は結構……
安田:あ〜。
阿部:すごかったよね。
安田:何これ?って
阿部:大変だったよね
安田:大変でしたね。うんうん。
阿部:前作見た?
安田:僕も見返していません。『下町ロケット』は、自分の中で美化されている作品なので、「なんか違う」と思いたくなくて。山崎のキャラクターに関しては、監督がきちんと導いてくださいますし。福澤監督って台本の解釈が字面だけじゃないんですよ。僕も台本を読んでイメージするんですけど、全く違う発想なので斬新です。それぞれのキャラクターを通して見せたい部分が固まっているので、僕はすべてお任せしています。今回改めて『下町ロケット』の歯車のひとつとしていさせて欲しいと思える演出だなと感じました。
談春:ほんとそうですよね。僕もすべて監督にお任せしています。

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